スポーツライター玉木正之氏の知的誠実さを問う

大化の改新と蹴鞠(けまり)問題など、日本のサッカーカルチャーについてさまざま論じていきたいと思っています。

カテゴリ:サッカー > サッカー,ラグビーのジャージ,ユニフォーム

日本サッカーにおけるクラブカルチャー蹂躙の歴史
 以前、サンフレッチェ広島の「#紫を取り戻せ」問題や、古河電工サッカー部からジェフユナイテッド市原・千葉へのモデルチェンジの話をした。

 これらを手がかりに、日本サッカーにおけるクラブカルチャーとは、親会社やビジネス、スポンサー企業の広告上の都合などによるアイデンティティ蹂躙の歴史であったと説いた。
  •  【おさらい】サンフレッチェ広島と古河電工~日本サッカーにおけるクラブカラー蹂躙の歴史(2020年02月15日)
 特に1991年頃から1993年にかけての、旧・日本サッカーリーグ(JSL)から新生Jリーグ移行期はそうであった。これは古生物学で言う「大量絶滅」ともいうべき、日本サッカーのクラブのアイデンティティの深い断絶である。

 Jリーグ各クラブの「表徴」……すなわち、クラブカラー、クラブ名、着ぐるみのマスコット等々、従来のサッカーファンから見て違和感があるものばかりだった。当時のサッカーファンが特に違和感を感じたのは、クラブ(チーム)の呼称である。

 日本既存のスポーツのチーム名、すなわちプロ野球(NPB)や実業団スポーツのように親会社の企業名を冠しない……という美名のもとに、ツッコミどころ満載の、実に不思議な命名が続出した。

 ウィキペディア日本語版の記述を主な参考として、かつそれを信用できるものとして、いくつかのJリーグ・クラブの命名の由来をたどってみると……。

Jリーグ・クラブの不思議な命名
 まず「サンフレッチェ広島」(Sanfrecce Hiroshima)。日本語の「三」およびイタリア語で矢を意味する「フレッチェ」(frecce,複数形)を合わせたもので、地元を本拠とした戦国大名・毛利元就の「三本の矢」の故事にちなんでいる……とされる。

 この日本語+イタリア語の組み合わせが、いかにも面妖である。イタリア語で「三本の矢」ならば「トレ・フレッチェ」(Tre frecce)ではないか……と、サッカージャーナリストの後藤健生氏は、学研が出していたサッカー専門誌『ストライカー』の連載で突っ込んでいた。

 続いて「ガンバ大阪」(Gamba Osaka)。「ガンバ(Gamba)」は、イタリア語で「脚」を意味し、「脚」によってシンプルで強いチームを目指す。また、日本語の「頑張(がんば)る」にも通じる……とある。

 しかし、このイタリア語「ganba」は単数形である。2本の脚でサッカーをやる場合は複数形の「gambe」(ガンベ)ではないかとツッコミを入れたのは、作家・ジャーナリストの林信吾氏だった(林氏のサッカー本『ロングパス』だったかもしれないが,よく覚えていない)。

 そして、もう無くなってしまったが「横浜フリューゲルス」(Yokohama Flügels)。親会社が航空会社の全日空なので、愛称はドイツ語で「翼」を意味する「フリューゲル」(Flügel)。なお、 /l/ は有声音なので、英語で発音するなら語尾の「s」は、本来的には /s/ ではなく /z/ となる……。

 ……と、ここまで読んできてネットの独和辞典を調べてみると名詞「Flügel」の複数形は単数形と同じ。ドイツ語で「Flügels」と言うと、複数形ではなく属格(英語で言う所有格)になる。チームスポーツのクラブの名称としては無意味でふさわしくない。

 ウィキペディア日本語版の説明も何かおかしい。

 とにかく、Jリーグのクラブの命名は、欧米語の観点からして、出鱈目の滅茶苦茶なものが多々ある。サッカーを「世界のスポーツ」としてみた場合、これが非常に良くないことなのではないか。

 例えば、国際サッカー歴史統計連盟(IFFHS)のメンバーシップを持っている、ある日本人のサッカージャーナリストがいる。

 この人は、1991年頃、Jリーグ各クラブの名前の由来(前述のサンフレッチェとか,ガンバとか,フリューゲルスとか)を、海外のサッカージャーナリスト仲間に説明するのが、恥ずかしくて恥ずかしくてしょうがない……という愚痴を、某所でこぼしていたらしい。

レッズ…英国リバプールの場合
 古いサッカーファンは、マンチェスター・ユナイテッド、ノッティンガム・フォレスト、シェフィールド・ウェンズデー、バイエルン・ミュンヘン、レアル・マドリード、インテル・ミラノ……といった「記号」、すなわち、欧州のサッカークラブの名称をカッコイイ、好ましいものだと思ってきた。

 ところが、前述のように日本のJリーグは欧州流にはならなかった。古いサッカーファンがJリーグのクラブの命名に違和感を持った理由のひとつが、それである。

 だだし、これには国際的な法則性があって、日本の場合は致し方ない点がある。話の出処は、これまで何度もお世話になってきたデズモンド・モリスの『サッカー人間学』(原題:The Soccer Tribe)である。

 著者のモリス博士は、英国・欧州の伝統的なサッカーリーグと、アメリカ合衆国のプロサッカーリーグ旧「NASL」(北米サッカーリーグ)と、あるいは英国・欧州の伝統的なスポーツと、アメリカのプロスポーツを比べて、このふたつの流儀の違いを説明している。

