スポーツライター玉木正之氏の知的誠実さを問う

日本のサッカーカルチャーについてさまざま論じていきたいと思っています。

タグ:#紫を取り戻せ

日本サッカーにおけるクラブカルチャー蹂躙の歴史
 以前、サンフレッチェ広島の「#紫を取り戻せ」問題や、古河電工サッカー部からジェフユナイテッド市原・千葉へのモデルチェンジの話をした。

 これらを手がかりに、日本サッカーにおけるクラブカルチャーとは、親会社やビジネス、スポンサー企業の広告上の都合などによるアイデンティティ蹂躙の歴史であったと説いた。
  •  【おさらい】サンフレッチェ広島と古河電工~日本サッカーにおけるクラブカラー蹂躙の歴史(2020年02月15日)
 特に1991年頃から1993年にかけての、旧・日本サッカーリーグ(JSL)から新生Jリーグ移行期はそうであった。これは古生物学で言う「大量絶滅」ともいうべき、日本サッカーのクラブのアイデンティティの深い断絶である。

 Jリーグ各クラブの「表徴」……すなわち、クラブカラー、クラブ名、着ぐるみのマスコット等々、従来のサッカーファンから見て違和感があるものばかりだった。当時のサッカーファンが特に違和感を感じたのは、クラブ(チーム)の呼称である。

 日本既存のスポーツのチーム名、すなわちプロ野球(NPB)や実業団スポーツのように親会社の企業名を冠しない……という美名のもとに、ツッコミどころ満載の、実に不思議な命名が続出した。

 ウィキペディア日本語版の記述を主な参考として、かつそれを信用できるものとして、いくつかのJリーグ・クラブの命名の由来をたどってみると……。

Jリーグ・クラブの不思議な命名
 まず「サンフレッチェ広島」(Sanfrecce Hiroshima)。日本語の「三」およびイタリア語で矢を意味する「フレッチェ」(frecce,複数形)を合わせたもので、地元を本拠とした戦国大名・毛利元就の「三本の矢」の故事にちなんでいる……とされる。

 この日本語+イタリア語の組み合わせが、いかにも面妖である。イタリア語で「三本の矢」ならば「トレ・フレッチェ」(Tre frecce)ではないか……と、サッカージャーナリストの後藤健生氏は、学研が出していたサッカー専門誌『ストライカー』の連載で突っ込んでいた。

 続いて「ガンバ大阪」(Gamba Osaka)。「ガンバ(Gamba)」は、イタリア語で「脚」を意味し、「脚」によってシンプルで強いチームを目指す。また、日本語の「頑張(がんば)る」にも通じる……とある。

 しかし、このイタリア語「ganba」は単数形である。2本の脚でサッカーをやる場合は複数形の「gambe」(ガンベ)ではないかとツッコミを入れたのは、作家・ジャーナリストの林信吾氏だった(林氏のサッカー本『ロングパス』だったかもしれないが,よく覚えていない)。

 そして、もう無くなってしまったが「横浜フリューゲルス」(Yokohama Flügels)。親会社が航空会社の全日空なので、愛称はドイツ語で「翼」を意味する「フリューゲル」(Flügel)。なお、 /l/ は有声音なので、英語で発音するなら語尾の「s」は、本来的には /s/ ではなく /z/ となる……。

 ……と、ここまで読んできてネットの独和辞典を調べてみると名詞「Flügel」の複数形は単数形と同じ。ドイツ語で「Flügels」と言うと、複数形ではなく属格(英語で言う所有格)になる。チームスポーツのクラブの名称としては無意味でふさわしくない。

 ウィキペディア日本語版の説明も何かおかしい。

 とにかく、Jリーグのクラブの命名は、欧米語の観点からして、出鱈目の滅茶苦茶なものが多々ある。サッカーを「世界のスポーツ」としてみた場合、これが非常に良くないことなのではないか。

 例えば、国際サッカー歴史統計連盟(IFFHS)のメンバーシップを持っている、ある日本人のサッカージャーナリストがいる。

 この人は、1991年頃、Jリーグ各クラブの名前の由来(前述のサンフレッチェとか,ガンバとか,フリューゲルスとか)を、海外のサッカージャーナリスト仲間に説明するのが、恥ずかしくて恥ずかしくてしょうがない……という愚痴を、某所でこぼしていたらしい。

