スポーツライター玉木正之氏の知的誠実さを問う

大化の改新と蹴鞠(けまり)問題など、日本のサッカーカルチャーについてさまざま論じていきたいと思っています。

カテゴリ:サッカー > サッカー,ラグビーのジャージ,ユニフォーム

 2020東京オリンピックまで、ちょうど、あと1年! ……というところで、新しい国立競技場が、どうにも採算が合わない「負の遺産」になりそうだという批判記事が出た。


 「告発」の主は、サッカージャーナリストにして和製サイモン・イングリスの異名をとるスタジアムおたくの後藤健生さんである。



The Football Grounds of Britain
Simon Inglis
HarperCollinsWillow
1987-04-06


The Football Grounds of Britain
Simon Inglis
HarperCollins Publishers Ltd
1996-05-14


The Football Grounds of Europe
Simon Inglis
HarperCollinsWillow
1990-04-02


 後藤健生さんの批判記事は、サッカー界隈にも衝撃を与えた。


 ところが、ここに来て日本サッカー協会(JFA)が、新国立競技場の運営権取得に名乗り出た……というニュースが出てきた。
サッカー協会、新国立の運営権取得に興味 田嶋会長明かす
2019.7.19

 東京五輪・パラリンピックのメインスタジアム、新国立競技場の大会後の民営化で、日本サッカー協会の田嶋幸三会長が19日、運営権取得に関心のある事業者への日本スポーツ振興センター(JSC)の意向調査に応募したことを明らかにした。「新国立を負の遺産としないためコンセッション方式〔公共施設を民間事業者が運営すること〕に興味がある。競技団体として唯一手を挙げた」と語った。

 新国立競技場は大会後に球技専用に改修される方針だったが、収益の柱と見込むコンサートが実施しにくくなることなどから〔陸上競技用の〕トラック存続の動きも出ている。

 田嶋会長は「コンサートも年に7回から10回しかできない。どうやって収益を上げていくか知恵を出し合わないと。サッカーでできること、欧州でのスタジアム運営方法のノウハウも含めて提案できる」と話した。

 この田嶋幸三会長の「立候補」が、どこまで妥当で賢明な申し出なのかはよく分からない。だからコンセッションの「採算性」とか専門外だし、ここでは問わない。

 ちょうど、全国高校野球選手権大会(甲子園)の各都道府県「予選」が行われている。高校野球の地域「予選」などを見ていると、5千人~1万人収容の野球場ならざらにある。

 ところが、Jリーグに使えるサッカー(フットボール)専用スタジアムを建設しようとなると、いつも、いろいろ行政サイドから厳しい条件が課せられてしまう。


 これには大いに不満である。

 そこで、新国立競技場のオリンピック後の利用に、日本サッカー界にどこまで関わっていけるかは、日本のサッカーにおけるスタジアム文化の「天王山」になるだろう……などと勝手に想定していた。そして、だから、これには失敗したかな……などとも思ってきた。


 仮に、JFAが新国立競技場の運営を担うとなれば、今後の状況もまた変わってくるのであろうか。

 それならそれで、スタジアムの大規模な改修は難しいとして、しかし、陸上競技用トラックの内側の最低5レーンくらいは潰して、サッカーのピッチとして十分なスペースを取るくらいの改修はしてほしい。

 そうすれば、音楽関係のイベント(コンサート)にもさほど支障はないだろうし(たぶん)、肝心要のサッカーでの使用にも問題ない。いずれにせよ、これ以上、東京・首都圏に大規模な陸上競技場はいらない。

 つまり、どういうことかというと、ツインタワーがあったころの昔の旧ウェンブリースタジアムを思い出していたのである。

旧ウェンブリースタジアム空撮(1991年)
【旧ウェンブリースタジアム空撮(1991年)】

旧ウェンブリースタジアム内部(1990年)
【旧ウェンブリースタジアム内部(1990年)】

ツインタワー(旧ウェンブリースタジアム)
【ツインタワー(旧ウェンブリースタジアム正面)】

 旧ウェンブリースタジアムも、元々トラックが付いた陸上競技場であり、サッカーの観客にとっては、けして見やすいスタジアムではなかった。

 新国立競技場を我慢して50~60年くらい使って、その後、現在のウェンブリースタジアムのようにサッカー(フットボール)専用の本当に素晴らしいスタジアムを建てる。

 田嶋幸三会長の申し出はそのための政治的な深謀遠慮、「布石」なのだろうか……などという妄想が、一瞬頭をよぎったのであった。

(了)



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暴露された「背番号10はアディダスの選手」
 『朝日新聞』電子版2018年5月11日付の署名記事(吉田純哉記者)が、サッカー日本代表のエースナンバー背番号10は、日本代表のスポンサー兼サプライヤーであるスポーツ用品メーカー=アディダスジャパン株式会社の契約選手であることが「暗黙の了解」として決まっている……と報じた(下記引用部リンク先参照)。名波浩選手、中村俊輔選手……、当代においては香川真司選手である。
背番号10はアディダスの選手 日本代表「暗黙の了解」
吉田純哉 2018年5月11日16時18分[リンク先

