スポーツライター玉木正之氏の知的誠実さを問う

日本のサッカーカルチャーについてさまざま論じていきたいと思っています。

タグ:MLB

 以前、大谷翔平が在籍していたロサンゼルス・エンゼルス(Los Angeles Angels)。

 ロサンゼルスにあるから(厳密にはLA近郊のアナハイムだが)、ロサンゼルス・エンゼルス。これはすぐに納得できる。

 それでは、大谷翔平が今季からプレーする、同じLAのロサンゼルス・ドジャース(Los Angeles Dodgers)とは?

 インターネットが無かった昔、紙の英和辞典で「dodge」を引くと「(…を)さっと避ける,(…に)ひらりと身をかわす,巧みに回避する,ごまかす」という動詞が出てきて意味がよく分からなかった。
  • 参照:Weblio「dodgeとは 意味・読み方・使い方」https://ejje.weblio.jp/content/dodge
 しかし、今では「Dodgers」の名前の由来も広く知られるようになった。
  • 参照:What an Interesting World「ロサンゼルス・ドジャースはなぜドジャースというのか? その意味,由来についての詳細」(2018.1.19)https://tmbi-joho.com/2018/01/19/dodgers-origin/
  • 参照:雨宿り「[LAD]ロサンゼルス・ドジャースの歴史」(2023年12月24日)https://sports.yahoo.co.jp/official/detail/2023122100080-spnaviow
 この「ロサンゼルス・ドジャースの名前の由来」のひとくち話に、スポーツライターのあの玉木正之氏も参戦している。
 ロサンゼルス・ドジャースという球団の、「Dodgers」の意味は? という質問で、ヒントとして「Dodgers の dodge とは、ドッジボール(Dodgeball)のこと」と書いておいたので……〔略〕

 ……〔略〕「ドッジボールの名称は英語の dodge(素早く身をかわす)からきている」。つまりドッジボールとは、「ボールをぶつける遊び」ではなく、「ボールを避ける遊び」なのだ。そして、ドジャース(Dodgers)と、人を表す -er が付くと、「避ける人」という意味になる。

 これはロサンゼルス・ドジャースが、かつてはニューヨークのブルックリン区で生まれた野球チームであることに由来している。当時のブルックリンは、家が建て込んだ、道路の狭い下町で、しかもトロリーバス(路面電車)が走っていた。

 そこでブルックリンの子供たちが道路で遊んでいると、親たちはいつも子供たちに向かって、トロリーバスや自動車を「Dodge! Dodge!(避けろ! 避けろ!)」と叫んでいた。そこで、ブルックリンの子供たちはいつしか、「ドジャー(Dodger)」と呼ばれるようになったのであった。

 そのブルックリンに野球チームが創設されたのは、メジャーリーグの前身であるアメリカン・アソシエーションという組織の野球リーグが生まれたとき。最初(1884年)は、チーム名をアトランティックスとしていたのだが、その後、スーパーバス、トロリードジャース、ロビンスといった名称に変わり、1932年から、ブルックリン・ドジャース(ブルックリンの子供たち)が正式名称となった。

 広々としたカリフォルニアのロサンゼルスに本拠地を移したあとも、つまり子どもたちが道路で遊ぶこともなくなり、自動車を避けなくてもよくなったあとも、ドジャース(ブルックリンの子供たち)という名称は残したのだった。

 ……と説明が長くなってしまったが、この Dodgers という球団名の意味を知っている日本人はほとんど皆無……とまでは言わないまでも、ごく少数なのではないだろうか。

 オフサイドの説明のときにも書いたように、日本人はスポーツを体育として学んだ結果として、身体を鍛えることしか考えなくなっている。われわれ日本人は、スポーツに関するわからないことや言葉を、疑問にも思わず、調べようともしない癖が付いてしまっているのだ。

玉木正之「野球チームの名前の由来~ロサンゼルス・ドジャースって〈避ける〉チーム?」@『スポーツって、なんだ?』#5(春陽堂書店)https://www.shunyodo.co.jp/blog/2018/12/sports_5/
 この説明は、先に掲げた他の説明と大きな違いはない。ブルックリン・ドジャースを「ブルックリンの子供たち」(ブルックリンっ子)と意訳したのは、なかなか素晴らしいセンスだ。

 もっとも、自動車のバスと鉄道の路面電車を混同している間の抜けたところは、玉木正之氏の「あるある」であるが(爆)。

 日本プロ野球(NPB)の球団の愛称は、タイガース、ドラゴンズ、ライオンズ、スワローズなど「強い,美しい,格好いい,速い etc.」といったイメージで命名する。

 一方、アメリカのプロスポーツは、英語が母語でもあるから、このブルックリン・ドジャース同様、ボルチモア・オリオールズやカンザスシティ・ロイヤルズのように、本拠地の土地柄に馴染んだ愛称を付ける。

 「日本人はスポーツを体育として学んだ結果として……」云々というのは、玉木正之氏の説教臭いところだが、どうせ、ドッジボールとドジャースの共通性を持ち出すならば、サッカーで同じ語源を持つ「ドジング」(dodging)という概念があることを書いたらよかったのではないか?

