スポーツライター玉木正之氏の知的誠実さを問う

日本のサッカーカルチャーについてさまざま論じていきたいと思っています。

タグ:乾貴士

 ツイッターで「乾」貴士選手と「セルジオ」越後氏について検索をかけていくと、セルジオ越後氏を一面的に擁護し、乾貴士選手が一面的に非があるかのような、いたいけなサッカーファンによるツイートが多く、なかなか読むのが苦痛である。

 そんな中に、いたいけではありえないサッカーファンであるところの、サッカー講釈師こと武藤文雄氏までいた。


 なるほど、昨年2018年のハリルホジッチ氏の日本代表監督解任の時、さまざまな憶測を呼んだサッカー日本代表の「スタア」本田圭佑氏への擁護でも分かるように、武藤文雄氏は「信者とかじゃなくて,普通に選手に甘いというか,ファンは選手に対してやりすぎなぐらいリスペクトするべきっていう世代な」のかもしれない。


 セルジオ越後氏は旧JSLの日系ブラジル人選手のひとりだった。技術が大きく劣っていた当時の日本人選手のなかにあって、セルジオ越後選手は素晴らしいテクニックを見せたのだ。そんな幻惑の中にまだいるのかもしれない。

 とにかく「世代」なのかはともかく、少なくとも武藤氏はそうである。しかし、武藤文雄氏は、自身のように、誰もが「セルジオ越後氏への免疫」を持っているワケではないことくらいは、頭の片隅にでもいいから入れておいてほしいのである。


 ミスチル世代、「批評」が機能しない社会の怖さ……。だが、そもそも「セルジオ越後氏は批評なのか?」という根本的な問いが、ずっと頭の中をグルグル回っている。


 要するに、上のリンク先のようなことが言いたいのである。

(了)



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乾貴士選手は浅野内匠頭なのか?
 日本サッカーに対して、数多(あまた)の放言を繰り返してきたサッカー評論家(?)のセルジオ越後氏に対して、業を煮やした日本代表・乾貴士選手が些(いささ)かな反発を発信してみせた。



 セルジオ越後氏に関して、こうした、選手の側からの反=評論は当然のことだと私たちは思う。……のだけれど、ネットという巷間(特にツイッター)を観察してみると、乾選手の方に非があるかのように受け取る人も、また実に多い。中には、乾選手がセルジオ氏の人格にまで踏み込んだ雑言を浴びせた(!?)かのように語る、いたいけなサッカーファンまで散見される。


 まるで、勅使下向の春弥生、殿中「松之廊下」で小サ刀を抜いて、高家筆頭・吉良上野介(セルジオ越後氏)に斬りつけたのが野暮な田舎大名の浅野内匠頭(乾貴士選手)なのだから、内匠頭の方が咎(とが)を受ける=切腹するのが当たり前と言わんばかりだ。

 否、せいぜいこれは「喧嘩両成敗」であるべきではないか。


 乾選手はどれだけ不穏当な発言をしたのかと思いきや……。それ自体は抑制の利いたものだ。むしろ、放埓な発言を繰り返してきたのはセルジオ越後氏の方なのだが。

 では、なぜ、乾選手の方が一面的に悪いかのように、評されるのか? 倒錯したこの「空気」は何なのか?

評論をするのに対象への「愛情」は必要なのか?
 セルジオ越後氏を免罪するいたいけなサッカーファンたちの方便のひとつに、この人には「日本サッカーへの深い愛情」があるから……という言い分がある。

吠えるセルジオ越後『サッカーダイジェスト』1993年11月24日号より
【吠えるセルジオ越後氏.『サッカーダイジェスト』1993年11月24日号より】

 いつも「辛口」で「厳しい」セルジオ氏の評論も、実は、日本サッカーへの深い愛情の裏返しの表出である。それが証拠に(2006年のアジア杯だったか)日本代表が苦戦の末に勝利した時、セルジオ氏は声を上げて相好を崩してみせたではないか……というのである。

 だが、セルジオ越後氏に、本当に、日本サッカーへの「愛情」があるのだとして、しかし、評論をするのに対象への「愛情」などというものが必要なのだろうか?