朝日新聞2018年5月11日電子版より
【『朝日新聞』電子版2018年5月11日の該当記事から】
 この記事には「09年にはアディダス〔アディダスジャパン〕がユニホームの売り上げを伸ばすために、人気選手の背番号をできるだけ変えないで欲しいと日本協会〔公益財団法人日本サッカー協会=JFA〕に要望を出したこともあった」とまである。

 日本代表の背番号10はアディダスの選手……。この話は、あくまで「噂」としてネットで語られていったものだった。それが電子版とはいえ、オールドメディアの代表であり、しかも、企業としてはアディダスジャパンと同じくサッカー日本代表のスポンサーである『朝日新聞』がこのことをハッキリ書いたことは、サッカーファンを驚かせた。

ハリル解任はスポンサーからの圧力説は「ある意味」正しい?
 高い契約金を出しているのだから、スポンサーが契約している選手にスポンサーが望む背番号をつけるのは当然ではないか……という声もある。しかし、よくよく考えてみると、この慣行は、W杯のような主要な試合や大会では、該当する選手を選び、起用してもらわなければ困る……という意思を半ば表明しているようなものだ。非常によろしくない。

 時の日本代表監督ヴァイド・ハリルホジッチ氏(ハリル氏)が「謎の解任」をされたのも、こうしたスポンサー(や大手広告代理連=電通)の意向を無視して特定の選手(本田圭佑選手やアディダスジャパン契約の香川真司選手)を、2018年ロシアW杯日本代表の選考から外しかねないことを懸念されたからだという噂がある。真偽は不明だが、ハリル氏を更迭した田嶋幸三JFA会長氏の胸中に、スポンサー筋への忖度(そんたく)がなかったと断言することは難しい。

 ロシアW杯では、ドイツ代表選出が確実視されていたレロイ・サネ選手が、まさかの落選。日本には『スポーツニッポン』電子版6月4日付でサネ選手のポスターが剥(は)がされる写真が掲載され、日本のサッカーファンを驚かせた。
サネ_ドイツ代表落選
【ポスターが剥がされるレロイ・サネ選手】

 ひるがえって日本。日本代表のスポンサーである日本航空(JAL)とアディダスジャパンがコラボレーションで、機体に香川真司選手のラッピング塗装がなされたJALの旅客機が登場している。
香川真司_アディダスジャパン_日本航空
【香川真司選手とアディダス,JALのコラボ機】

 これでは香川選手が選ばれて当然、選ばれなければならないということになる。彼には何の問題はないはずなのだが、あまりに対照的なサネ選手と香川選手のビジュアル。ドイツと日本で彼我の差を感じてしまう。

日本代表の背番号を五十音順で付ける試み
 こうした悪弊を克服するために、ひとつの方法がある。かつてのアルゼンチン代表やオランダ代表は、主要大会ではアルファベット順(ローマ文字)に背番号をつける習慣があった。こうやって機械的に背番号を割り振るようにすれば、特定のスポンサーが特定の選手に特定の背番号を付けさせることによって生じる問題を減らすことができる。

 日本ともなじみの深い、アルゼンチンのオズワルド・アルディレス(Osvaldo Ardiles)選手は、そのため「背番号1」をつけた珍しいフィールドプレーヤーとして有名であった。サッカーで背番号と言えば、通常、コールキーパー(GK)の背番号である。
背番号1のアルゼンチン代表アルディレス選手
【背番号1のアルゼンチン代表アルディレス選手】

 とどのつまりは、2018年ロシアW杯の日本代表メンバーの背番号を日本語の五十音順(アイウエオ順)で付け直すという試みである。いわば「アルゼンチン方式」だ。

大迫半端ある,アイツ半端あるって…?
 まず最初に、本来の2018年ロシアW杯日本代表メンバーを表で示し、あわせて第1戦日本vsコロンビア戦の先発メンバーをフォーメーションを示す。フォーメーションはロシアW杯のテレビ国際放送を参照した(以下,同じとする)。