 サッカーで1対1のボール奪取の場面で「ひらりと身をかわす」技術のことを「ドジング」という。
  • 参照:シェアトレ「[1vs1のディフェンスの基礎]ドジングの練習」https://www.sharetr-soccer.com/posts/view/1052
 もっとも、玉木正之氏は知らなかったようだが(爆)

 玉木正之氏は、Google検索やWikipedia日本語版で調べが付く程度の内容を、ドヤ顔で紹介しては得意がっている事が多い。それでも通用する、幸せな立場にいるスポーツライターが玉木正之氏なのである。

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メッシ+ノイアー=大谷翔平???
 投・打「二刀流」の日本人メジャーリーガー・大谷翔平をサッカーに例えたら? FWリオネル・メッシと、GKマヌエル・ノイアーという両ポジションのスーパースターを兼ねるようなもの?
  • 参照:THE DIGEST「大谷翔平の〈価値〉に欧州メディアが脱帽! 稀有な才能を独特表現で絶賛〈メッシとノイアーが1人の人間に〉」(2023.03.31)https://thedigestweb.com/baseball/detail/id=66690
 ……などという問いはほとんど意味がない。サッカーにおいて、このふたつが両立することは無いからだ。

 その昔、コロンビア代表(ナシオナルメデジン所属)のレネ・イギータという、ボールをドリブルして相手ゴール前まで駆け上がる、特異なゴールキーパー(GK)がいた。
  • 参照:西部謙司「現在のルールにも影響を与えた常識外れのGK.イギータは自由を満喫した」(2019年11月05日)https://sportiva.shueisha.co.jp/clm/football/wfootball/2019/11/05/gk_split/
 相手のスルーパスをカットするスイーパー的な役割を担う……など、ディフェンスにおいて時代を先取りするところ無きしもあらずであったが、彼は基本的に際物であった。

 すると大谷翔平も際物だということになり、そこでこの話は終わってしまう。

攻・守「二刀流」のNFLプレーヤー???
 それでは。攻守がルール上またポジション上、はっきり分かれるアメリカンフットボールならば、この例えはどうなるのか? バカバカしいが、敢えてやってみる。<1>

アメリカンフットボール(QBペイトン・マニング)
ペイトン・マニング(NFLインディアナポリス・コルツ)

 20**年、日本人初のNFLプレーヤーとしてドラフトされた大谷翔平は、しかし、20世紀前半まではアメリカンフットボールでも行われていた攻・守両面でのプレーを望み、所属チームもこれを認めた。

 すなわち、攻撃時はオフェンスの要QB(クオーターバック)として、守備時はディフェンスの要LB(ラインバッカー)として、大谷翔平はプレーする。
  • 参照:スポジョバ「アメフトのポジション一覧!役割を知ろう!」https://spojoba.com/articles/958
 周囲の懐疑的な声を跳ね返して、なるほど大谷翔平の攻・守「二刀流」は「通用」した。

 しかし、シーズンを通して「二刀流」でプレーする大谷翔平の肉体的な消耗は激しい。レギュラーシーズン後半には疲労が出て、欠場が多くなる。つまり、主力選手が2人分いっぺんに離脱することになる。そのためもあってか所属チームの成績も低迷、毎シーズン、負け越し続き。スーパーボウルはおろか、プレーオフにも出場できない。

 所属チームもジャパンマネーで経済的に潤いはしたけれども、チームとして勝てないのはもどかしい。本音では攻・守どちらかのポジションに専念してほしいと思っている。また、チームとして勝てないことに地元のファンは不満を抱いている。

 ……と、まぁ、こんなところか?

チームスポーツとしての野球と「二刀流」???
 もっとも、アメリカンフットボールは激しい肉体的接触があるスポーツだから、こんなことは現実には起こり得ない。

 大谷翔平の「二刀流」が何とか成り立っているのは、そういうスポーツではない野球(ベースボール)だからなのかもしれない。それでも、実は彼の肉体的な消耗は激しい。

 2021年はシーズン終盤で疲労が出て、9月後半以降は登板を回避した。

 2022年は打者の方で疲労が出て、9月11日以降にはホームランが出なくなった。

 2023年8月には、投球中に右ひじの靭帯を損傷して投手としてプレーすることが出来なくなった。

 2024シーズンは、その治療とリハビリのために「二刀流」はお預けである。

 また、彼が所属したロサンゼルス・エンゼルスも、移籍した2018年からずっと負け越しであった。つまり、ワールドシリーズはおろか、プレーオフにも出場できていない。

 いったい、「二刀流」とは、チームが勝つため、チームがプレーオフに進出するため、そしてワールドシリーズで優勝するために、本当に必要な「戦力」なのだろうか?

大谷翔平はベーブ・ルースではなくテッド・ウィリアムズである???
 こんな大谷翔平を、しかし、いかにも凄そうに日本の野球マスコミが喧伝したのは、ひとつには「二刀流」の物珍しさから、もうひとつは、野球が、チームの成績とはあまり関係のない「個人成績」や「個人記録」が幅を利かせているスポーツだからである。

 そういえば、「最後の4割打者」と呼ばれ、打撃三冠王を2度も獲得、通算ホームラン521本など、あれだけ打撃タイトルを獲りまくった強打者テッド・ウィリアムズは、ワールドシリーズ進出はわずかに1回のみ。それも敗退に終わっている。

大打者の栄光と生活: テッド・ウィリアムズ自伝 (SUPER STAR STORY)
テッド ウィリアムズ
ベースボール・マガジン社
1973-03-01


テッド・ウイリアムズのバッティングの科学 新装版
ジョン アンダーウッド
ベースボール・マガジン社
2000-03-01


 しかし、実際、「二刀流」で個人成績を上げてみせたところで「それ」でチームを勝たせるわけではなし、ベーブ・ルースがホームランをガンガン打ち出して野球の在り方を大きく変えたようなことが起こったわけではなし……。

 ……結局、大谷翔平の何がどう凄いのか? いまひとつ分かりにくい。

 あくまで「二刀流」は彼の自己満足に過ぎないのではないか? ……という「偏見」が個人的に抜けないのである。





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[有名人は文中敬称略]

日本人のプライバシー意識と大谷翔平
 投打「二刀流」の日本人メジャーリーガー・大谷翔平が自身の結婚を発表した時、その結婚相手に関する情報をほとんど明らかにしなかった。

