スポーツライター玉木正之氏の知的誠実さを問う

日本のサッカーカルチャーについてさまざま論じていきたいと思っています。

タグ:鎌倉殿の13人

 2022年のNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」。作・脚本の三谷幸喜は、子役を使わないとか何とか、こと大河ドラマに関しては、変なことに拘(こだわ)る人だ。長澤まさみの囁(ささや)くようなヒソヒソ声のナレーションも三谷幸喜の指示らしい。

 ハッキリ言ってこれは聞き取りずらい。三谷幸喜の変な拘りには、むしろ逐一イライラさせられる。もともとNHKの大河ドラマのナレーションは、和田篤とか、梶原四郎とか、森本毅郎とか、活舌のいいNHKのアナウンサーが担っていたものだったというのに。

 それはともかく「鎌倉殿の13人」第1回では、源頼朝(大泉洋)が北条政子(小池栄子)に蹴鞠の技を披露するシーンがあった。

サッカーボールで「蹴鞠はじめ」@下鴨神社
【サッカーボールで「蹴鞠はじめ」@下鴨神社】

 しかし、その足さばき・足技は蹴鞠のそれではなかった。

 日本伝来の蹴鞠の作法では、右足(右脚)しか用いず、Wikipedia日本語版の記述をそのまま信じれば「右脚の膝を伸ばしたまま,アリ,ヤア,オウと掛け声をしながら,親指の付け根を鞠に当てる」ものである。
  • 参照:蹴鞠の鞠(天理参考館コレクション)https://www.sankokan.jp/selection/life_and_culture/kemarinomari.html
 一方「鎌倉殿の13人」で披露された「蹴鞠」は、実際には「フリースタイルフットボール」だった。両足を用いて、かなりトリッキーな技を披露していたからである。

 劇中では、源頼朝(大泉洋本人ではなく代役の誰か)の鞠さばきを見て、北条政子に「スゴーイ!」とか言わせているから、伝統的な蹴鞠よりはフリースタイルフットボールの方が好ましい……と番組制作者は考えたのだろうか?

 それでは「鎌倉殿の13人」の「蹴鞠」考証は誰なのだろう? 番組のクレジットを見ると「蹴鞠考証 高野健次」とあった。調べてみると高野健次氏は、蹴鞠保存会の東京の会員である。
  • 参照:高野健次(タカノ ケンジ)「1999年、蹴鞠保存会入会。2014年、蹴鞠保存会理事就任」https://academy.meiji.jp/course/detail/3230/
 高野健次氏は「蹴鞠」と似て非なる「フリースタイルフットボール」を「蹴鞠」として大河ドラマで披露することを、どう思ったのだろう。内心忸怩たる思いだったのか? あるいは寛容だったのか?

 まぁ、最近の大河ドラマは、時代考証担当者の言うことを平気で無視するからなぁ。〔2022年1月16日訂正〕

 まぁ、最近は蹴鞠のプレーを奉納する神社・仏閣で、フリースタイルフットボールのプレイヤーが蹴鞠に近いものとしてフリースタイルフットボールを「奉納」するからなぁ。

(了)




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存続すら危ぶまれた(!?)NHK大河ドラマ
 NHKの看板番組である大河ドラマは、2019年の「いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)」が内容も視聴率も酷すぎたので、そのシリーズとしての存続すら危ぶまれた。


 そのことが本当にNHKの内部で議論されていたのかもしれない。2021年の大河ドラマ、渋沢栄一が主人公の「青天を衝(つ)け」に決まるまで、かなり時間がかかった。


 しかし、意外にも「2022年の大河ドラマ」*はかなり早く、あっさり決まった。主演は小栗旬だという。ところが、脚本が三谷幸喜だというので、ひどくガッカリした。


三谷幸喜なる人物への極私的偏見
 その昔、実の弟を自殺に追い込んだとまで噂されている、海外サッカー厨(海外厨)の明石家さんま(本名:杉本高文)のサッカー番組に「サッカーファン」として登場したが、言っていることが全く面白くないのにもかかわらず「どうです? ボクって面白いでしょ!」的な態度が鼻についた……。

 ……以来、三谷幸喜なる人物には、極私的な偏見が拭(ぬぐ)えない。

 クドカンこと宮藤官九郎が脚本を書いた「いだてん」が史上最低大河とまで言われるくらいに大失敗作・大駄作だったのに比べて、三谷幸喜が脚本を書いた2016年大河ドラマ「真田丸」は成功作だと言われている。間違いである。

 「真田丸」の平均視聴率は15%台だったという。しかし、極私的な記憶では、初めは平均視聴率20%くらいを期待されていたはずだ。課せられたテーマは「大河ドラマの復権」。当時の感覚では、天下のNHK大河ドラマの平均視聴率が15%台で満足していいのだろうか……であった。

(その後の大河ドラマ,特に大愚作「いだてん」のせいで,かなり感覚が麻痺してしまったけれども)

 内容・出来も必ずしも良かったとはいえない。歴史学者の渡邊大門先生は「歴史リアルWEB」の週刊大河ドラマ批評で非常に辛辣な評価を下していた。


 そんな「真田丸」は、なぜ成功作であるかのように印象付けられたのか? 脱落した視聴者がいた一方で、残った視聴者が「信者」化してSNSでさんざんバズった(インターネット上の口コミで話題にした)からだ。

 平均視聴率20%に足らない平均視聴率15%。そのマイナス5%分を、NHKはそのバズったことで埋め合わせをして「成功」と総括した。間違いだった。その間違った総括の「なれの果て」が「いだてん東京オリムピック噺(ばなし)」という大失敗作だった。


 三谷幸喜の2022年大河ドラマ「鎌倉殿の13人」**もまた、SNSで「信者」たちにバズらせて、誤用マスコミに提灯記事を書かせ、ステマ(ステルスマーケティング)して、NHKは人々に人気番組だと「洗脳」するのだろうか?

どうしたって「草燃える」には敵わない
 「鎌倉殿の13人」の主人公は、鎌倉幕府の第2代執権の北条義時である。この時代……平安末の動乱期~鎌倉幕府草創期を舞台にし、北条義時が重要な登場人物となる大河ドラマといえば、1979年(昭和54年)の、あの「草燃える」がある。

NHK大河ドラマ・ストーリー 草燃える
藤根井 和夫
日本放送出版協会
1979-01-10


 「草燃える」は、歴代のNHK大河ドラマの中でも傑作である。

 石坂浩二の源頼朝は良かった。国広富之の空気が読めない源義経も良かった。友里千賀子のふくよかな静御前も良かった。郷ひろみのボンクラな源頼家も良かった。尾上松緑の老獪な後白河院も良かった。特に松平健のだんだんと変貌していく北条義時は素晴らしかった。何より岩下志麻以上の北条政子はいない……。



 ……要するに全部いいのである。「鎌倉殿の13人」の視聴は、「草燃える」がいかに素晴らしい歴史劇であったかを確認する作業となるだろう。


 NHK大河ドラマの希望は過去にしかない……のだろうか?

(了)




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