 ここで思い出したのが、先ごろ亡くなった梅原猛氏(哲学者)である。小谷野敦氏(評論家?)の『評論家入門』からの孫引きになるが、梅原氏による小林秀雄(文藝評論家)への批判がある。
 たしかに小林〔秀雄〕氏のいうように対象に惚〔ほ〕れなければ対象は分からない。認識には熱情が必要である。しかし、それとともに認識には冷たい理性が必要である。小林氏は対象を距離を持って眺めるというところがない。それは本当の学問でも批評でもない。

梅原猛『学問のすすめ』

 この文章を引用した小谷野氏は、さらに進めて、その「愛情」すら不要だと断じる。
 梅原〔猛〕は「愛情が必要である」ことを認めているが、それすら私〔小谷野敦〕は疑わしいと思う。たとえば、「文学研究においては、対象に対する真の愛情が必要だ」と言う人がいる。……だが、学問〔あるいは評論〕の当否は、その人に愛情があるかないか……とは、別である。いくら愛情を持っていても……間違っていれば、どうしようもない。……学問〔あるいは評論〕にとって必要な美徳とは、勤勉と誠実〔冷たい理性〕であって、愛情……ではない。

小谷野敦『評論家入門』70頁

 セルジオ越後氏に、巷間言われるような「日本サッカーへの愛情」があるのかどうか、本当のところは分からない。

 しかし、「愛情」があったところで、それは「評論」の内実とは全く関係ないのだし、少なくともセルジオ越後氏には、梅原猛氏の言う「冷たい理性」が決定的に欠落している。

セルジオ越後氏の無節操なサッカー評論
 セルジオ越後氏の、この「冷たい理性」の無さは、例えば、サッカー評論の無節操、無定見として現れる。

 1994年、サッカー日本代表・三浦知良(カズ)がイタリア・セリエA「ジェノアCFC」に移籍した。セルジオ越後氏は「まるで,才能の無いレーサーが金でF1チームのドライバーになるようだ」(これをペイ・ドライバーと言う)と侮(あなど)り、酷評した。

 そういう評価自体は、あっていいだろう。実際、カズのジェノア移籍にはそういう側面もあった(これは後代の中田英寿や本田圭佑にも,似たような事情があるだろう)。

 1年後、イタリアで思うような活躍が出来なかったカズは、日本のJリーグに復帰することになった。セルジオ越後氏は、すると今度は「何だ,たった1年で日本に帰ってくるのか!」などと侮り、酷評したのである。

 どちらかの立場に立つならば、どちらかの発言は慎むべきだ。

 セルジオ越後氏のこんな節操の無さに、私たちはウンザリしている。前田日明は「アントニオ猪木なら何をやっても許されるのか!?」と批判したが、いたいけなサッカーファンたちは「セルジオ越後なら何を言っても許される」と、思っているらしい。

 右とあれば左と言い、上とあらば下と言い、前とあらば後と言いたがるのが、セルジオ越後氏の嫌らしさである。

 ちなみに乾選手によるセルジオ越後氏批判は、セルジオ氏が「香川真司の移籍は遅すぎる! 海外移籍するなら試合に出ろ」と難じたことがキッカケだった。そこで、仮に試合に確実に出るために日本のJリーグに戻ってきたら、今度は「日本にいるな! 海外に移籍しろ!」というのが、セルジオ越後氏の「クオリティ」である。


 乾貴士選手のセルジオ批判に加勢した岡崎慎司選手は、だから、セルジオ越後氏に「責任ある発言して欲しい」と発言したのだ。

日本的な,余りに日本的なセルジオ越後氏
 誤解していただきたくないのだが、私たちは、何も、セルジオ越後氏の人格にまで踏み込んだ言及をしたいわけではない。

 フィリップ・トルシエ(サッカー日本代表監督,任期1998~2002)は、私に「あの〈セルジオ越後〉とかいう奴は何者なんだ?」と、質問してきた……。フットボールアナリスト・田村修一氏が、初代サポティスタ・浜村真也氏が催したトークイベントでこんな裏話を紹介していた