 この対応について「大谷翔平の結婚発表で明らかになったのは、私生活に関する秘密主義だった」といった見出しで論評(批判?)したのが、アメリカの老舗スポーツ雑誌『スポーツ・イラストレイテッド』電子版である。

 一方、「大谷翔平の結婚発表は奇妙だが、日本の文化からすればそうではない」といった見出しで理解(擁護?)を示したのが、ロサンゼルス・ドジャースの地元紙「ロサンゼルス・タイムズ」電子版だった。

 「ロサンゼルス・タイムズ」電子版の記事では「記者会見を開きながら相手の名前の公表を拒否するのは、アメリカ人にとっては奇妙に映るかもしれない。だが、日本の文化の基準からすれば、これは何も異常なことではない」と指摘した。

 以上は「産経新聞」電子版の記事である。この話は意外だった。なぜなら……。
  • 参照:浅野英介/産経新聞「〈秘密主義〉〈日本の文化〉~大谷翔平の電撃結婚発表、米メディアで分かれる評価」(2024/3/5)https://www.sankei.com/article/20240305-SDF56K2BHRCLPLPI52NXD7JSP4/
 ……なぜなら、従来の通俗的な日本人論・日本文化論の世界観では、日本人は欧米人と比べて「個人主義」が未熟で、つまり日本は「個」や「私」が尊重されない文化で、だから日本人の「プライバシー」意識も希薄だとされてきたからである。<1>

日本人論の方程式 (ちくま学芸文庫 ス 1-1)
ロス マオア
筑摩書房
1995-01-01


 三島由紀夫の小説作品に端を発した、1961年(昭和36)の「『宴のあと』事件」もまた、日本人のプライバシー意識の弱さの現われだなどと言われてきた。

宴のあと (新潮文庫)
三島 由紀夫
新潮社
2020-10-28


 昔は、プロスポーツ選手のプライバシーでもアメリカの方が厳格であった……はず。

 1990年代初め、地上波の日本テレビで放送されていたスーパーボウルの中継で、NFLのスーパースター ジョー・モンタナ(当時、サンフランシスコ・49ners)に子供が生まれたという話題になった。しかし、実況担当のアナウンサー・増田隆生が「アメリカでは、あまりそういう話はしないことになっているんですよ」と語っていた記憶がある。

 そんなものなんだろうと思っていたら、最近のサッカーやラグビーのワールドカップなどでは、試合後に自分の子供にレプリカユニを着せてピッチに入れている選手が目立つ。あれはプライバシーの観点から考えて大丈夫なのだろうか?

不適切にもほどがある(!)有名人のプライバシーの話題
 とにかく、最近の日本の有名人(芸能人やアスリートなど)は自身のプライバシーを公開したがらなくなった。

 芸能界でいうと、吹石一恵と結婚した福山雅治は、自身の結婚について徹底的に隠そうとしていた。

 スポーツ界でも、元横綱・稀勢の里で大相撲・二所ノ関部屋の師匠となった年寄・二所ノ関は、結婚した自身の妻に関する情報をひたすら隠そうとしている。
  • 参照:NEWSポストセブン「元横綱・稀勢の里 常識離れな〈部屋開き〉も、まだ続く〈おかみさん隠し〉」(2022.06.15)https://www.news-postseven.com/archives/20220615_1763209.html?DETAIL
 最近は、結婚しても相手のことは「一般男性」「一般女性」とぼかすし、子供が生まれても性別すら発表しない例もある。

 しかし、「昭和」(~1989年)の昔はといえば、テレビのワイドショーの芸能記事といえば、交際が発覚したといっては(囲みで)記者会見、婚約発表で記者会見、結婚披露宴で記者会見、子供が生まれたといっては(囲みで)記者会見、子供の入学式でも(囲みで)記者会見……こんな感じであった。

 特に三浦友和と山口百恵の夫婦は、まったくそのようなカップルであった。

蒼い時 (集英社文庫)
山口 百恵
集英社
1981-04-20


 2004年(平成16)、広末涼子が最初の結婚をして長男を生んだ時は名前も公開していたから(匕□シ君、既に成人している)、その時まではそうだったのかもしれない。梨元勝(2010年没)のような「芸能リポーター」が退場したあたりから、だんだん変わっていった。

 最近では、DAIGOと北川景子、山里亮太と蒼井優が結婚に際して記者会見をしたが、これなどは珍しい例である(前者は一種の閨閥婚でもあるからか?)

 1980年代は、有名芸能人の結婚披露宴をテレビのゴールデンタイムで放送するということまでやっていた。ちなみに最も視聴率を獲得したのは渡辺徹と榊原郁恵の夫婦で(たしか40%くらい)、これはふたりの好感度が高かったからでもある。

 そんな風潮を反映してか、文藝春秋の総合スポーツ誌「スポーツグラフィック ナンバー」が1987年(昭和62)10月に「結婚大百科」という、アスリートの結婚の特集を刊行している。記憶が確かならば、原辰徳(読売ジャイアンツ)の結婚に絡めての特集だった。
  • 参照:Sports Graphic Number 181号「結婚大百科」(1987年10月5日発売)https://number.bunshun.jp/articles/-/816
 長嶋茂雄・長嶋亜希子、ジャイアント馬場・馬場元子……といった有名な夫婦が登場。プロ野球の妻には年上、スチュワーデス(キャビンアテンダント)、多摩川ギャル(死語)が多いといった話題(何と現ラグビーライターの大友信彦が書いている!)。相撲部屋の女将の苦労話など。たしかサッカーの釜本邦茂は再婚だと、この雑誌で知った。

 それにしても、時代が時代とはいえ、よくこれだけアスリートの結婚や恋愛、夫婦の話題を集めだものだと感心する。「平成」(1989年~2019年)を挟んで「令和」(20199年~)の現在では考えられない、ありえない。