サッカー人間学―マンウォッチング 2
デズモンド・モリス
小学館
1983-02


The Soccer Tribe
Desmond Morris
Rizzoli
2016-09-06


 まずは、英国・欧州流のしきたりである。
 アメリカ〔合衆国〕とヨーロッパのクラブでは、今ひとつ、……〔クラブの〕愛称に対する公式態度に違いがある。

 ヨーロッパでは、愛称がいかに有名になり、ごく普通に用いられていても、クラブの名称や呼称に含めることはしない。

 これに対して、アメリカでは愛称が正式名となり、つねに公式クラブ名の一部になっている。

 したがって、例えば、ノリッジに本拠をおくイングランドのクラブが、アメリカ式命名法に従えばノリッジ・キャナリーズ〔カナリアの複数形〕の呼称で知られることになり、ノリッジ・シティ・フットボール・クラブというような典型的な重厚さを備えた名称は使われなくなる。

デズモンド・モリス『サッカー人間学』210頁

  •  [イングランド・プレミアリーグ]ノリッジ・シティFC
 例えば、イングランド・サッカーのプレミアリーグで「レッズ」と呼ばれるクラブの名称は、あくまで「リバプール・フットボール・クラブ」(リバプールFC)である。
  •  リヴァプールFC(日本語)
 だから「リバプール・レッズ」とは呼ばない。

レッズ…米国シンシナティの場合
 一方、アメリカ合衆国(カナダを含めた北米圏)はの流儀はどうか。
 ひたすら部族本拠地の地名をクラブ名とするヨーロッパのクラブの伝統主義は、現代的なアメリカ人の好みには合わない。

 アメリカのクラブでは、なりゆきにまかせてトーテム像的象徴がゆっくりと自然に浸透するのを待つよりも、制度化によって愛称をサポーターに〈売り込める〉派手な呼称の方が好まれる。

 ヨーロッパ人の目には、これもアメリカ的〈押し売り〉の典型で、アメリカのサッカー部族民〔ファン,サポーター〕におしきせの伝承を強制するかのように映るかもしれない。

 北アメリカにおいては、サッカーはいまだに、アメリカン・フットボールや野球のように昔から根を下ろしいるスポーツに強く頭を押さえつけられ、苦しんでいる小規模スポーツであることを忘れてはならない。

 大衆のより強力な支持を得るために苦闘を続けている段階では、ヨーロッパのサッカーが慈〔いつく〕しんでいるような、伝統的な呼称を用いて、尊大に構えるような、ぜいたくは許されないのである。

デズモンド・モリス『サッカー人間学』210頁

  •  [アメリカ合衆国・旧NASL]ニューヨーク・コスモス
 例えば、アメリカのプロ野球メジャーリーグで「レッズ」」と呼ばれるクラブ(球団)の名称は、あくまで「シンシナティ・レッズ」である。
  •  シンシナティ・レッズ公式
 だから「シンシナティ・ベースボール・クラブ」とは呼ばない。*

後発サッカー国としてのアメリカ合衆国,そして日本…
 この旧NASLの事情は、日本のJリーグでも全く同様である。

 欧州のサッカーに憧憬していた古いサッカーファンは、Jリーグのクラブのネーミングには、大いなる違和感を感じた。いかにもアメリカ・スポーツ的な制度化された命名、〈押し売り〉の典型であり、サッカーファン、サポーターにおしきせの伝承を強制したように映った。

 しかし、日本においては、サッカーは未だに(2020年時点でもそうかもしれない)、野球や大相撲のように昔から根を下ろしいるスポーツに強く頭を押さえつけられ、苦しんでいるマイナースポーツであることを忘れてはならない。

 日本のサッカーは、大衆のより強力な支持を得るために苦闘を続けている段階であり(2020年時点でもそうかもしれない)、ヨーロッパのサッカーが慈(いつく)しんでいるような、伝統的な呼称を用いて、尊大に構えるような、ぜいたくは許されないのである。

 だから、サンフレッチェ広島、ガンバ大阪、横浜フリューゲルス……だったのである。

 ……とはいえ、あまりにも野放図なJリーグのクラブの命名には、日本でもこれを回避したいクラブが出てくる。東京ガス・サッカー部がJリーグのクラブとなる時には、あくまで簡潔に「FC東京」とした。

 これには、旧来の東京ガス・サッカー部のサポーターの意向(ウルトラスニッポンの植田朝日氏ら?)があったとも聞いている。

 しかし「東京」となると、あまりにもメトロポリス過ぎて、かえって漠然とした印象がしないわけではない。……が、それは、まあよい。

Jリーグ・クラブは「ウォークマン」である?
 こうした、最初期Jリーグのクラブの命名、クラブカラーやエンブレム、着ぐるみマスコットの作成等々は、文具や雑貨などに付けるキャラクター商品の開発や管理・販売を行っている「ソニー・クリエイティブプロダクツ」(ソニーCP)が請け負った。**

 ソニーCPは、本当にキャラクター商品を創るように、Jリーグのクラブをネーミングしていった。しかし、それが古いサッカーファンたちの「ウケ」が良くなかったのは、前述のとおりである。

 ソニーCPは、Jリーグのクラブ名を欧文に訳した時の自然さ・不自然さ、また海外のサッカーファンやジャーナリスト反応を考えていなかったのかもしれない。……が、しかし、今やJリーグの試合は東南アジアやオーストラリアでも放映されている。

 ソニーのヘッドホンステレオ「ウォークマン」が、英文法的には間違いの和製英語であっても、ついにこれを押し切って、国際的に通用する商標名(英単語)になってしまったように、Jリーグ・クラブの名前も定着してしまっている!?