 書いていて思い出し笑いをしてしまったが、このエピソードで分かるように、セルジオ越後氏は、けして「普遍的」ではない。「日本的な,余りに日本的な」現象である。

 日本のサッカー評論とは、徒(いたずら)に日本のサッカーを、自ら蔑(さげす)んでみせることが良いとされている。その代表が、例えば「電波ライター」の旗手・金子達仁氏だ。そして、その金子達仁氏の師匠筋に当たるのが、セルジオ越後氏だったりする。

 金子達仁氏に関しては、これまでさんざん批判されてきた。えてしてエピゴーネンは「師」の悪いところを拡大する。すなわち、金子達仁氏はセルジオ越後氏の悪いところを拡大したからである。

 日本という、かつては「鳥なき里」だった場所に飛来した「蝙蝠(コウモリ)」が、セルジオ越後氏である(経歴詐称疑惑もあり,カナリアとまでは言い難い)。そんなセルジオ氏を過剰に有難がってきたのが、日本のいたいけなサッカーファンたちだった。

 自らのサッカーを徒に蔑んでみせることをもって良しとする、そんな心性を投影した、そんな心性に応える「サッカー評論家」がセルジオ越後氏だった。

 彼を評して「辛口」と言う。しかし、その実は、スパイスを効かせた美味なる料理ではなく、テレビ番組の「激辛王選手権」にでも出てくるような、ゲテモノとしての辛口料理である。

 その代償として、私たちは「日本サッカーへの〈味覚〉」というものを、大きく後退させてしまった。完全に麻痺しているのである。

 私たちサッカーファンは、このポストコロニアルな時代に、セルジオ越後氏に象徴される卑屈なコロニアル根性に、一体いつまで浸(ひた)り続けるのだろうか?

(了)



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暴露された「背番号10はアディダスの選手」
 『朝日新聞』電子版2018年5月11日付の署名記事(吉田純哉記者)が、サッカー日本代表のエースナンバー背番号10は、日本代表のスポンサー兼サプライヤーであるスポーツ用品メーカー=アディダスジャパン株式会社の契約選手であることが「暗黙の了解」として決まっている……と報じた(下記引用部リンク先参照)。名波浩選手、中村俊輔選手……、当代においては香川真司選手である。
背番号10はアディダスの選手 日本代表「暗黙の了解」
吉田純哉 2018年5月11日16時18分[リンク先

朝日新聞2018年5月11日電子版より
【『朝日新聞』電子版2018年5月11日の該当記事から】
 この記事には「09年にはアディダス〔アディダスジャパン〕がユニホームの売り上げを伸ばすために、人気選手の背番号をできるだけ変えないで欲しいと日本協会〔公益財団法人日本サッカー協会=JFA〕に要望を出したこともあった」とまである。

 日本代表の背番号10はアディダスの選手……。この話は、あくまで「噂」としてネットで語られていったものだった。それが電子版とはいえ、オールドメディアの代表であり、しかも、企業としてはアディダスジャパンと同じくサッカー日本代表のスポンサーである『朝日新聞』がこのことをハッキリ書いたことは、サッカーファンを驚かせた。

ハリル解任はスポンサーからの圧力説は「ある意味」正しい?
 高い契約金を出しているのだから、スポンサーが契約している選手にスポンサーが望む背番号をつけるのは当然ではないか……という声もある。しかし、よくよく考えてみると、この慣行は、W杯のような主要な試合や大会では、該当する選手を選び、起用してもらわなければ困る……という意思を半ば表明しているようなものだ。非常によろしくない。

 時の日本代表監督ヴァイド・ハリルホジッチ氏(ハリル氏)が「謎の解任」をされたのも、こうしたスポンサー(や大手広告代理連=電通)の意向を無視して特定の選手(本田圭佑選手やアディダスジャパン契約の香川真司選手)を、2018年ロシアW杯日本代表の選考から外しかねないことを懸念されたからだという噂がある。真偽は不明だが、ハリル氏を更迭した田嶋幸三JFA会長氏の胸中に、スポンサー筋への忖度(そんたく)がなかったと断言することは難しい。