 事の良し悪しではなく、過去においてはこうしたことが行われていた。

メジャーリーガー「奥様会」の存在
 もっとも、元・稀勢の里の妻は相撲部屋の女将だから、しかるべき角界の「社交」の場があるはずであり、全く表に出ないわけにはいかないはずである。

 それはアメリカのメジャーリーガーの妻も同様である。オールスターゲーム前日恒例のレッドカーペットは夫人や恋人の同伴が慣例化しているなど、公の場に姿を見せる機会が少なくないからだ。

 特にメジャーリーガーの妻の場合、ワイブスクラブとかワイブスミーティングとか言われる「奥様会」なる活動の存在がある。
 MLBでは慈善事業を積極的に行っており、選手だけでなく、夫人の参加は半ば義務のようなもの。監督やコーチ、中継局ディレクターの夫人までが出席するイベントも珍しくないという。〔略〕

 「MLBのチャリティー活動の一環として夫人達による『ワイブズ・クラブ』が組織されているほどです。各球団の本拠地を中心に活動しており、ホームレスや恵まれない子供を支援したり、女性のさらなる地位向上を訴えるなど、あらゆるイベントを行っています。日本人選手も例外ではなく、かつてはイチローや松坂〔大輔〕らの夫人の多くがボランティア活動への協力を惜しまなかった」〔スポーツライター・友成那智〕

 中でもドジャースはボランティアやチャリティー活動に熱心な球団のひとつとして知られる。ド軍の選手夫人は、まるでモデルか女優のような美貌の持ち主が少なくないだけに、チャリティーイベントの一環として、ドレスアップした美人妻達によるファッションショーを行ったこともある。2019年には当時、ド軍に所属した前田〔健太〕(現タイガース)が、着物姿の早穂夫人とともに登場して注目を集めた。

 「高給取りや主力選手の夫人がイベントを主催するケースも多く、ド軍ではこれまで長らくエースを務めたカーショウのエレン夫人が奥様達をまとめてきた。大谷〔翔平〕はプロスポーツ史上最高の1014億円の大型契約を手にしただけに、夫人には積極的な参加が求められるでしょう。いずれはカーショウ夫人のように主催者も任されるのではないか」〔同〕

日刊ゲンダイDIGITAL「大谷翔平が新妻を隠し切れないメジャー奥様会のしきたり…〈ファッションショー〉に慈善活動、レッドカーペット」(2024/03/02)https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/sports/336954
 しかし、ジェンダーフリーやら何やら、ポリコレがキツイ社会になったアメリカで「奥様会」のような活動が今なお盛んに行われていることは、なかなか興味深い。

 あるいは、これもノブレス・オブリージュ(noblesse oblige)なのだろうか?

 そうであるならば、大谷翔平の妻(旧姓・■中真美子さん?)も、メジャーリーグ「奥様会」参加の義務から逃れられない……はずである。

 日本人はチャリティーやボランティアを軽視している、その精神が欠落している……などという変な評判だけは立ってほしくない。





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[文中敬称略]

大谷翔平への本音
 投打「二刀流」の日本人メジャーリーガー・大谷翔平が、2024年2月29日、日本人女性と結婚していたことを発表した。

 普段から大谷翔平(と野球)を依怙贔屓してきた日本のマスコミはこの一報に過剰反応、テレビは一日中この話題を流していたらしい。これには一般視聴者の中にも「ウンザリ」している人が少なからずいたという。

 YouTubeでテレビ番組やテレビ界について鋭い論評をしている、元放送作家・長谷川良品(別名:長谷川大雲)の【テレビ悲報ch】では、この件をいろいろ考察している。

ワイドショーのせいで大谷翔平選手が嫌われる理由【大谷ハラスメント】
  • テレビによる大谷選手の無自覚な商品化で消費を早め嫌悪さえ生むことへの懸念。
  • 当日の午後4時42分、国会内で開かれた衆議院政治倫理審査会(政倫審)の生中継〔NHK〕の最中のテロップで「大リーグ・大谷翔平選手 結婚を発表」「相手は日本人女性 インスタグラムで」。午後9時からの『ニュースウォッチ9』〔NHK〕では政倫審を抑え、トップニュースで報道。
  • せめてNHKくらいは矜持のようなものを保ってほしいところ。
  • 「#大谷ハラスメント」。
  • 大谷選手自体は好きなんだけど……。
  • いやこれ繰り返しますが大谷選手が悪いわけではありませんからね。
  • 大谷選手自身を見世物小屋の珍獣扱いすることに。ひいては、消費を早め、場合によっては嫌悪を生むことにもなりかねない。
  • そして、こうした大谷選手の発言こそ、マスコミの玩具に、商品化されていることへの抵抗とも感じる。
参照:東スポWEB「〈♯大谷ハラスメント〉とは? 元放送作家〔長谷川良品〕が警鐘〈嫌悪を生むことにもなりかねない〉」(2024年3月3日)https://www.tokyo-sports.co.jp/articles/-/294115
 いや、もう既に大谷翔平は嫌悪されているよ。サッカーファンなど野球以外のスポーツのファンから、野球にそんなに関心のない一般視聴者から、諸々の層に……。

 みんな「炎上」したり、「垢バン」されたりするのが怖いから、SNSなどでは「大谷翔平のことはすごいと思うけど……」とか「大谷のことは好きだけど……」とか、枕詞(エクスキューズ)を付ける。また露骨な表現をとることは避ける。

 けれども、実際には彼への過剰な礼賛報道に嫌気がさしている人は多い。

 大谷翔平は、公共の電波を使った貴重なスポーツ報道リソースを食い潰す存在だからである。

 日本のマスコミのスポーツ報道が大谷翔平に著しく偏向しているために、欧州サッカーの遠藤航や三笘薫、あるいは久保建英、バスケットボールNBAの八村塁や渡邊雄太……といった、他の日本人アスリートの活躍がほとんど報道されない。