以下,蛇足ながら…
 ……と、普通のエントリーなら、ここでオチがついて終わるわけだが、今回、そうならないのは、Jリーグ・クラブの命名法にやっぱり馴染めないものを感じているからだ。
  •  宇都宮徹壱「なぜ〈FC町田トウキョウ〉が炎上しているのか? クラブ名称変更をめぐるオーナーとサポーターの齟齬」(2019/10/12)
 その他愛のなさは、昨今のFC町田ゼルビアの改名問題とも、深いところで一脈つながっているのでは……と、かなり強引な連想をしてしまうのであった。

(了)




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サンフレッチェ広島の「#紫を取り戻せ」問題
 2019年12月下旬からネット上の国内サッカークラスタを騒がせた、Jリーグ・サンフレッチェ広島の、いわゆる「#紫を取り戻せ」問題を傍目からナナメ読みしてきた。

 事の顛末(てんまつ)、詳しくはリンク先を当たってください。
  •  サンフレ公式「2020サンフレッチェ広島 アウェイユニフォーム決定のお知らせ」(2019/12/23)
  •  サッカーキング「浦和,鹿島,広島が新アウェーユニを発表! 史上初の3クラブ統一テーマ」(2019.12.23)
  •  J-CASTニュース「サンフレッチェ広島サポが〈#紫を取り戻せ〉〈赤い〉アウェーユニに激怒,クラブに対応を聞いた」(2019/12/25)

  •  ちょっつ☆☆☆「クラブのアイデンティティ」(2019/12/24)
 とどのつまりは、サンフレッチェ広島のサプライヤー兼スポンサー「ナイキジャパン」が、自社の都合を優先させて、クラブカラー(チームのアイデンティティ)を踏みにじった。*

 しかも、サンフレッチェ広島の広報は、この件に関する取材に対して、木で鼻をくくったような応答しかできなかったものだから、同クラブのファンやサポーターが(少なくともネット上では)怒り心頭に達した……こんなところか。

クラブカルチャーの大量絶滅期としてのJSL→Jリーグ移行
 楽天のクラブ買収によるヴィッセル神戸のクラブカラー変更。継続中の町田ゼルビアの改名問題。大口のスポンサーではなかったので沙汰止みになったがモンテディオ山形のフルモデルチェンジ構想というのもあった……。

 ……等々、経営上、資金面の後援上その他の事情で、クラブカラーを含めたクラブのアイデンティティが蹂躙され、場合によっては変更まで余儀なくされるという事例は、過去の日本サッカー史の好ましからざる伝統として、何度となく起こってきたことである。

 まあ、一番酷いのは、これまでくどくど論じてきたように、アディダスジャパンによるサッカー日本代表チームのデザインであるが。

サカダイ「アディダス西脇大樹氏インタビュー」1
【サッカー日本代表ユニフォーム「迷彩」デザイン】

 閑話休題。そもそも1991年頃から1993年にかけての、旧・日本サッカーリーグ(JSL)から新生Jリーグ移行期は、そうである。これは古生物学で言う「大量絶滅」ともいうべき、日本サッカーのクラブのアイデンティティの深い断絶があった。

 Jリーグ各クラブの「表徴」……すなわち、クラブカラー、クラブ名、着ぐるみのマスコット等々、従来のサッカーファンから見て違和感があるものばかりだったからである。今回は、特にクラブカラーに絞って話を進める。

古河電工からジェフ千葉へ…大胆すぎるモデルチェンジ
 現在のJリーグ、ジェフユナイテッド市原・千葉(ジェフ千葉)の前身で古河電工サッカー部というサッカーチーム(クラブ)があった。このクラブは日本のサッカー史に欠かせない重要な存在である。

 同クラブは、1950年代から1960年代にかけて日本のサッカーを学生主体のスポーツから社会人中心のスポーツへと移行させる足掛かりを作った。Jリーグの前身となる旧JSLの創設に尽力した。JSLでは一度も2部に降格したことはない。アジアクラブ選手権を日本のクラブとして初めて制覇した。

 送り出した人材には、奥寺康彦、岡田武史、清雲栄純、永井良和……など優れたサッカー人が数多い。また、長沼健、平木隆三、川淵三郎、小倉純二、木之本興三、田嶋幸三……らは、日本サッカー政治の本流である。

 すなわち、日本サッカーの超名門クラブなのである。にもかかわらず……。

 ……日産自動車サッカー部(後の横浜F・マリノス,)、読売サッカークラブ(後の東京ヴェルディ1969,□)のように、伝統のクラブカラーを大きく損ねることなく、Jリーグのクラブとして移行できた幸運な例がある……。

 ……一方で、古河電工サッカー部()改めジェフユナイテッド市原・千葉()のように、Jリーグの理念の美名のもとに、クラブの名称ばかりか、これが元は同じチームなのかというくらいに、クラブカラーが変えられてしまったチームもある。

古河電工サッカー部ユニフォーム
【古河電工サッカー部ユニフォーム(Jリーグ以前)】

ジェフユナイテッド市原千葉ユニフォーム決定
【ジェフユナイテッド市原・千葉ユニフォーム(2020年)】

 当時、これはサンフレッチェ広島の「#紫を取り戻せ」と同様、大問題となった……などということは全く無いのだが、少なからず不満を抱いた古河電工サッカー部のオールドファン、サポーターがいた。

