スポーツライター玉木正之氏の知的誠実さを問う

日本のサッカーカルチャーについてさまざま論じていきたいと思っています。

タグ:川本梅花

 ハリルホジッチ氏のサッカー日本代表監督解任に関して、いわゆる「陰謀」はあったのか? なかったのか? 100%「黒」ではないだろうが、100%「白」でもないだろう。……そう感じている人は多い。
 臼北信行氏や赤坂栄一氏といった野球系のスポーツライターが、意外にも(?)日本代表・日本サッカー協会とスポンサー企業との関係について、それなりに踏み込んだことを語るのに対し、小澤一郎氏や川本梅花氏といったサッカー専門ライターは、そうした問題を考えること自体が汚らわしいかのような反応を示す。
川本梅花氏
【川本梅花氏】

 あるいは、川本梅花氏は以下のようなツイートを発信している。
 しかし、陰謀論に耽(ふけ)るためには、サッカーに対するそれなりの興味・関心がなければならない。つまり、「ハリルがなぜ、『マンツーマン守備』を選択したのか……」という問題に興味・関心が高いサッカーファンの層ほど、陰謀論を語り交わすサッカーファンの層と、かなりの割合で重なるのではないか。

 今回のハリル氏解任事件は、そうした「コア」なサッカーファンたちまで萎(な)えさせてしまったことが問題なのだ。要するに「ハリルがなぜ、『マンツーマン守備』を選択したのか……」というインタレストに食い付くサッカーファンが減るかもしれない。川本氏のような陰謀論の類(広い意味でのそれを含めても)を頭ごなしに否定する人は、そうした想像にかけているのではないか。

 また、川本氏は次のようなツイートもしている。
 紹介されていた清義明(せい・よしあき)氏の記事を読んだ。もちろん、得るものはあった……というか、あの中に登場する昔の日本代表選手の海外遠征費は自己負担だったとか、スポンサー企業(実業団)の所属選手を優先的に日本代表に召集していたという岡野俊一郎氏の回顧談は、当ブログのパクリ引用である。

 川本梅花氏が「これを読んで頭を冷やせ」と言っている清義明氏の記事には、こんなことが書いてある。
よくよく考えてみると、広告代理店にとっても仮に日本代表があっさり負けてしまえば、そのビジネスは元も子もないはずである。にもかかわらず、代表監督人事にまで影響力を行使する〔つまり陰謀または圧力あるいは忖度〕というのは、いま一つ、現実味がないように思えるのだが、いかがであろうか。

 しかし、この点は少し甘くて「頭を冷やす」には物足りないかとも思ったので、当ブログは次のようなツイートをしてみた。
 すると……。
 ……などと返信が返ってきものだから大笑い。要するにツッコミ不足だったと、清義明氏自身が認めたようなものだ。

 いわゆる陰謀論を敬遠するなら、それでもいい。そういう人がわざわざ陰謀論の類に言及して否定的な評価をするなら、「なぜ,陰謀論はありえないのか?」をきちんと説明
してほしい。

 それができないならば、技術論に徹してハリル解任を論じるべきではないか。

(了)

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川本梅花はサイモン・クーパーに嘲笑される?
 ハリルホジッチ氏の電撃的なサッカー日本代表監督解任から10日以上過ぎたが、サッカーファンのショックはいまだ鎮(しず)まらない。そして、純粋にサッカー的な見地から解任されたのではないだろうと感じている人は非常に多い。

 興味深いのは、ハリル氏解任の背景と伝えられるもの……本田圭佑や香川真司といった日本代表の「スター選手」をハリル氏が重用しなかったことや、サッカー日本代表=日本サッカー協会(JFA)とスポンサー企業(広告代理店の電通含む)との関係……について、臼北信行赤坂英一といった野球系のスポーツライターの方がかなり踏み込んだ発言をしていることである。

 特に後者に関しては、ややもするといわゆる「陰謀論」と結び付きやすい。だから、一方のサッカー専門ライターの中には、青臭いのか潔癖なのか小澤一郎川本梅花のように、そうした話題に触れること自体が汚らわしいかのような反応をする人たちがいる。

 川本梅花氏は「悪いけど、僕はサッカーの話がしたいんだよね」などとうそぶく。しかし、サイモン・クーパー的世界観に照らし合わせれば「サッカーの話」だけをしてサッカーが完結する場所など、地球上にはありえない。

サッカーの敵
サイモン クーパー
白水社
2001-03-01


 クーパー曰く「フットボール〔サッカー〕が単なるフットボールであったことはない」からだ。陰謀があったのかなかったのか? 微妙な表現になるが、少なくとも「サッカー日本代表=日本サッカー協会は、スポンサー企業や広告代理店=電通の存在を完全に無視できない」とは言える。