 また、日本のマスコミのスポーツ報道が大谷翔平に著しく偏向しているために、Jリーグ(サッカー)やBリーグ(バスケットボール)などといった、野球以外のスポーツがほとんど報道されない。

 サッカーなど野球以外のスポーツのファンの少なくない層は、本音では大谷翔平のことを快く思ってはいない。

大谷翔平報道は構造的な問題
 なぜ、日本のマスコミは大谷翔平のことを過剰に報道するのか? 長谷川良品はこれを「日本のマスコミの劣化」「日本におけるテレビというメディアの劣化」として捉えているようだが、違う。もっと別の根の深い、構造的な問題だ。

 日本において野球は歴史ある人気スポーツだが、昨今は人気の低下が著しい。地上波テレビのプロ野球中継は視聴率が下がり続け、ついにはほとんど放送されなくなった。たまに読売ジャイアンツ(巨人軍)と関係の深い日本テレビがプロ野球中継(巨人戦)を放送することがあるが、視聴率は非常に低い。だんだん競技人口も減ってきている。

 国会の議席で譬(たと)えれば、かつては絶対安定多数だった野球の人気は、今では単独過半数を取れなくなっている。その分、日本人のスポーツの好みはサッカーやバスケットボールなどに「多様化」している。

 一方、日本のマスコミ企業(一般紙や地上波テレビ,スポーツ紙)は、例えば「朝日新聞」が夏の甲子園(高校野球の大会)を主催していたり、「読売新聞」が読売ジャイアンツ(プロ野球球団)を経営していたり……等々、野球の興行に自ら関わっている。

 また、相互に監視、批評しあう関係にあるべきマスコミ企業は、いわゆる(海外では禁じられている)クロスオーナーシップというもので、「一般紙/地上波テレビ/スポーツ紙」が資本的に系列化されている(例えば「読売新聞/日本テレビ/スポーツ報知」といった具合に)。

 加えて、アメリカ合衆国(米国)のメジャーリーグベースボール(MLB)に莫大な放映権料を支払い、これをBSや地上波で放送し、毎年、春・夏の甲子園=高校野球の大会を地上波で全試合放送している公共放送のNHKがある。

 つまり、日本のマスコミ企業は総体として野球とは利害関係者の間柄で、一蓮托生、癒着している。野球は、日本のマスコミ企業総体にとって「自社コンテンツ」なのである。

 そんな日本のマスコミにとって、あくまで日本のナンバーワンスポーツは「野球」でなければならない。新しく台頭したサッカーやバスケットボールであってはならない。日本人の「野球離れ」は絶対に食い止めなければならない。

 だから、欧州サッカーの遠藤航や三笘薫、久保建英、バスケットボールNBAの八村塁や渡邊雄太といった日本人選手の活躍など、半ば無視する。否、落ち目の野球人気を支えるためには、無視してかまわない。

 翻って、日本のマスコミは、「日本人の野球離れ」を食い止めるために、大谷翔平に関しては毎日、洪水のように大々的に報道している。否、落ち目の野球人気を支えるためには、報道しなければならない。

 マスコミは、あたかも彼が「世界的なスーパースター」であり、その活躍に「全米が熱狂」しているかのように褒めそやす。
  • 参照:金子達仁「[2021年野球界を総括]大谷翔平は,日本が生んだ史上初の世界的スーパースター」(2021年12月28日)https://media.alpen-group.jp/media/detail/baseball_211228_01.html
 日本のマスコミは、大谷翔平は「世界的なスーパースター」であると言いくるめることで、日本の内外で野球がナンバーワンスポーツであるかのように言いくるめる。

 日本のマスコミが大谷翔平のことを過剰に報道するのは、構造的な問題なのである。

「#大谷ハラスメント」とは「#野球ハラスメント」である
 しかし、笛吹けど踊らず。

 マスコミがどんなに大谷翔平をゴリ押ししても、野球はかつてのような国民的な了解事項ではないのだから、野球に関心のない層は白けるばかり。

 サッカーなど他のスポーツのファンも、野球が世界的な人気スポーツではないこと、本場・アメリカ合衆国でも野球の人気は低迷していることを知っているから、これまた白けるばかり。

 ……それどころか、反感を抱く。
  • 参照:女性自身「大谷翔平 電撃結婚で話題独占も…一部では〈大谷ハラスメント〉とうんざりムード指摘する風潮」(2024/03/01)https://jisin.jp/sport/2299687/#goog_rewarded
 つまり、大谷翔平の「#大谷ハラスメント」とは、実は「#野球ハラスメント」のことなのである。大谷翔平への嫌悪とは、実はマスコミがゴリ押しする野球というスポーツへの嫌悪なのである。マスコミによる野球ゴリ押しの象徴が、大谷翔平なのである。

 それはあくまで劣化した日本のマスコミのせいであって、大谷翔平のせいではないと彼を擁護する人もいる。だが、大谷翔平の(有形無形の)多大な報酬は、マスコミの偏向した過剰な報道によってもたらされているのである。彼はマスコミに多大な恩恵を受けてきた。問題の一端に大谷翔平は関与している。

 自身の結婚にまつわる記者会見では、大谷翔平はプライベートの領域を弄(まさぐ)られることは本意ではないかのような応答ぶりであったと聞く(映像を見ていないから実際はどうであったかは当ブログは知らない)。<1>

 それを長谷川良品などは「マスコミの玩具に,商品化されていることへの抵抗とも感じる」などと褒めそやすのである。

 ……が、しかし、本当に日本のマスコミの玩具化、商品化、見世物小屋の珍獣扱いを拒むならば、大谷翔平は「そんなに僕ばかりじゃなく他のスポーツも取り上げて下さい」とか、「そんなに僕ばかりじゃなく政治や経済や社会の他のニュースも取り上げて下さい」とか公言したらどうか?