レッズ…英国リバプールの場合
 古いサッカーファンは、マンチェスター・ユナイテッド、ノッティンガム・フォレスト、シェフィールド・ウェンズデー、バイエルン・ミュンヘン、レアル・マドリード、インテル・ミラノ……といった「記号」、すなわち、欧州のサッカークラブの名称をカッコイイ、好ましいものだと思ってきた。

 ところが、前述のように日本のJリーグは欧州流にはならなかった。古いサッカーファンがJリーグのクラブの命名に違和感を持った理由のひとつが、それである。

 だだし、これには国際的な法則性があって、日本の場合は致し方ない点がある。話の出処は、これまで何度もお世話になってきたデズモンド・モリスの『サッカー人間学』(原題:The Soccer Tribe)である。

 著者のモリス博士は、英国・欧州の伝統的なサッカーリーグと、アメリカ合衆国のプロサッカーリーグ旧「NASL」(北米サッカーリーグ)と、あるいは英国・欧州の伝統的なスポーツと、アメリカのプロスポーツを比べて、このふたつの流儀の違いを説明している。

サッカー人間学―マンウォッチング 2
デズモンド・モリス
小学館
1983-02


The Soccer Tribe
Desmond Morris
Rizzoli
2016-09-06


 まずは、英国・欧州流のしきたりである。
 アメリカ〔合衆国〕とヨーロッパのクラブでは、今ひとつ、……〔クラブの〕愛称に対する公式態度に違いがある。

 ヨーロッパでは、愛称がいかに有名になり、ごく普通に用いられていても、クラブの名称や呼称に含めることはしない。

 これに対して、アメリカでは愛称が正式名となり、つねに公式クラブ名の一部になっている。

 したがって、例えば、ノリッジに本拠をおくイングランドのクラブが、アメリカ式命名法に従えばノリッジ・キャナリーズ〔カナリアの複数形〕の呼称で知られることになり、ノリッジ・シティ・フットボール・クラブというような典型的な重厚さを備えた名称は使われなくなる。

デズモンド・モリス『サッカー人間学』210頁

  •  [イングランド・プレミアリーグ]ノリッジ・シティFC
 例えば、イングランド・サッカーのプレミアリーグで「レッズ」と呼ばれるクラブの名称は、あくまで「リバプール・フットボール・クラブ」(リバプールFC)である。
  •  リヴァプールFC(日本語)
 だから「リバプール・レッズ」とは呼ばない。

レッズ…米国シンシナティの場合
 一方、アメリカ合衆国(カナダを含めた北米圏)はの流儀はどうか。
 ひたすら部族本拠地の地名をクラブ名とするヨーロッパのクラブの伝統主義は、現代的なアメリカ人の好みには合わない。

 アメリカのクラブでは、なりゆきにまかせてトーテム像的象徴がゆっくりと自然に浸透するのを待つよりも、制度化によって愛称をサポーターに〈売り込める〉派手な呼称の方が好まれる。

 ヨーロッパ人の目には、これもアメリカ的〈押し売り〉の典型で、アメリカのサッカー部族民〔ファン,サポーター〕におしきせの伝承を強制するかのように映るかもしれない。

 北アメリカにおいては、サッカーはいまだに、アメリカン・フットボールや野球のように昔から根を下ろしいるスポーツに強く頭を押さえつけられ、苦しんでいる小規模スポーツであることを忘れてはならない。

 大衆のより強力な支持を得るために苦闘を続けている段階では、ヨーロッパのサッカーが慈〔いつく〕しんでいるような、伝統的な呼称を用いて、尊大に構えるような、ぜいたくは許されないのである。

デズモンド・モリス『サッカー人間学』210頁

  •  [アメリカ合衆国・旧NASL]ニューヨーク・コスモス
 例えば、アメリカのプロ野球メジャーリーグで「レッズ」」と呼ばれるクラブ(球団)の名称は、あくまで「シンシナティ・レッズ」である。
  •  シンシナティ・レッズ公式
 だから「シンシナティ・ベースボール・クラブ」とは呼ばない。*

後発サッカー国としてのアメリカ合衆国,そして日本…
 この旧NASLの事情は、日本のJリーグでも全く同様である。

 欧州のサッカーに憧憬していた古いサッカーファンは、Jリーグのクラブのネーミングには、大いなる違和感を感じた。いかにもアメリカ・スポーツ的な制度化された命名、〈押し売り〉の典型であり、サッカーファン、サポーターにおしきせの伝承を強制したように映った。

 しかし、日本においては、サッカーは未だに(2020年時点でもそうかもしれない)、野球や大相撲のように昔から根を下ろしいるスポーツに強く頭を押さえつけられ、苦しんでいるマイナースポーツであることを忘れてはならない。