 サッカージャーナリストの後藤健生氏と、「サッカー講釈」のブロガー・武藤文雄氏である。

古河電工のアイデンティティをJリーグに奪われたオールドファンたち
 Jリーグのスタートを控えた1993年4月、二見書房が出した『Jリーグ最強読本~一歩踏み込んだ戦術とスター選手研究』は、当時のJリーグの各クラブ(いわゆるオリジナル10)を、さまざまなサッカージャーナリストが分析・批評して、それぞれ紹介している。

 ここで古河電工サッカー部改めジェフユナイテッド市原(当時の呼称)を担当しているのが、後藤健生氏である。この中で氏は、若い頃、古河電工の応援用フラッグを自作して、かつ持参して試合に臨んだ「ガチ」の古河サポであったことを「告白」している。

 同じく二見書房が出した、続編とも言うべき1993年11月の『Jリーグ興奮本~トップライター10人が描いた!』でも、ジェフユナイテッド市原を担当しているのが後藤健生氏である。ただし、コンテンツの体裁はかなり違っている。

 執筆のクレジットこそ後藤健生氏であるが、こちらの方は「J君」と「F君」なる、2人の匿名の旧古河電工サッカー部のファンが、対談形式でジェフユナイテッド市原に茶々を入れるをいろいろ論評するという構成になっている。

 このうち「J君」と「F君」のどちらか片方が後藤健生氏で、もう片方がこれまた古河電工のファンだった武藤文雄氏だったという「噂」がある(たぶん本当である)。

 この対談で「J君」と「F君」のいずれかが、つまり後藤健生氏か武藤文雄氏のいずれかが、Jリーグのために俺たちの(笑)古河電工サッカー部が喪(うしな)われてしまった。由緒ある古河電工のクラブカラーまで変えられてしまった……。

 ……あまつさえ、昨今のジェフ千葉の黄・緑・赤のクラブカラーは、まるでアフリカのどこかの国のナショナルチームではないかと、(怒り心頭とまではいかないが)まったく不満げな愚痴やボヤキを吐露していたのであった。

 サンフレッチェ広島の「#紫を取り戻せ」問題を見ていると、この古河電工からジェフユナイテッド市原・千葉のクラブカラー変更の一件を思い出してしまう。
  •  Qoly「ジェフ千葉が25周年記念ユニフォームを発表!古河電工を思わせる好デザイン」(2016/04/16)
 ビジネス上の都合で、クラブカラーなど、応援するチームのアイデンティティが蹂躙されてしまった前例である。

1962年の日本プロ野球
 こうした、最初期Jリーグのクラブの命名、クラブカラーやエンブレム、着ぐるみマスコットの作成等々は、文具や雑貨などに付けるキャラクター商品の開発や管理・販売を行っている「ソニー・クリエイティブプロダクツ」(ソニーCP)が請け負った。

 同社の有名なキャラクターとしては、清潔好きなバクテリアという設定の「バイキンくん」があった。また「きかんしゃトーマス」に関する権利を保有している。

 ソニーCPは、本当にキャラクター商品を創るように、Jリーグのクラブのイメージを決めていった。その結果が、現在あるJリーグのクラブのさまざまな「表徴」類である。

 しかし、それが、後藤健生氏をはじめとして、オールドサッカーファンの「ウケ」が良くなかったのは、前述のとおりである。

 サッカーには冷笑的な武田薫氏というスポーツライターは「Jリーグはオールドファンを切り捨てたのだ」と、ハッキリと、かつ冷笑的に書いている。実際そうなのだろう。当時のサッカーファンなんて、切り捨ててもいいくらいの少数派に過ぎなかったのだし(笑)

 いろいろ問題はあったのだが、とにかくサッカー・Jリーグは、2019年に27年目のシーズンを迎えた。ちなみに、日本プロ野球(NPB)の27年目のシーズン=1962年(昭和37年)を振り返ってみると、なかなか興味深い。
  •  ウスコイ企画「日本プロ野球記録1962」
 東映フライヤーズ(現・北海道日本ハム ファイターズ)の日本一(つまり,張本勲選手唯一の日本シリーズ優勝)、阪神タイガース15年ぶりのリーグ優勝などあるが、最も印象的なのは、三振王と揶揄されていた読売ジャイアンツ(巨人軍)の王貞治選手が一本足打法(フラミンゴ打法)を会得して突如打撃開眼し、打撃タイトル二冠を獲得した話である。

 日本のプロサッカーリーグ(Jリーグ)も、それだけの歳月を重ねているわけで、2019年シーズンの観客動員数は、同年のラグビーW杯日本大会で大きなスタジアム(東京・調布,横浜)がしばらく使えなかったにもかかわらず、平均2万人以上を達成した。

 スゴイことである。

 とにかくそれで27年やってきた。その成果である。にもかかわらず、クラブとスポンサーの絡みで、クラブの「表徴」が侵食される、アイデンティティが踏みにじられるみたいな話が未だ出てくるということは、いったいどうしたわけなのか?

古くて新しい問題
 日本のプロ野球は親会社の広告・宣伝のためにあるに過ぎない。そこから来る弊害も多い。対して、サッカー・Jリーグは企業から自立している……みたいなことが、「Jリーグの理念」を賛美する(玉木正之氏のような)人から喧伝されていた。

 しかし、結局のところ、クラブ(球団)と企業の宣伝にかかわる「微妙な関係」は、野球も、サッカーも、あまり変わらないのではないか。

 これが日本スポーツ界特有の問題なのかは分からないが、少なくとも、日本のサッカーが本当に企業から自立しているのかどうかは怪しい。

 同じクラブの「表徴」で言うと、宇都宮徹壱氏のように着ぐるみのマスコットに注目する人は多い。しかし、クラブカラーに注目するサッカージャーナリスト(や評論家,スポーツ社会学者)は多くない印象である。

 相手がスポンサー企業に絡むと、やはり踏み込んで取材しにくいのだろうか……と、またもや疑心暗鬼になるのであった。

つづく




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アディダスジャパンのマーケティングが当たった!