 まあ、大谷翔平がそんな(良い意味で)トンパチな言動をする人間であるとは、私たち真っ当なスポーツファンのほとんどは期待はしていないが(笑)。

 傍目から見て、大谷翔平はとてもイノセントな人に思える。しかし「無邪気であること自体が犯罪的である」との古人の格言もある。その伝で言えば、大谷翔平はとてもイノセントな人である。





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プロローグ
 大谷翔平の移籍先が、ロサンゼルス・ドジャースにようやく決まった。

 さて……、

 「大谷翔平の活躍に全米が熱狂!」

 ……ならば、

 「三笘薫の活躍に全英が熱狂!」

 「久保建英の活躍に全西が熱狂!」

 「古橋亨梧の活躍に全蘇が熱狂!」

 ……と、こうなるはず。<1>

 しかし、実際のマスコミのスポーツ報道に格差があるのは、経済原理に基づいた「需要」の格差ではなく、マスコミ企業にとっては野球が「自社コンテンツ」であり、サッカーその他のスポーツはその座を脅かす競合相手だからなのである。

日本のマスコミに庇護された大谷翔平
 金子達仁は、スポーツ用品販売店大手「アルペン」の公式サイトでエッセイの連載を持っているのだが、その中で何と「大谷翔平は日本が生んだ史上初のスポーツにおける世界的なスーパースターである」などと、おったまげるようなことを書いていた。
  • 参照:金子達仁「[2021年野球界を総括]大谷翔平は,日本が生んだ史上初の世界的スーパースター」(2021年12月28日)https://media.alpen-group.jp/media/detail/baseball_211228_01.html
 いかにもサッカー界隈では毀誉褒貶の激しい、そして「日本人であることのコンプレックス」をこじらせた金子達仁らしい表現である。

 大谷翔平が「世界的なスーパースター」であってほしい存在は、もっと他にある。日本のマスコミである。

 日本のマスコミは、高校野球の大会を主催していたり(『朝日新聞』と全国高等学校野球選手権大会ほか)、プロ野球球団(『読売新聞』と読売ジャイアンツほか)を所有していたり……。等々、野球とは利害関係者の間柄で、一蓮托生、癒着している。

 そんな日本のマスコミにとって、あくまで日本のナンバーワンスポーツは「野球」でなければならない。新しく台頭したサッカーやバスケットボールであってはならない。だから、欧州サッカーの三笘薫や久保建英、バスケットボールNBAの八村塁や渡邊雄太といった日本人選手の活躍など、半ば無視する。否、落ち目の野球人気を支えるためには、無視してかまわない。

 一方、日本のマスコミは、野球の投打「二刀流」のメジャーリーガー・大谷翔平に関しては、毎日、洪水のように大々的に報道している。否、落ち目の野球人気を支えるためには、報道しなければならない。マスコミは、あたかも彼が「世界的なスーパースター」であり、その活躍に「全米が熱狂」しているかのように褒めそやす。

 日本のマスコミは、大谷翔平は世界的なスーパースターであると言いくるめることで、日本の内外で野球がナンバーワンスポーツであるかのように言いくるめる。

 大谷翔平とは、野球中心主義の日本のマスコミに庇護された野球のスター選手なのである。

嘘で大袈裟で紛らわしい大谷翔平
 もちろん、「大谷翔平は世界的なスーパースターである」も、「大谷翔平に全米が熱狂している」も、嘘で大袈裟で紛らわしい命題である。JARO(日本広告審査機構)に苦情を申し立てなければならない。


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 第一の理由は、野球(ベースボール)の世界的な普及度・人気度である。

 野球は、ヨーロッパ、アフリカ、中東、南米の南半分、アジアの大部分で、超マイナースポーツだからである。そもそもルールが複雑で、その「ゲーム性」を理解するのが大変だ。投手がボールを投げて、それを打者がバットで打って、打者は走者となって一塁に走って……。ああ、そこからもう分からない。そういう世界だからである。

 そんな世界の大多数の国々で、「二刀流」のメジャーリーガー「Shohei OHTANI」(大谷翔平)と煽っても、「誰? 何?」という反応しか返ってこない。

 第二の理由は、米国(アメリカ合衆国)におけるスポーツ文化の多様さである。

 米国の人気スポーツは野球だけではないからである。

 よくアメリカ四大プロスポーツというが、米国ではアメリカンフットボール(NFL)の人気が図抜けていて、それにバスケットボール(NBA)が続く。さらに続いて野球(MLB)となるが、昨今は人気が低迷・低落している。これにウィンタースポーツであるアイスホッケー(NHL)が加わる。これで四大スポーツである。

 そして、20~30年後には野球(MLB)の人気を抜いてしまうのではないか……と言われているサッカー(MLS)がある(もう既にMLSはMLBの人気に並んだという説,超えたという説もある)。

 さらに加えてアメリカンフットボールとバスケットボールにはカレッジスポーツ(大学スポーツ)の人気もある。

 つまり、米国に数多ある人気スポーツの数多いるスター選手で、それも人気が低迷・低落している野球(MLB)の、本拠地を同じくするロサンゼルス・ドジャースよりも人気が低い球団ロサンゼルス・エンゼルスの、しかも最近ずっと(2015年~)プレーオフに進出したことがない弱小球団ロサンゼルス・エンゼルスの……スター選手のひとりが大谷翔平だったということになる。