 日本のサッカーは、大衆のより強力な支持を得るために苦闘を続けている段階であり(2020年時点でもそうかもしれない)、ヨーロッパのサッカーが慈(いつく)しんでいるような、伝統的な呼称を用いて、尊大に構えるような、ぜいたくは許されないのである。

 だから、サンフレッチェ広島、ガンバ大阪、横浜フリューゲルス……だったのである。

 ……とはいえ、あまりにも野放図なJリーグのクラブの命名には、日本でもこれを回避したいクラブが出てくる。東京ガス・サッカー部がJリーグのクラブとなる時には、あくまで簡潔に「FC東京」とした。

 これには、旧来の東京ガス・サッカー部のサポーターの意向(ウルトラスニッポンの植田朝日氏ら?)があったとも聞いている。

 しかし「東京」となると、あまりにもメトロポリス過ぎて、かえって漠然とした印象がしないわけではない。……が、それは、まあよい。

Jリーグ・クラブは「ウォークマン」である?
 こうした、最初期Jリーグのクラブの命名、クラブカラーやエンブレム、着ぐるみマスコットの作成等々は、文具や雑貨などに付けるキャラクター商品の開発や管理・販売を行っている「ソニー・クリエイティブプロダクツ」(ソニーCP)が請け負った。**

 ソニーCPは、本当にキャラクター商品を創るように、Jリーグのクラブをネーミングしていった。しかし、それが古いサッカーファンたちの「ウケ」が良くなかったのは、前述のとおりである。

 ソニーCPは、Jリーグのクラブ名を欧文に訳した時の自然さ・不自然さ、また海外のサッカーファンやジャーナリスト反応を考えていなかったのかもしれない。……が、しかし、今やJリーグの試合は東南アジアやオーストラリアでも放映されている。

 ソニーのヘッドホンステレオ「ウォークマン」が、英文法的には間違いの和製英語であっても、ついにこれを押し切って、国際的に通用する商標名(英単語)になってしまったように、Jリーグ・クラブの名前も定着してしまっている!?

以下,蛇足ながら…
 ……と、普通のエントリーなら、ここでオチがついて終わるわけだが、今回、そうならないのは、Jリーグ・クラブの命名法にやっぱり馴染めないものを感じているからだ。
  •  宇都宮徹壱「なぜ〈FC町田トウキョウ〉が炎上しているのか? クラブ名称変更をめぐるオーナーとサポーターの齟齬」(2019/10/12)
 その他愛のなさは、昨今のFC町田ゼルビアの改名問題とも、深いところで一脈つながっているのでは……と、かなり強引な連想をしてしまうのであった。

(了)




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サンフレッチェ広島の「#紫を取り戻せ」問題
 2019年12月下旬からネット上の国内サッカークラスタを騒がせた、Jリーグ・サンフレッチェ広島の、いわゆる「#紫を取り戻せ」問題を傍目からナナメ読みしてきた。

 事の顛末(てんまつ)、詳しくはリンク先を当たってください。
  •  サンフレ公式「2020サンフレッチェ広島 アウェイユニフォーム決定のお知らせ」(2019/12/23)
  •  サッカーキング「浦和,鹿島,広島が新アウェーユニを発表! 史上初の3クラブ統一テーマ」(2019.12.23)
  •  J-CASTニュース「サンフレッチェ広島サポが〈#紫を取り戻せ〉〈赤い〉アウェーユニに激怒,クラブに対応を聞いた」(2019/12/25)

  •  ちょっつ☆☆☆「クラブのアイデンティティ」(2019/12/24)
 とどのつまりは、サンフレッチェ広島のサプライヤー兼スポンサー「ナイキジャパン」が、自社の都合を優先させて、クラブカラー(チームのアイデンティティ)を踏みにじった。*

 しかも、サンフレッチェ広島の広報は、この件に関する取材に対して、木で鼻をくくったような応答しかできなかったものだから、同クラブのファンやサポーターが(少なくともネット上では)怒り心頭に達した……こんなところか。

クラブカルチャーの大量絶滅期としてのJSL→Jリーグ移行
 楽天のクラブ買収によるヴィッセル神戸のクラブカラー変更。継続中の町田ゼルビアの改名問題。大口のスポンサーではなかったので沙汰止みになったがモンテディオ山形のフルモデルチェンジ構想というのもあった……。