 ……コアなサッカーファンには、あれだけ酷評され、嫌悪されていた、アディダスジャパン(サッカー日本代表のサプライヤー兼スポンサー)デザインの、日本代表ユニフォーム最新モデル=俗称【迷彩】が、これまた酷評されていた先代モデル【ジンベエザメ,千人針などとも】の2.5倍以上(!)の売れ行きだという話が、なかなか受け入れられない。
  • 〈日本晴れ〉の日本代表新ユニは大人気! 初動売り上げがW杯モデル以外では過去最高(2020.01.15)
  • アディダスジャパンのサッカー日本代表ユニフォーム【迷彩】が売れているらしい(2020年01月16日)
 その昔、「♪コアなファンを捨ててでもタイアップでヒット曲が欲しい……」と皮肉って歌ったのは、筋肉少女帯の大槻ケンヂだった。
  • 筋肉少女帯「タイアップ」歌詞(アルバム「UFOと恋人」より)
 要は、コアなサッカーファンを切り捨ててでも、ファッション性(?)を優先し、2020東京オリンピックをも見込んだライト層向けのマーケティング(?)を敢行した、アディダスジャパンのサッカー担当=西脇大樹氏のビジネスが当たったということになる。*

サカダイ「アディダス西脇大樹氏インタビュー」2
【迷彩ユニのプレゼンに臨むアディダスジャパンの西脇大樹氏】

 西脇大樹さん、おめでとう。

 しかし、コアなサッカーファンの生き霊はなかなか成仏できないだろうが。

自衛隊広報誌『MAMOR(マモル)』のコスプレ・グラビアから
 サッカーファンは、あの青い【迷彩】ユニフォームにはどうしても馴染めない。そこで少しでも目を慣らすために、一計を案じることにした。

 産経新新聞社系の版元=扶桑社が、『MAMOR(マモル)』という防衛省・自衛隊の広報誌を月刊で出版している。

 この雑誌に「防人たちの女神」という、若手女性アイドル・モデル・女優に自衛隊の制服や作業服を着せるという、これはどう見ても「特殊な趣向を満足させる」という意図(しかし否定できない)があるとしか思えないコスプレ・グラビアページがある。

 このページの歴代モデルを探ると、前田敦子、眞鍋かをり、壇蜜……などといった大物がおり、足立梨花、逢沢りな、丸高愛実といった、サッカーファンにもなじみのある人たちも名を連ねている。

 ……で、この月刊『MAMOR(マモル)』2016年3月号に登場したのが、グラビアアイドル(今や女優と言わないと御本人の御機嫌を損ねてしまうか?)の柳ゆり菜さんだったのである。

柳ゆり菜と岩渕真奈の青い迷彩服
 ちょうど青い【迷彩】服を着た若い女性の写真を探していたら、偶然に行き当たったのが柳ゆり菜さんだった。


  • 『MAMOR(マモル)』2016年3月号(1月21日発売)FEATURE
 その中から、これは……と思う写真を選んでみる。

グラビア:柳ゆり菜『MAMOR』2016年3月号
【青い迷彩服:柳ゆり菜『MAMOR(マモル)』2016年3月号より】

 次に、なでしこジャパン(サッカー女子日本代表)の青い【迷彩】ユニフォームを着た美形の選手、例えば岩渕真奈選手の写真を選んでみる。

岩渕真奈「なでしこジャパン迷彩ユニフォーム」アディダス提供
【青い迷彩ユニフォーム:岩渕真奈(なでしこジャパン)】

 この2つを見ていくことで、少しは青い【迷彩】ユニフォームを受け入れられるのではないか……と考えたのである。

 さらに両者を並べてみた……。

迷彩ユニフォーム女子(岩渕真奈&柳ゆり菜)
【青い迷彩服:岩渕真奈(左)と柳ゆり菜】

 ……うーむ。若く美しい女性の海上自衛隊の青い作業服(右)はとても素晴らしいが、若く美しい女性フットボーラーの青い迷彩ユニフォームの方は、やっぱり受け入れられない。個人的には。

 これを南野拓実選手(!)たちが着用して、2020東京オリンピック(?)やカタールW杯アジア予選の試合でプレーするのかと思うと、どうしても気の毒に思えてしまう。

 ひとつだけ分かったのは、岩渕真奈選手が海上自衛隊の作業服を着たら、別の意味でカッコイイのではないか……ということであった。

(了)




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西脇大樹さん,おめでとう!
 2019年11月の発表当初、サッカーファンから轟轟たる非難を浴びていた、サッカー日本代表のユニフォーム【迷彩】モデル……。

迷彩柄(サッカー日本代表ユニフォーム2020)
【2019年11月からのサッカー日本代表ユニフォーム】

 ……もとい! サプライヤーのアディダスジャパンに言わせると「日本晴れ(にほんばれ)」モデル*、または「スカイコラージュ」モデルの売れ行きが、あにはからんや! 極めて好調なのだという。
  • 〈日本晴れ〉の日本代表新ユニは大人気! 初動売り上げがW杯モデル以外では過去最高(2020.01.15)
 報道によると、W杯が行われない年のモデルとしては、初動1カ月のユニフォームの売り上げが過去最高を記録(!)。2018年のロシアW杯に向けて発売された「勝色(かちいろ)」モデルの初動で上回っており(!)、これはアディダスとして快挙とのことだ。

サッカー日本代表ユニ2018
【サッカー日本代表ユニフォーム「勝色」モデル】

 一説に、アディダスが直接販売している分だけでも、初動1カ月の売れ行きが前回比250%以上と考えられ、一般からの評価は高いと考えられる。さらには、2020年の東京オリンピックに関わる需要もあるのではないか?