 2021年、米国の老舗スポーツ専門誌『スポーツ・イラストレイテッド』が選ぶ「スポーツパーソン・オブ・ザ・イヤー」は、MLBアメリカンリーグのMVPを獲得した「二刀流」の大谷翔平ではなく、同年2月のスーパーボウルを制したNFLタンパベイ・バッカニアーズのQBトム・ブレイディ(ちなみに通算で実に7回目!)が獲得した。繰り返すが大谷翔平ではなかった。

 いずれにせよ「大谷翔平は世界的なスーパースターである」も、「大谷翔平に全米が熱狂している」も、嘘で大袈裟で紛らわしい命題である。

ワールドベースボールクラシックと大谷翔平
 しかし、大谷翔平は、2023年のワールドベースボールクラシック(WBC)で獅子奮迅の活躍を見せ、優勝したではないか。同大会で日本代表(侍ジャパン)のエース投手兼スラッガーとしてプレーし、WBC史上初の2部門(投手部門・指名打者部門)でのオールWBCチームに選ばれた上にMVPを受賞したではないか。

 ……と、彼のファンは擁護する。

 ところが、このWBCという、野球におけるナショナルチーム(代表チーム)の世界大会は、同じくナショナルチームの世界大会であるサッカーのFIFAワールドカップや、ラグビーのラグビーワールドカップなどと違って、あまりオーソライズされていない大会なのである。

 しかも、WBCはサッカーやラグビーのワールドカップと比べて、さまざまな意味でデタラメな世界大会である(そのデタラメさゆえに侍ジャパンは楽にベスト4に進出できた)。そのデタラメさ加減が、WBCのオーソライズを阻んでいるという残念な現実がある。

 WBCが開催される3月、毎年、米国では全米大学バスケットボールトーナメントが開催される。この大会は「マーチ・マッドネス」(3月の熱狂)と呼ばれ、文字通り「全米が熱狂」する。WBCの方はマーチ・マッドネスと比べると、あまり注目されない。
  • 参照:レーン・ミクラ(駐日アメリカ大使館公式マガジン)「スポーツ 全米が熱狂する〈マーチ・マッドネス〉」(2019年4月3日)https://amview.japan.usembassy.gov/march-madness-explained/
 日本のマスコミは、こうしたWBCの実態については触れたがらない。

 WBCでも「大谷翔平に全米が熱狂している」という話は正しくないようだ。

日本人の情報リテラシーと大谷翔平
 とにかく、大谷翔平はナショナルチーム(代表チーム)として「世界一」になったのだから、今度はクラブチームとして「世界一」、すなわち「二冠」を目指すべきだ。野球には公式の世界クラブ選手権は存在しないので、この場合はさしあたってMLBのワールドシリーズということになる。

 サッカーでは、ペレ(ブラジル)やフランツ・ベッケンバウアー(ドイツ)といった偉大な選手たちがナショナルチームとクラブチームの両方で「世界一」になっている。

サッカーの欧州CLトロフィー(左)とW杯トロフィー
サッカーの欧州CLトロフィー(左)とW杯トロフィー

 ならば、大谷翔平も真に偉大な野球選手にならなければならない。

 しかし、大谷翔平がMLBで所属していたロサンゼルス・エンゼルス、成績はアメリカンリーグ西地区5チーム中、彼が移籍した2018年から順に4位、4位、4位、4位、3位、4位……と、ワールドシリーズはおろか、プレーオフにすら出場したことがない。

 どんなスポーツでも世界的なスーパースターというのは、毎年のように優勝争いをしている伝統と実力と人気を兼ね備えたチームのエース。マークもプレッシャーも厳しい中で、重要な場面でも期待通りの活躍をする……というのが相場である。

 大谷翔平は、そうした例には当てはまらない。

 もっとも、野球というのは、チームの成績とはあまり関係のない「個人成績」や「個人記録」が幅を利かせているスポーツでもある。

 例えば、「最後の4割打者」と呼ばれ、打撃三冠王を2度も獲得、通算ホームラン521本など、あれだけ打撃タイトルを獲りまくった強打者テッド・ウィリアムズは、ワールドシリーズ進出はわずかに1回のみ。それも敗退に終わっている。

大打者の栄光と生活 (SUPER STAR STORY)
テッド・ウィリアムズ
ベースボール・マガジン社
1973-03T


テッド・ウイリアムズのバッティングの科学
アンダーウッド,ジョン
ベースボールマガジン社
2000-02T


 これは大谷翔平を「世界的なスーパースター」だと吹聴する、日本のマスコミにとっては都合がいい。「今日の大谷翔平は2本塁打8打点の大活躍でした」……これで日本の情報リテラシーの乏しい人(情報弱者とも言う)にはゴマカシが効く(しかし、ひっそりと「なおエンゼルスは敗れました」……と続くパターンが多かった)。

 かくして、大谷翔平が所属するロサンゼルス・エンゼルスの成績は、日本の情報弱者にはあまり気が付かれない形で低迷を続けた。

「二刀流」の虚実と大谷翔平
 いったい、「二刀流」とは、チームが勝つため、チームがプレーオフに進出するため、そしてワールドシリーズで優勝するために、本当に必要な「戦力」なのだろうか?