 ロシアW杯では、ドイツ代表選出が確実視されていたレロイ・サネ選手が、まさかの落選。日本には『スポーツニッポン』電子版6月4日付でサネ選手のポスターが剥(は)がされる写真が掲載され、日本のサッカーファンを驚かせた。
サネ_ドイツ代表落選
【ポスターが剥がされるレロイ・サネ選手】

 ひるがえって日本。日本代表のスポンサーである日本航空(JAL)とアディダスジャパンがコラボレーションで、機体に香川真司選手のラッピング塗装がなされたJALの旅客機が登場している。
香川真司_アディダスジャパン_日本航空
【香川真司選手とアディダス,JALのコラボ機】

 これでは香川選手が選ばれて当然、選ばれなければならないということになる。彼には何の問題はないはずなのだが、あまりに対照的なサネ選手と香川選手のビジュアル。ドイツと日本で彼我の差を感じてしまう。

日本代表の背番号を五十音順で付ける試み
 こうした悪弊を克服するために、ひとつの方法がある。かつてのアルゼンチン代表やオランダ代表は、主要大会ではアルファベット順(ローマ文字)に背番号をつける習慣があった。こうやって機械的に背番号を割り振るようにすれば、特定のスポンサーが特定の選手に特定の背番号を付けさせることによって生じる問題を減らすことができる。

 日本ともなじみの深い、アルゼンチンのオズワルド・アルディレス(Osvaldo Ardiles)選手は、そのため「背番号1」をつけた珍しいフィールドプレーヤーとして有名であった。サッカーで背番号と言えば、通常、コールキーパー(GK)の背番号である。
背番号1のアルゼンチン代表アルディレス選手
【背番号1のアルゼンチン代表アルディレス選手】

 とどのつまりは、2018年ロシアW杯の日本代表メンバーの背番号を日本語の五十音順(アイウエオ順)で付け直すという試みである。いわば「アルゼンチン方式」だ。

大迫半端ある,アイツ半端あるって…?
 まず最初に、本来の2018年ロシアW杯日本代表メンバーを表で示し、あわせて第1戦日本vsコロンビア戦の先発メンバーをフォーメーションを示す。フォーメーションはロシアW杯のテレビ国際放送を参照した(以下,同じとする)。

A.2018ロシアW杯日本代表
背番号 選手名 Pos. 所属クラブ 読み
1 川島永嗣 GK メス かわしま えいじ
2 植田直通 DF 鹿島アントラーズ うえだ なおみち
3 昌子源 DF 鹿島アントラーズ しょうじ げん
4 本田圭佑 MF バチューカ ほんだ けいすけ
5 長友佑都 DF ガラタサライ ながとも ゆうと
6 遠藤航 DF 浦和レッズ えんどう わたる
7 柴崎岳 MF ヘタフェ しばさき がく
8 原口元気 MF デュッセルドルフ はらぐち げんき
9 岡崎慎司 FW レスター おかざき しんじ
10 香川真司 MF ドルトムント かがわ しんじ
11 宇佐美貴史 MF デュッセルドルフ うさみ たかし
12 東口順昭 GK ガンバ大阪 ひがしぐち まさあき
13 武藤嘉紀 FW マインツ むとう よしのり
14 乾貴士 MF エイバル いぬい たかし
15 大迫勇也 FW ブレーメン おおさこ ゆうや
16 山口蛍 MF セレッソ大阪 やまぐち ほたる
17 長谷部誠 MF フランクフルト はせべ まこと
18 大島僚太 MF 川崎フロンターレ おおしま りょうた
19 酒井宏樹 DF マルセイユ さかい ひろき
20 槙野智章 DF 浦和レッズ まきの ともあき
21 酒井高徳 DF ハンブルガーSV さかい ごうとく
22 吉田麻也 DF サウサンプトン よしだ まや
23 中村航輔 GK 柏レイソル なかむら こうすけ