 マーケティングの専門家ではないので、本当のところはよく分からないのだけれど。

 この「報道」は、おそらくアディダスジャパンからのリークなのだろう。しかし、この「一般からの評価は高い」という表現は微妙だ。つまり、「一般」ではない、コアなサッカーファンからの評判はやっぱり悪いのではないか、とも考えられるのだが……。

 とにかく、アディダスジャパンのサッカー開発担当の西脇大樹さん、おめでとう!

サカダイ「アディダス西脇大樹氏インタビュー」2
【「迷彩」のプレゼンに臨む西脇大樹氏】

デューダ「アディダス西脇大樹氏インタビュー」
【転職サイトでインタビュー記事に登場した西脇大樹氏】

 その昔、「♪コアなファンを捨ててでもタイアップでヒット曲が欲しい…」と皮肉って歌ったのは、筋肉少女帯の大槻ケンヂだった。
  • 筋肉少女帯「タイアップ」歌詞(アルバム「UFOと恋人」より)
 つまり、コアなサッカーファンからあれだけ反発を買っても、結局のところ、一般に【迷彩】ユニが商品として売れれば、何の痛痒も感じないのでしょう。きっと。

サンフレッチェ広島「#紫を取り戻せ」問題にも悪影響?
 これでアディダスジャパンはますます調子づいて……、もとい! 自信を深めていくのではないか。

歴代のサッカー日本代表ユニフォーム(「Wikipedia」より)
【歴代のサッカー日本代表のユニフォーム】

 何よりサッカー日本代表のユニフォームのデザインは、大仰なコンセプトを具象化してデザインに盛るトンデモ奇天烈路線が、今後とも継続しそうな気がする。

 アディダスジャパンも、本来のクライアントであるはずの日本サッカー協会(JFA)も、ライト層のサッカーファンも、完全に「薬が回っている」状態だ。

 さらにJリーグ・サンフレッチェ広島のサポーターを悩ませる「#紫を取り戻せ」問題にも悪影響を与えるのではないか?

サンフレッチェ広島2020年アウェイユニフォーム
【サンフレッチェ広島2020年セカンドカラー】

 もっとも、コアサポとライト層の比率が日本代表とは違うから、Jリーグのクラブはまた違うのかもしれないが。

結束の一本線~後藤健生さんの嘆き
 アディダスジャパンのサッカー日本代表のユニフォームのデザインで、トンデモ奇天烈路線が確立したのは、2012年の悪名高き【結束の一本線】モデルである。

結束の一本線_サッカー日本代表
【サッカー日本代表の「結束の一本線」モデル】

 今回、パソコンをいじくっていたら、後藤健生さんが【結束の一本線】モデルの論評している記事をサルベージした。
 そもそも、日本代表のユニフォームがどうしてブルーなのかといえば、元は東京大学(かつての東京帝国大学)のシンボルカラーだった。

 それが、日本代表(全日本選抜)がブルーのユニフォームになった理由だったのだ。

 つまり、本来なら、日本代表のシャツはライトブルーであるべきなのである。

 日本代表のユニフォーム……そう簡単に色調は変えないで、伝統を大事にしてもらいたいのである。

 もう色調の変化はストップしよう!

後藤健生「日本代表ユニフォームのブルーはなぜどんどん濃くなっていくんだろう?」
(2012年01月12日)
 昔からサッカーを見ているファン、コアなサッカーファンほど、アディダスジャパンのサッカー日本代表のデザインには不満を持っているのである。

サッカー文化~イタリアの洗練と日本の野蛮
 【迷彩】モデルの売れ行きを伝える、くだんのアディダスジャパンのリーク報道である)では、海外からの評価も非常に高く、外国人の訪日観光客(インバウンド)の売り上げも多いとの由……。

 ……さはさりながら。このインバウンドの中には、イタリア人やフランス人も含まれるのだろう。イタリア代表、フランス代表ともに、チームカラーは日本と同じ「青」である。

 しかし、イタリアやフランスが、日本みたいな【迷彩】柄にするなどと言われたら、嫌だろう。所詮は、東アジアのサッカー弱小国の代表チームだから「Fackin' Cool!」とかテキトーなことを言っていられるのである。

 例えば、アズーリ=サッカー・イタリア代表のユニフォームを見ていこう。

azzurri1968
【サッカー・イタリア代表1968年】

azzurri1990
【サッカー・イタリア代表1990年】

azzurri2006
【サッカー・イタリア代表2006年】

2019年U20W杯イタリア代表
【サッカー・イタリアU20代表2019年】

 イタリア代表のユニフォームは、いつの時代も見事なまでにイタリア代表としてのアイデンティティ=一貫性を持持っている。

 翻って、日本代表のそれは無節操きわまりない。

 当ブログは、本来「自虐的な日本サッカー観」を揶揄・批判するサイトである。

 しかし、ことデザインに関しては、日本のサッカー文化は浅薄なのではないかと暗澹たる思いになる。

(了)