 ……等々、経営上、資金面の後援上その他の事情で、クラブカラーを含めたクラブのアイデンティティが蹂躙され、場合によっては変更まで余儀なくされるという事例は、過去の日本サッカー史の好ましからざる伝統として、何度となく起こってきたことである。

 まあ、一番酷いのは、これまでくどくど論じてきたように、アディダスジャパンによるサッカー日本代表チームのデザインであるが。

サカダイ「アディダス西脇大樹氏インタビュー」1
【サッカー日本代表ユニフォーム「迷彩」デザイン】

 閑話休題。そもそも1991年頃から1993年にかけての、旧・日本サッカーリーグ(JSL)から新生Jリーグ移行期は、そうである。これは古生物学で言う「大量絶滅」ともいうべき、日本サッカーのクラブのアイデンティティの深い断絶があった。

 Jリーグ各クラブの「表徴」……すなわち、クラブカラー、クラブ名、着ぐるみのマスコット等々、従来のサッカーファンから見て違和感があるものばかりだったからである。今回は、特にクラブカラーに絞って話を進める。

古河電工からジェフ千葉へ…大胆すぎるモデルチェンジ
 現在のJリーグ、ジェフユナイテッド市原・千葉(ジェフ千葉)の前身で古河電工サッカー部というサッカーチーム(クラブ)があった。このクラブは日本のサッカー史に欠かせない重要な存在である。

 同クラブは、1950年代から1960年代にかけて日本のサッカーを学生主体のスポーツから社会人中心のスポーツへと移行させる足掛かりを作った。Jリーグの前身となる旧JSLの創設に尽力した。JSLでは一度も2部に降格したことはない。アジアクラブ選手権を日本のクラブとして初めて制覇した。

 送り出した人材には、奥寺康彦、岡田武史、清雲栄純、永井良和……など優れたサッカー人が数多い。また、長沼健、平木隆三、川淵三郎、小倉純二、木之本興三、田嶋幸三……らは、日本サッカー政治の本流である。

 すなわち、日本サッカーの超名門クラブなのである。にもかかわらず……。

 ……日産自動車サッカー部(後の横浜F・マリノス,)、読売サッカークラブ(後の東京ヴェルディ1969,□)のように、伝統のクラブカラーを大きく損ねることなく、Jリーグのクラブとして移行できた幸運な例がある……。

 ……一方で、古河電工サッカー部()改めジェフユナイテッド市原・千葉()のように、Jリーグの理念の美名のもとに、クラブの名称ばかりか、これが元は同じチームなのかというくらいに、クラブカラーが変えられてしまったチームもある。

古河電工サッカー部ユニフォーム
【古河電工サッカー部ユニフォーム(Jリーグ以前)】

ジェフユナイテッド市原千葉ユニフォーム決定
【ジェフユナイテッド市原・千葉ユニフォーム(2020年)】

 当時、これはサンフレッチェ広島の「#紫を取り戻せ」と同様、大問題となった……などということは全く無いのだが、少なからず不満を抱いた古河電工サッカー部のオールドファン、サポーターがいた。

 サッカージャーナリストの後藤健生氏と、「サッカー講釈」のブロガー・武藤文雄氏である。

古河電工のアイデンティティをJリーグに奪われたオールドファンたち
 Jリーグのスタートを控えた1993年4月、二見書房が出した『Jリーグ最強読本~一歩踏み込んだ戦術とスター選手研究』は、当時のJリーグの各クラブ(いわゆるオリジナル10)を、さまざまなサッカージャーナリストが分析・批評して、それぞれ紹介している。

 ここで古河電工サッカー部改めジェフユナイテッド市原(当時の呼称)を担当しているのが、後藤健生氏である。この中で氏は、若い頃、古河電工の応援用フラッグを自作して、かつ持参して試合に臨んだ「ガチ」の古河サポであったことを「告白」している。

 同じく二見書房が出した、続編とも言うべき1993年11月の『Jリーグ興奮本~トップライター10人が描いた!』でも、ジェフユナイテッド市原を担当しているのが後藤健生氏である。ただし、コンテンツの体裁はかなり違っている。

 執筆のクレジットこそ後藤健生氏であるが、こちらの方は「J君」と「F君」なる、2人の匿名の旧古河電工サッカー部のファンが、対談形式でジェフユナイテッド市原に茶々を入れるをいろいろ論評するという構成になっている。