 これを五十音順で並べ直すと、以下のようになる。

B.【五十音順】2018ロシアW杯日本代表
背番号 選手名 Pos. 所属クラブ 読み
1 乾貴士 MF エイバル いぬい たかし
2 植田直通 DF 鹿島アントラーズ うえだ なおみち
3 宇佐美貴史 MF デュッセルドルフ うさみ たかし
4 遠藤航 DF 浦和レッズ えんどう わたる
5 大迫勇也 FW ブレーメン おおさこ ゆうや
6 大島僚太 MF 川崎フロンターレ おおしま りょうた
7 岡崎慎司 FW レスター おかざき しんじ
8 香川真司 MF ドルトムント かがわ しんじ
9 川島永嗣 GK メス かわしま えいじ
10 酒井高徳 DF ハンブルガーSV さかい ごうとく
11 酒井宏樹 DF マルセイユ さかい ひろき
12 柴崎岳 MF ヘタフェ しばさき がく
13 昌子源 DF 鹿島アントラーズ しょうじ げん
14 長友佑都 DF ガラタサライ ながとも ゆうと
15 中村航輔 GK 柏レイソル なかむら こうすけ
16 長谷部誠 MF フランクフルト はせべ まこと
17 原口元気 MF デュッセルドルフ はらぐち げんき
18 東口順昭 GK ガンバ大阪 ひがしぐち まさあき
19 本田圭佑 MF バチューカ ほんだ けいすけ
20 槙野智章 DF 浦和レッズ まきの ともあき
21 武藤嘉紀 FW マインツ むとう よしのり
22 山口蛍 MF セレッソ大阪 やまぐち ほたる
23 吉田麻也 DF サウサンプトン よしだ まや

 これで見ると、背番号1の乾貴士選手が「和製アルディレス」になってしまう。国際的な前例はあるとしても、何か違和感がある。また、岡崎慎司選手7番、香川真司選手8番はいいとして、GK川島永嗣選手9番、そしてコロンビア戦で決勝ゴールをあげた大迫勇也選手が5番……? 「半端ない」はずの大迫選手が、実に半端な数字を背負っている。とても違和感がある。

餅は餅屋,ゴールキーパーは背番号1
 そこで一計を案じた。本来のロシアW杯日本代表の背番号である1番、12番、23番を、五十音順の背番号割り振りでもGK専用の番号として、GKの枠の中で背番号を五十音順に付ける。すなわち背番号1は川島永嗣選手、12は中村航輔選手、23は東口順昭選手である。それ以外の数字をフィールドプレーヤーの選手で五十音順で付けていく。すると以下のような表と、フォーメーション(日本vsコロンビア戦)になる。

C.【五十音順(修正)】2018ロシアW杯日本代表
背番号 選手名 Pos. 所属クラブ 読み
1 川島永嗣 GK メス かわしま えいじ
2 乾貴士 MF エイバル いぬい たかし
3 植田直通 DF 鹿島アントラーズ うえだ なおみち
4 宇佐美貴史 MF デュッセルドルフ うさみ たかし
5 遠藤航 DF 浦和レッズ えんどう わたる
6 大迫勇也 FW ブレーメン おおさこ ゆうや
7 大島僚太 MF 川崎フロンターレ おおしま りょうた
8 岡崎慎司 FW レスター おかざき しんじ
9 香川真司 MF ドルトムント かがわ しんじ
10 酒井高徳 DF ハンブルガーSV さかい ごうとく
11 酒井宏樹 DF マルセイユ さかい ひろき
12 中村航輔 GK 柏レイソル なかむら こうすけ
13 柴崎岳 MF ヘタフェ しばさき がく
14 昌子源 DF 鹿島アントラーズ しょうじ げん
15 長友佑都 DF ガラタサライ ながとも ゆうと
16 長谷部誠 MF フランクフルト はせべ まこと
17 原口元気 MF デュッセルドルフ はらぐち げんき
18 本田圭佑 MF バチューカ ほんだ けいすけ
19 槙野智章 DF 浦和レッズ まきの ともあき
20 武藤嘉紀 FW マインツ むとう よしのり
21 山口蛍 MF セレッソ大阪 やまぐち ほたる
22 吉田麻也 DF サウサンプトン よしだ まや
23 東口順昭 GK ガンバ大阪 ひがしぐち まさあき