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早稲田大学のカラーはエンジか? えび茶か?
 「新国立競技場」で早稲田大学が「大学ラグビー日本一」なんて、あまりにもよく出来た話である。スポーツの強豪大学ではない名門大学、なかんずく早稲田大学のスポーツにおける勝利を欲していたマスコミの皆さんは大喜びだろう。

 ところで、あの早稲田大学のスクールカラー(大学のイメージカラー)……。あの黒みを帯びた赤い色は何と言うのか? インターネットを含めたマスメディアで一番多い表記は「臙脂」(エンジ)である。
  • 臙脂色(えんじいろ)
 ラグビーブームだった1986年の文春ナンバーのラグビー早慶戦特集には「臙脂」と表記されてある。(2020年1月15日追記)
  • Sports Graphic Number 160号《「臙脂」と「黒黄」》1986年11月20日発売
 次いで多いのが、臙脂色とよく似た色である「海老茶」(えびちゃ)である。
  • 海老茶(えびちゃ)
 早稲田大学のサッカー部(ア式蹴球部)では、この色を「海老茶」と認識している。例えば、早大サッカー部の新人歓迎の「紅白戦」は、紅組ではなく「海老茶組」と「白組」に分かれて試合をするようである。
 また、早大サッカー部のOBチームは「早稲田大学WMWクラブ」(早稲田マルーン&ホワイト,Waseda Maroon & White)という。英語の「Maroon」という色は、ふつうは「海老茶」、たまに「栗色」と訳される(早大OBのスポーツライター・藤島大氏は栗色としていた)。

 さらに、ネットで「早稲田大学,スクールカラー」でGoogle検索すると「Maroon」と出てくる。……ということは、早大のカラーは「海老茶」で正しいのだろうか?

早稲田カラー=海老茶説に猛烈に反発してきた中尾亘孝
 ところが、これには異論があるらしい。早稲田大学のカラーは、臙脂でも海老茶でもなく、茜色(あかねいろ)だというのだ。
  • 茜色(あかねいろ)
 主張した人は、誰あろう……。「日本ラグビー狂会」を自称する、サッカーが嫌いで嫌いでたまらない偏執的な反サッカー主義者にして、早稲田大学出身(中退らしいが)の、あの中尾亘孝(なかお・のぶたか)である。

中尾亘孝2
【中尾亘孝】(本当の学歴は早大中退らしい)

 彼の言い分をたどっていく。1980年代のラグビーブームの余韻がまだ残っていた1993年11月刊行の『早明ラグビー 神話の崩壊』(マガジンハウス)である。
 極東ローカルの〔ラグビー〕フットボール界には、依然として黴〔かび〕のように誤解がはびこっています。

 有名な「ラグビーはサッカーから生まれた」という語訳は、いまも幅をきかせています。北島忠治から宿沢広朗まで……〔中略〕*

 まったくもってどうでもいい誤解があります。でも、この際だから言ってしまいます。

 ワセダのジャージィ〔ユニフォーム〕を「エンジ」とか「エビ茶」と形容するのもおかしいことです。通称アカクロこと、茜〔あかね〕と黒の横縞ジャージィは早稲田茜という染料で色付けされます。茜とはもちろん紅花〔べにばな〕を原料としています。ところがエンジ色は「臙脂虫」を原料とした染料なのです。エビ茶に至っては言語道断

 現在では、染料はすべて化学的に合成されたものが使われています。したがって、茜という言おうとエンジと呼ぼうと、大した違いはありません〔←それでも海老茶と呼ぶのは言語道断かね,中尾亘孝よ:引用者註〕

 それでも、茜に拘るのがトリヴィアリスト(瑣末=さまつ=主義者)のトリヴィアリストたる所以〔ゆえん〕でしょうか。〔以下略〕

中尾亘孝『早明ラグビー 神話の崩壊』170~171頁


早明ラグビー神話の崩壊
中尾 亘孝
マガジンハウス
1993-11


 余談だが、中尾亘孝の前著『おいしいラグビーのいただきかた』や『15人のハーフ・バックス』が好評だったことを受けてか、『早明ラグビー 神話の崩壊』では少し調子づいており、中尾亘孝の異様な語彙、異様な文体、異様な思想が鼻につく、きわめて不快な読後感である。

 それはともかく、サッカー部が採用している「海老茶」については「言語道断」などと言いきってしまうところが、反サッカー主義者=中尾亘孝の反サッカー主義者たる所以だろうか。

茜色=中尾亘孝説の致命的な間違いとは?
 茜色説の詳しい出典について、中尾亘孝は明らかにしていない。だから、その正否を確かめようがない。

 一方、海老茶説については、かなりハッキリしている。早稲田大学学生部が発行する学生向け週刊広報紙『早稲田ウィークリー』のWEB版がかなり詳しく論じている。
 早稲田大学の色といえばエンジ(えび茶色)。応援部の早稲田の旗に、体育各部のユニホームや、早慶戦のメガホンに、そして早稲田ウィークリーの紙面まで…。

 でも、どうして? 大変な筆まめで知られる本学の初代図書館長・市島謙吉が残した記録・手記でその謎を探ることができた。

 遡ること95年前。1905(明治38)年に安部磯雄を団長とした早稲田大学野球部が、日本初の海外遠征(米国)を行った。その際、新調されたユニフォームは、薄い小豆色の地にえび茶色で「WASEDA」と浮き出させたものであった。

 このユニフォームの文字の色になったえび茶色は、早大チームをコーチしたといわれるメリーフィールド氏の母校、シカゴ大学の校色〔Maroon≒海老茶〕からとったものであったという。この時に、早稲田とえび茶色の結びつきが始まったと言える。〔中略〕