 ……にもかかわらず、陰謀論の類を頭ごなしに忌避すると、かえってサッカーファンの疑心暗鬼を深め、したがって陰謀論の蔓延(まんえん)を招くという皮肉な事態になる。

再び日本代表の広告ビジュアルを検証する
 あらためて、サッカー日本代表公式スポンサー企業のWEBサイトの広告ビジュアルを観察してみることにした。まずは建設会社の「大東建託」である。


 ここでも「(C)JFA 2017年11月17日 対ブラジル戦 先発メンバー11名」とクレジットしてある。この時の日本代表の遠征には本田圭佑は招集されていないので(香川真司も招集されていない)、当然このビジュアルには登場しない。選手の大きさも格差がつかないように揃えてデザインされていて、特定の選手をゴリ押ししている印象は薄い。

 続いて、携帯電話サービス「au」ブランドを展開する大手通信事業会社KDDIのである。


 このビジュアルも「(C)JFA キリンチャレンジカップ2017 対シリア代表戦 先発メンバー(2017.6.7)」とクレジットされてある。この試合、本田圭佑は途中交代出場だからこの中に姿はない。写真もキックオフ前の集合写真だから選手の大きさにも格差はない。

 こうした広告ビジュアルを見ている限り、スポンサーとして特定の選手をサッカー日本代表メンバーに強要している印象はない。だが……。

李下で冠を正す本田圭佑とKDDI=au
 ……本田圭佑が、KDDIらと共同事業に参画する旨の発表があった。
スポーツマッチングサービス「Now Do (ナウ ドゥ)」への参画
~スポーツをテーマに空き時間を有効活用できるマッチングサービス~
KDDI株式会社
Now Do株式会社
株式会社運動通信社
2018年4月5日

KDDI株式会社 (本社: 東京都千代田区、代表取締役社長: 髙橋 誠、以下 KDDI) は、プロサッカー選手である一方、より良いスポーツ育成環境の創出を目指す本田 圭佑氏が代表を務めるNow Do株式会社 (本社: 大阪府吹田市、代表取締役社長: 本田 圭佑、以下 Now Do社) と、インターネットスポーツメディア「スポーツブル」を運営する株式会社運動通信社 (本社: 東京都渋谷区、代表取締役社長: 黒飛 功二朗) が共同で推進するスポーツをテーマにしたマッチングサービス「Now Do」に参画します。

「Now Do」は、スポーツ選手の育成だけでなく、現役を引退したスポーツ選手の新たなサービスチャンスの創出を目的とし……〔以下略〕

 これ自体は経済活動としては「合法」なのだろう。しかし、KDDIとはつまりauのことで、auとは畢竟(ひっきょう)サッカー日本代表の公式スポンサーである。これで本田圭佑がロシアW杯の日本代表に選ばれたら、やはりスポンサー枠、スポンサー(あるいは電通)の圧力で、要するにサッカー=スポーツとしては「不正」に選出されたのだと疑われ続ける。

 本田圭佑に関しては、ロシアW杯アジア最終予選の試合のテレビ中継で自身が出演するCM(テレビゲーム「クラッシュ・ロワイヤル」)が流れる……など、以前から日本代表の選手選考に関して不公正さを疑われても仕方がないことが目立った。

クラロワ新TVCM「本田圭佑 負け嫌い」篇(30秒)
【クラッシュ・ロワイヤル 本田圭佑テレビCM YouTubeより】

 もはや本田本人は、こんなことをしても恬(てん)として恥じない人間である。しかし、東証1部上場企業であるKDDI(au)の方はもう少し考えたらどうか。

ハリル解任「陰謀論」を超えて…
 「陰謀論」がいつまでも消えないのは、こうした事情があるからなのだ。

 うんざりするようなハリルホジッチ氏解任騒動から、何か有益なことを引き出せるのだとしたら、「サッカー日本代表=日本サッカー協会とスポンサーシップの関係」について考え直す機会にすること、だろうか。

 例えば、特定の選手が日本代表公式スポンサー企業と共同事業に参画することや、日本代表の試合のテレビ中継のCMに出演することの是非。先に述べた本田圭佑のように「スポンサー枠」や「スポンサーあるいは電通の圧力」が疑われてしまう。

 あるいは、日本代表を扱った広告ビジュアルでの選手の序列や格付けの扱い方について。日本サッカー協会(JFA)公式サイト内のキリンチャレンジ杯チケット先行販売のページには、これまで見てきた他の企業の広告ビジュアルとは違い、本田圭佑が特に大きく扱われたものがある(下の写真の右上参照:しかもいつどこの試合という表示もない)。

JFA公式キリン杯広告
【JFA公式キリン杯広告】

 これでは、JFA自身が本田圭佑が日本代表の一枚看板であると認め、日本代表に選ばれなければ困るという隠れた意図が含まれているかのような印象を与える。

 ……etc.

 もっとも、サッカー専門ライターは「サッカーの話」しかやりたがらない。しかし、こういった問題を避けて通るのは、実はサッカーについて何も語っていないのと同じである。

(了)


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