 これでも乾選手は2番となり、大迫選手は6番になる。やはり違和感がある。また、10番が酒井高徳、11番酒井宏樹の両酒井選手はディフェンダー(DF)であり、これらの番号を背負うのは、どうしても違和を感じるという人は多いであろう。

 ちなみに、何かと話題の本田圭佑選手は18番である。日本の感覚では「歌舞伎十八番」であるとか(十八番とかいて「おはこ」とも読む)、日本プロ野球(NPB)では投手のエースナンバーであるとか、とても印象のいい番号である。

日本代表の背番号をイロハ順で付ける試み
 五十音順は現在の日本人の生活に馴染みすぎていて、頭文字を見れば、どの選手が若い番号に来るか、大きい番号に来るか、だいたい読めてしまうという問題がある。ここで少し目先を変えてみる。今度は日本代表の背番号をイロハ順(いろは歌の順番)で付けてみるのである。
いろは歌
いろはにほへと ちりぬるを
わかよたれそ  つねならむ
うゐのおくやま けふこえて
あさきゆめみし ゑひもせす

いろは歌

 その昔、1987年当時、玉木正之氏がまだ現場でちゃんと取材するスポーツライターだったころ(爆)、閑古鳥が鳴くこと有名だったロッテ・オリオンズ(当時)の本拠地・川崎球場(現・富士通スタジアム川崎)を取材に行った。その時、彼は川崎球場の座席が「イロハ順」で付けられていることに気が付いた。玉木氏はあまりも古臭さに嘆息したという。この話は、玉木氏の作品「牛島物語-川崎ノスタルジア」(所収『プロ野球の友』新潮文庫)に登場する。

プロ野球の友 (新潮文庫)
玉木 正之
新潮社
1988-03


 しかし、これを読んだ野球ファンで有名だった文学者の故丸谷才一が「イロハ順が古臭いとは何だ! 〈いろは歌〉は誇るべき日本の伝統文化,文学ではないか!」とった感じで玉木氏を批判した。玉木氏はひたすら恐縮した。むろん、丸谷才一の批判が正しい。
 余談だが、蓮實重彦(草野進)は「第一級の知識人のプロ野球ファンではない」のだろうか?

 閑話休題。戦前の日本プロ野球、草創期の阪神タイガースは選手の背番号をイロハ順で付けていた(下記リンク先参照)。
 景浦勝6番、藤村富美男10番(永久欠番)といった有名な選手と背番号の組み合わせは、イロハ順で付けられた結果だったのである。この例に倣って、エクセルを少しいじって2018年ロシアW杯日本代表の選手の背番号をイロハ順で付け直してみた。

D.【イロハ順】2018ロシアW杯日本代表
背番号 選手名 Pos. 所属クラブ 読み
1 川島永嗣 GK メス かわしま えいじ
2 乾貴士 MF エイバル いぬい たかし
3 原口元気 MF デュッセルドルフ はらぐち げんき
4 長谷部誠 MF フランクフルト はせべ まこと
5 本田圭佑 MF バチューカ ほんだ けいすけ
6 香川真司 MF ドルトムント かがわ しんじ
7 吉田麻也 DF サウサンプトン よしだ まや
8 長友佑都 DF ガラタサライ ながとも ゆうと
9 武藤嘉紀 FW マインツ むとう よしのり
10 植田直通 DF 鹿島アントラーズ うえだ なおみち
11 宇佐美貴史 MF デュッセルドルフ うさみ たかし
13 岡崎慎司 FW レスター おかざき しんじ
14 大迫勇也 FW ブレーメン おおさこ ゆうや
15 大島僚太 MF 川崎フロンターレ おおしま りょうた
16 山口蛍 MF セレッソ大阪 やまぐち ほたる
17 槙野智章 DF 浦和レッズ まきの ともあき
18 遠藤航 DF 浦和レッズ えんどう わたる
19 酒井高徳 DF ハンブルガーSV さかい ごうとく
20 酒井宏樹 DF マルセイユ さかい ひろき
21 柴崎岳 MF ヘタフェ しばさき がく
22 昌子源 DF 鹿島アントラーズ しょうじ げん
23 東口順昭 GK ガンバ大阪 ひがしぐち まさあき