 そして、大隈講堂が竣工された1927(昭和2)年。講堂の舞台には、高島屋よりえび茶色の緞帳が調製された。これに関して市島は再び、手記『雅間録(がかんろく)』八(1927年11月25日の条)に、次のように記載している。

 「この色が校色である。偶然シカゴ大学の校色と同一であるのも一奇だ。此色はマルーンというのだが、早稲田の各科には、紅・白・紫・緑さまざまある。それを交ぜ合わせると、此の海老茶、即ちマルーンの色(えび茶色)になるのである」と。

 このことから、明治末にはまだえび茶と決定していなかったスクールカラーは、大隈講堂竣工の1927年には確定し、周知されていたことが知られる。

早稲田大学探検隊「スクールカラーはなぜエンジ(えび茶色)?」
(2000年頃)
 これに従う限り、早稲田大学のカラーは一義的には「海老茶」と呼ぶのが正しいようだ。「茜色」や「早稲田茜」の話は少しも出て来ない。

 想像だが「東京・早稲田近辺で早稲田茜と称する〈茜草〉が取れて染物が行われていた.そして早稲田大学のラグビー部(やサッカー部?)のジャージも,その茜色で染められていた」……という事実(史実)はあったのかもしれない。

 (仮に,こういった事柄に詳しい人がいるのだとしたら,小林深緑郎氏よりも秋山陽一氏の方になるのか?)

 しかし、ふつうの早稲田大学の関係者はこれを「茜色」ではなく、海老茶でなければ臙脂色として認識していたのではないか。海老茶も、茜色も、臙脂色も、どれも皆似た色であり、カラーコーディネーターみたいな人でもない限り、そんなに拘るものではない。

 ちなみに、中尾亘孝の言うように「茜とはもちろん紅花〔べにばな〕を原料」とするというのは、間違い。茜と紅花は全く別の植物で、紅花から採れる赤系の色は「紅色」(べにいろ)である。昔は現在の山形県で生産が盛んであった。
  • 紅色(べにいろ)
 トリヴィアリスト(瑣末主義者)と本人が言う割には、中尾亘孝はつまらない瑣末な間違いをおかしている。

三木谷浩史さんの大好きなクリムゾン≒臙脂色
 ちなみに、臙脂色(えんじいろ)はどうなったのか?

 中尾亘孝が言う「〈臙脂虫〉を原料とした染料」すなわちエンジ色は、ウィキペディアの日本語版や英語版の記述をそのまま信じればれば、クリムゾン(Crimson)と呼ばれ、日本語では臙脂色(えんじいろ)と訳される。

 クリムゾン(≒臙脂色)は、一橋大学のスクールカラーにして、同校アメリカンフットボール部のニックネームである。また、米国アイビーリーグのハーバード大学のスクールカラーにして、同校アメリカンフットボール部のニックネームである。
  • これが本当のアイビーリーグ〈大学のアメリカンフットボール〉2016年12月12日
 サッカーJリーグ・ヴィッセル神戸、プロ野球NPB・東北楽天ゴールデンイーグルスの会長・三木谷浩史さんは、一橋大学とハーバード大学の両方を卒業している。

 つまり、三木谷さんにとってクリムゾン(≒臙脂色)は大変愛着のある色である。だから、ヴィッセルやゴールデンイーグルスのチームカラーがクリムゾン(≒臙脂色)なのは当然である。

 とまれ、似た色であっても、早稲田大学は海老茶、ヴィッセル神戸や東北楽天ゴールデンイーグルスは臙脂色と呼ぶことが「より」正しい色の呼称ということになる。

以下,余談ながら…チームカラーをないがしろにする人たち
 三木谷浩史さんは、財政難に陥っていたヴィッセル神戸を買収してクラブを救済した人である。しかし、一方、ヴィッセル神戸のそれまでのチームカラー(白と黒の縦縞)を強引にクリムゾン(≒臙脂色)に変更させたという、禍根を残した人でもある。

 例えば、早稲田大学や一橋大学やハーバード大学のスクールカラーを、スポンサー企業の意向で突然「チェリーピンク」(Cherry Pink)にすると……ということは、ほぼありえない。
  • チェリーピンク/Cherry Pink
 同様、紫紺と称されている明治大学のスクールカラーを、スポンサー企業の意向で突然、淡い紫色にする……ということも、ほぼありえない。

 大学関係者やOB・OGの大反対に合うことは必至である。

 ところが、こういう悪習が平然と行われているのが日本のサッカー界であって、なかんずくサッカー日本代表は酷い。最も酷かったのは、2019年11月、藍色から空色(実は「迷彩」)に変更させたアディダスジャパンのモデルチェンジである。

山口智久氏(アディダスジャパン)インタビュー(1)

山口智久氏(アディダスジャパン)インタビュー(2)
【藍色:2019年11月までのサッカー日本代表カラーと担当の山口智久氏】

サカダイ「アディダス西脇大樹氏インタビュー」1

サカダイ「アディダス西脇大樹氏インタビュー」2
【空色:2019年11月からのサッカー日本代表カラーと担当の西脇大樹氏】

 日本のサッカー界は「チームカラーという文化」が蔑(ないがし)ろにされているのである。酷い国である。

 ここに来て、当代サッカー日本代表「森保ジャパン」の雲行きが怪しくなったのは、ちょうど、アディダスジャパンの西脇大樹氏が担った現行の「迷彩」モデルになってからである。

 スポーツにおけるチームカラーやデザインは、そのチームの勝ち負けにも深く影響する。……今回もまた、そのような強引な結論で落ち着いてしまうのであった。

(了)




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