 このうち「J君」と「F君」のどちらか片方が後藤健生氏で、もう片方がこれまた古河電工のファンだった武藤文雄氏だったという「噂」がある(たぶん本当である)。

 この対談で「J君」と「F君」のいずれかが、つまり後藤健生氏か武藤文雄氏のいずれかが、Jリーグのために俺たちの(笑)古河電工サッカー部が喪(うしな)われてしまった。由緒ある古河電工のクラブカラーまで変えられてしまった……。

 ……あまつさえ、昨今のジェフ千葉の黄・緑・赤のクラブカラーは、まるでアフリカのどこかの国のナショナルチームではないかと、(怒り心頭とまではいかないが)まったく不満げな愚痴やボヤキを吐露していたのであった。

 サンフレッチェ広島の「#紫を取り戻せ」問題を見ていると、この古河電工からジェフユナイテッド市原・千葉のクラブカラー変更の一件を思い出してしまう。
  •  Qoly「ジェフ千葉が25周年記念ユニフォームを発表!古河電工を思わせる好デザイン」(2016/04/16)
 ビジネス上の都合で、クラブカラーなど、応援するチームのアイデンティティが蹂躙されてしまった前例である。

1962年の日本プロ野球
 こうした、最初期Jリーグのクラブの命名、クラブカラーやエンブレム、着ぐるみマスコットの作成等々は、文具や雑貨などに付けるキャラクター商品の開発や管理・販売を行っている「ソニー・クリエイティブプロダクツ」(ソニーCP)が請け負った。

 同社の有名なキャラクターとしては、清潔好きなバクテリアという設定の「バイキンくん」があった。また「きかんしゃトーマス」に関する権利を保有している。

 ソニーCPは、本当にキャラクター商品を創るように、Jリーグのクラブのイメージを決めていった。その結果が、現在あるJリーグのクラブのさまざまな「表徴」類である。

 しかし、それが、後藤健生氏をはじめとして、オールドサッカーファンの「ウケ」が良くなかったのは、前述のとおりである。

 サッカーには冷笑的な武田薫氏というスポーツライターは「Jリーグはオールドファンを切り捨てたのだ」と、ハッキリと、かつ冷笑的に書いている。実際そうなのだろう。当時のサッカーファンなんて、切り捨ててもいいくらいの少数派に過ぎなかったのだし(笑)

 いろいろ問題はあったのだが、とにかくサッカー・Jリーグは、2019年に27年目のシーズンを迎えた。ちなみに、日本プロ野球(NPB)の27年目のシーズン=1962年(昭和37年)を振り返ってみると、なかなか興味深い。
  •  ウスコイ企画「日本プロ野球記録1962」
 東映フライヤーズ(現・北海道日本ハム ファイターズ)の日本一(つまり,張本勲選手唯一の日本シリーズ優勝)、阪神タイガース15年ぶりのリーグ優勝などあるが、最も印象的なのは、三振王と揶揄されていた読売ジャイアンツ(巨人軍)の王貞治選手が一本足打法(フラミンゴ打法)を会得して突如打撃開眼し、打撃タイトル二冠を獲得した話である。

 日本のプロサッカーリーグ(Jリーグ)も、それだけの歳月を重ねているわけで、2019年シーズンの観客動員数は、同年のラグビーW杯日本大会で大きなスタジアム(東京・調布,横浜)がしばらく使えなかったにもかかわらず、平均2万人以上を達成した。

 スゴイことである。

 とにかくそれで27年やってきた。その成果である。にもかかわらず、クラブとスポンサーの絡みで、クラブの「表徴」が侵食される、アイデンティティが踏みにじられるみたいな話が未だ出てくるということは、いったいどうしたわけなのか?

古くて新しい問題
 日本のプロ野球は親会社の広告・宣伝のためにあるに過ぎない。そこから来る弊害も多い。対して、サッカー・Jリーグは企業から自立している……みたいなことが、「Jリーグの理念」を賛美する(玉木正之氏のような)人から喧伝されていた。

 しかし、結局のところ、クラブ(球団)と企業の宣伝にかかわる「微妙な関係」は、野球も、サッカーも、あまり変わらないのではないか。

 これが日本スポーツ界特有の問題なのかは分からないが、少なくとも、日本のサッカーが本当に企業から自立しているのかどうかは怪しい。

 同じクラブの「表徴」で言うと、宇都宮徹壱氏のように着ぐるみのマスコットに注目する人は多い。しかし、クラブカラーに注目するサッカージャーナリスト(や評論家,スポーツ社会学者)は多くない印象である。

 相手がスポンサー企業に絡むと、やはり踏み込んで取材しにくいのだろうか……と、またもや疑心暗鬼になるのであった。

つづく




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