 第二次大戦後、イロハ順が日本人の生活から遠ざかったこともあり、こちらの方が背番号をランダムに散らしている感じはする。もっとも、ここでも乾選手はフィールドプレーヤーの1番手になってしまうのである(背番号2)。大迫選手は14番で「半端ない」番号にはなったが、今度は原口元気選手が背番号3番。半端感があり、違和感があるのである。

五十音順・イロハ順の背番号を「フランス方式」で修正する
 これまで試みてきた背番号の割り振りに、何度か「違和感」という言葉を使ってきた。要は、サッカーの背番号が固定背番号制になって定着しているのに、かつての試合毎にポジションに応じて背番号を割り振るピラミッドシステムやWMシステム時代の背番号とポジションのイメージに、私たちが引きずられているからである。

 私たちは、サッカーにおいては守備的な選手はGKの背番号1から若い番号、以降、背番号11まで攻撃的な選手になるほど大きい番号になるという観念が刷り込まれている。こうした観念と、五十音順やイロハ順で背番号を付けることと、2つをどうすり合わせるべきなのか? ひとつ妙案がある。

 1986年メキシコW杯のフランス代表で実践されていたので、便宜的に「フランス方式」と呼ぶ(他の大会は確認していない)。この度の日本代表で言えば、1番、22番、23番をGK、2番~9番はDF、10番~18番をミッドフィルダー(MF)、19番~21番をフォワード(FW)とする。その中で選手の背番号を五十音順かイロハ順で割り振るのである。

 メキシコW杯のフランス代表の登録メンバーを見ると、ここでもアルファベット順による背番号を多少は意識しているようである。しかし、アルゼンチン方式にせよ、フランス方式にせよ、ディエゴ・マラドーナやミシェル・プラティニといったワールドクラスの選手は特別に「背番号10」を与えられている。もっとも、現状、日本にはマラドーナもプラティニもいないわけだし、気にしなくていい。むろん、中田英寿という選手は過大評価の最たるものである。

 前説が終わったところで、あらためてフランス方式とアルゼンチン方式の合わせ技によるロシアW杯日本代表、日本vsコロンビア戦のスタメンとフォーメーションである。まずは五十音順から。

E.【ポジション別による五十音順】2018ロシアW杯日本代表
背番号 選手名 Pos. 所属クラブ 読み
1 川島永嗣 GK メス かわしま えいじ
2 植田直通 DF 鹿島アントラーズ うえだ なおみち
3 遠藤航 DF 浦和レッズ えんどう わたる
4 酒井高徳 DF ハンブルガーSV さかい ごうとく
5 酒井宏樹 DF マルセイユ さかい ひろき
6 昌子源 DF 鹿島アントラーズ しょうじ げん
7 長友佑都 DF ガラタサライ ながとも ゆうと
8 槙野智章 DF 浦和レッズ まきの ともあき
9 吉田麻也 DF サウサンプトン よしだ まや
10 乾貴士 MF エイバル いぬい たかし
11 宇佐美貴史 MF デュッセルドルフ うさみ たかし
12 大島僚太 MF 川崎フロンターレ おおしま りょうた
13 香川真司 MF ドルトムント かがわ しんじ
14 柴崎岳 MF ヘタフェ しばさき がく
15 長谷部誠 MF フランクフルト はせべ まこと
16 原口元気 MF デュッセルドルフ はらぐち げんき
17 本田圭佑 MF バチューカ ほんだ けいすけ
18 山口蛍 MF セレッソ大阪 やまぐち ほたる
19 大迫勇也 FW ブレーメン おおさこ ゆうや
20 岡崎慎司 FW レスター おかざき しんじ
21 武藤嘉紀 FW マインツ むとう よしのり
22 中村航輔 GK 柏レイソル なかむら こうすけ
23 東口順昭 GK ガンバ大阪 ひがしぐち まさあき