 実は、「二刀流」は1人で2人分の働きをするものでは無い。

 シーズンを通して「二刀流」でプレーする大谷翔平の肉体的な消耗は激しい。2021年はシーズン終盤で疲労が出て、9月後半以降は登板を回避した。2022年は打者の方で疲労が出て、9月11日以降にはホームランが出なくなった。

 そんな「二刀流」は、同じチームの他の先発投手陣よりもローテーションの休養日が余計に必要となる。また、体調次第ではもっと不規則にならざるを得ない。その結果、他の先発投手陣のローテーション日程を乱してしまい、何かと差し障りがある。

 また、2023年8月は公式戦での投球中に右肘の靭帯を損傷し、投手としては残りのシーズンが絶望。翌2024年は「二刀流」でのプレーが出来なくなっており、「二刀流」復活には2025年までお預けになるとの話である。

 さらに、近年のMLBではDHをあえて固定せず、ベテラン選手の「半休日」のような扱いにするチームが増えている。事実、2023年シーズンはMLB全30チーム中24球団は、最もDH出場が多い選手でも100試合未満だった。

 ところが、大谷翔平が加入するチームではこの手法は使えない。他のベテラン選手は「半休」を許されず、あくまでポジションプレーヤーとして試合に出続けなければならない。

 このことは、シーズンを通じたチーム全体のコンディション管理に負の作用をもたらす可能性がある。

 そして、「二刀流」の選手はケガで長期離脱すると、主力選手が2人分いっぺんにいなくなるというデメリットもある。

 ひょっとしたら、「二刀流」でプレーしたいという大谷翔平の願いは実は「自己満足」であり、勝ちたい、プレーオフに進出したい、ワールドシリーズで優勝したいという所属チームの願いとは、両立しないのではないか。<2>

 マスコミではあまり報じられないけれども、大谷翔平の「二刀流」でのプレーには、このような批判がついて回る。

 大谷翔平が日本の情報弱者を誑かして自己満足と利益を得続けたいならば、ロサンゼルス・エンゼルス所属のままでよかったのかもしれない。

 だが、彼が本当のアスリートならば、MLBのレギュラーシーズンでも好成績をあげるべく心がけなければならない。

ベーブ・ルース、タイ・カッブと大谷翔平
 よく日本のマスコミで大谷翔平と比較されるベーブ・ルースだが、彼はどれだけ凄い野球選手だったのか?

 そもそも野球において「ホームラン」を価値ある記録や技術にした野球選手がベーブ・ルースなのである。

 現在、野球の華としてもてはやされるホームランだが、プレイヤーの技術的目標となったのは、1869年から続く米国プロ野球の歴史でも(日本史の明治維新は1868年)、1920年代に入ってからのことである。

 1920年にMLBアメリカンリーグでニューヨーク・ヤンキースに移籍したベーブ・ルースが54本塁打を放つと、米国野球界はホームラン狂時代へと突入する。それ以前にはホームランは、今のサイクルヒットや隠し球と同じように一種の珍記録でしかなかった。

 そもそもホームランとは、プロの野球選手が、自分の価値をそれによってアピールすることができるような類のものではなかった。ベーブ・ルース以前にはホームランは、プロの技術的トレンドではなかったのである。

 ベーブ・ルースによって、野球はホームランをひとつの主要な勝利の要因とするスポーツへと変化した。野球の在り方そのものを変えてしまった、野球に革命をもたらした選手がベーブ・ルースなのである。

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 「盗塁」についても同様である。盗塁を技術的修練の対象にまで昇格させたのは、ベーブ・ルース以前の野球のスーパースター、「球聖」タイ・カッブである。

ベーブ・ルース(左)とタイ・カッブ(1920年)
ベーブ・ルース(左)とタイ・カッブ

 タイ・カッブ以前、19世紀の終わりから20世紀初頭にかけて、MLBナショナルリーグにビリー・ハミルトンという選手がいた。14年間で973盗塁、1989年には1シーズンで117もの盗塁を記録しているのだが、彼は「スライディング・ビリー」の名を残しただけで、盗塁自体は野球技術として重視されなかった。

 高打率を保ち出塁するところまででプレイヤーとしての価値が評価された時代であり、出塁後にランナーが得点を得るために巡らす工夫はまだ評価の対象にならなかったのだ。

 かつてNPBの日本シリーズで、ホームランを打った西武ライオンズの秋山幸二が、トンボ返りしながらホームベースを踏んだことがあったが、盗塁とはこの種のお遊びの芸に過ぎなかったのである。

珍記録としての大谷翔平
 それでは大谷翔平は如何? たしかに大谷翔平の投打「二刀流」のプレーは唯一無二のものに思える。

 しかし、先に述べたように「二刀流」でプレーすることで大谷翔平の周りにはさまざまなシワ寄せがいく。そんな理由もあって、大谷翔平に続く「二刀流」の野球選手が続出することは、どうやらありそうにない(MLBのドラフトに「二刀流」枠が出来たらしいけれども……)。

 結局のところ、「二刀流」は、ベーブ・ルースのホームランのように野球というスポーツに「革命」をもたらすものとは言い難い。

 また、特定の選手のプレーではないが、近年の野球に革命をもたらしたセイバーメトリクスやトラッキングシステムのような効果があるのかどうかも、微妙だ。

 「二刀流」は、秋山幸二のトンボ返りのような「お遊びの芸」では、ちょっと言い過ぎかもしれない。だが、タイ・カッブ以前の盗塁、ベーブ・ルース以前のホームランみたいなものとは言えるかもしれない。

 つまりは、一代限りの芸、一種の「珍記録」である。

 その珍記録をして、いかにも大谷翔平が「世界的なスーパースター」であり、その彼の活躍に「全米が熱狂」しているかのような、嘘で大袈裟で紛らわしい喧伝をしてきたのが、利害関係者として野球と癒着してきた日本のマスコミである。

 落ち目の野球人気を支えるために、あくまで日本のマスコミは大谷翔平の「二刀流」を褒めちぎるのである。

 日本のマスコミにとっては、日本のナンバーワンスポーツは「野球」でなければならない。サッカーやバスケットボールであってはならない。

 日本のマスコミは、大谷翔平は世界的なスーパースターであると言いくるめることで、日本の内外で野球がナンバーワンスポーツであるかのように言いくるめてきた。

 大谷翔平とは、野球中心主義の日本のマスコミに庇護された野球のスター選手なのである。





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