 これだと、背番号とポジションと選手のイメージの結びつきのギャップはかなり減る。乾選手が10番、香川選手が13番(ゲルト・ミュラーと同じ)、柴崎選手が14番(ヨハン・クライフと同じ)、原口選手が16番、大迫選手19番。ただし、センターバックの吉田麻也選手の9番(釜本邦茂と同じ!)には違和感があるが、逆に言えば完璧な方法など存在しないということである。この度の日本代表はFW登録の選手が3人しかいなかった(フォーメーション図の吉田麻也選手の背番号に誤りがあります.ご容赦ください)。

 続いて、同じくイロハ順である。

F.【ポジション別によるイロハ順】2018ロシアW杯日本代表
背番号 選手名 Pos. 所属クラブ 読み
1 川島永嗣 GK メス かわしま えいじ
2 吉田麻也 DF サウサンプトン よしだ まや
3 長友佑都 DF ガラタサライ ながとも ゆうと
4 植田直通 DF 鹿島アントラーズ うえだ なおみち
5 槙野智章 DF 浦和レッズ まきの ともあき
6 遠藤航 DF 浦和レッズ えんどう わたる
7 酒井高徳 DF ハンブルガーSV さかい ごうとく
8 酒井宏樹 DF マルセイユ さかい ひろき
9 昌子源 DF 鹿島アントラーズ しょうじ げん
10 乾貴士 MF エイバル いぬい たかし
11 原口元気 MF デュッセルドルフ はらぐち げんき
12 長谷部誠 MF フランクフルト はせべ まこと
13 本田圭佑 MF バチューカ ほんだ けいすけ
14 香川真司 MF ドルトムント かがわ しんじ
15 宇佐美貴史 MF デュッセルドルフ うさみ たかし
16 大島僚太 MF 川崎フロンターレ おおしま りょうた
17 山口蛍 MF セレッソ大阪 やまぐち ほたる
18 柴崎岳 MF ヘタフェ しばさき がく
19 武藤嘉紀 FW マインツ むとう よしのり
20 岡崎慎司 FW レスター おかざき しんじ
21 大迫勇也 FW ブレーメン おおさこ ゆうや
22 中村航輔 GK 柏レイソル なかむら こうすけ
23 東口順昭 GK ガンバ大阪 ひがしぐち まさあき


 ここでも乾選手は10番、原口選手が11番、柴崎選手は日本代表の「おはこ」で18番、半端ない大迫選手は21番。先発メンバーではないが、本田圭佑選手は欧米人が忌避するという13番。悪くないような気がする。

 拝啓 アディダスジャパン様。香川真司選手はヨハン・クライフと同じ背番号14じゃいけませんか? 敬具(おっと,クライフはプーマの契約選手だったが……)

 繰り返すが、日本代表と契約するスポーツ用品メーカーの要請で特定の背番号を付けるという、現在の慣行はさまざまな弊害があるので止めるべきである。では、そうしたらいいのかというと、ここで示したような、アルゼンチン方式+フランス方式による五十音順かイロハ順がより良い方法ではないかと思う。個人的にはイロハ順を推したい。

 JFAはアディダスジャパンと手を切るべきである。デザインは愚劣だし、選手の選考には事実上口出ししている。契約が切れるときには、ぜひとも一考願いたい。

Mbappeが日本代表だったら背番号は何番?
 さて、コンビニエンスストアや飲食店で働いている人を見ていると、いよいよ日本も移民社会に入っている気がする。将来、サッカー日本代表でアフリカに縁のあるワールドクラスの選手が出てきたとして、仮にその名前(ファミリーネーム)を「Mbappe」としよう。彼は何と表記されるのか? エムパペ、ムバペ、ンバペ、エンバペ、ムバッペ……? 少なくとも欧米式のように頭に「エ」を付けるのは、ポストコロニアルの世界のあり方としては止めるべきである。

 そして、背番号は? 特別扱いで10番は与えないものとして、五十音順かイロハ順ではどんな背番号になるのか? ……などと、妄想に耽るのは面白い。

(了)




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