A.2018ロシアW杯日本代表
背番号 選手名 Pos. 所属クラブ 読み
1 川島永嗣 GK メス かわしま えいじ
2 植田直通 DF 鹿島アントラーズ うえだ なおみち
3 昌子源 DF 鹿島アントラーズ しょうじ げん
4 本田圭佑 MF バチューカ ほんだ けいすけ
5 長友佑都 DF ガラタサライ ながとも ゆうと
6 遠藤航 DF 浦和レッズ えんどう わたる
7 柴崎岳 MF ヘタフェ しばさき がく
8 原口元気 MF デュッセルドルフ はらぐち げんき
9 岡崎慎司 FW レスター おかざき しんじ
10 香川真司 MF ドルトムント かがわ しんじ
11 宇佐美貴史 MF デュッセルドルフ うさみ たかし
12 東口順昭 GK ガンバ大阪 ひがしぐち まさあき
13 武藤嘉紀 FW マインツ むとう よしのり
14 乾貴士 MF エイバル いぬい たかし
15 大迫勇也 FW ブレーメン おおさこ ゆうや
16 山口蛍 MF セレッソ大阪 やまぐち ほたる
17 長谷部誠 MF フランクフルト はせべ まこと
18 大島僚太 MF 川崎フロンターレ おおしま りょうた
19 酒井宏樹 DF マルセイユ さかい ひろき
20 槙野智章 DF 浦和レッズ まきの ともあき
21 酒井高徳 DF ハンブルガーSV さかい ごうとく
22 吉田麻也 DF サウサンプトン よしだ まや
23 中村航輔 GK 柏レイソル なかむら こうすけ



 これを五十音順で並べ直すと、以下のようになる。

B.【五十音順】2018ロシアW杯日本代表
背番号 選手名 Pos. 所属クラブ 読み
1 乾貴士 MF エイバル いぬい たかし
2 植田直通 DF 鹿島アントラーズ うえだ なおみち
3 宇佐美貴史 MF デュッセルドルフ うさみ たかし
4 遠藤航 DF 浦和レッズ えんどう わたる
5 大迫勇也 FW ブレーメン おおさこ ゆうや
6 大島僚太 MF 川崎フロンターレ おおしま りょうた
7 岡崎慎司 FW レスター おかざき しんじ
8 香川真司 MF ドルトムント かがわ しんじ
9 川島永嗣 GK メス かわしま えいじ
10 酒井高徳 DF ハンブルガーSV さかい ごうとく
11 酒井宏樹 DF マルセイユ さかい ひろき
12 柴崎岳 MF ヘタフェ しばさき がく
13 昌子源 DF 鹿島アントラーズ しょうじ げん
14 長友佑都 DF ガラタサライ ながとも ゆうと
15 中村航輔 GK 柏レイソル なかむら こうすけ
16 長谷部誠 MF フランクフルト はせべ まこと
17 原口元気 MF デュッセルドルフ はらぐち げんき
18 東口順昭 GK ガンバ大阪 ひがしぐち まさあき
19 本田圭佑 MF バチューカ ほんだ けいすけ
20 槙野智章 DF 浦和レッズ まきの ともあき
21 武藤嘉紀 FW マインツ むとう よしのり
22 山口蛍 MF セレッソ大阪 やまぐち ほたる
23 吉田麻也 DF サウサンプトン よしだ まや

 これで見ると、背番号1の乾貴士選手が「和製アルディレス」になってしまう。国際的な前例はあるとしても、何か違和感がある。また、岡崎慎司選手7番、香川真司選手8番はいいとして、GK川島永嗣選手9番、そしてコロンビア戦で決勝ゴールをあげた大迫勇也選手が5番……? 「半端ない」はずの大迫選手が、実に半端な数字を背負っている。とても違和感がある。

餅は餅屋,ゴールキーパーは背番号1
 そこで一計を案じた。本来のロシアW杯日本代表の背番号である1番、12番、23番を、五十音順の背番号割り振りでもGK専用の番号として、GKの枠の中で背番号を五十音順に付ける。すなわち背番号1は川島永嗣選手、12は中村航輔選手、23は東口順昭選手である。それ以外の数字をフィールドプレーヤーの選手で五十音順で付けていく。すると以下のような表と、フォーメーション(日本vsコロンビア戦)になる。

C.【五十音順(修正)】2018ロシアW杯日本代表
背番号 選手名 Pos. 所属クラブ 読み
1 川島永嗣 GK メス かわしま えいじ
2 乾貴士 MF エイバル いぬい たかし
3 植田直通 DF 鹿島アントラーズ うえだ なおみち
4 宇佐美貴史 MF デュッセルドルフ うさみ たかし
5 遠藤航 DF 浦和レッズ えんどう わたる
6 大迫勇也 FW ブレーメン おおさこ ゆうや
7 大島僚太 MF 川崎フロンターレ おおしま りょうた
8 岡崎慎司 FW レスター おかざき しんじ
9 香川真司 MF ドルトムント かがわ しんじ
10 酒井高徳 DF ハンブルガーSV さかい ごうとく
11 酒井宏樹 DF マルセイユ さかい ひろき
12 中村航輔 GK 柏レイソル なかむら こうすけ
13 柴崎岳 MF ヘタフェ しばさき がく
14 昌子源 DF 鹿島アントラーズ しょうじ げん
15 長友佑都 DF ガラタサライ ながとも ゆうと
16 長谷部誠 MF フランクフルト はせべ まこと
17 原口元気 MF デュッセルドルフ はらぐち げんき
18 本田圭佑 MF バチューカ ほんだ けいすけ
19 槙野智章 DF 浦和レッズ まきの ともあき
20 武藤嘉紀 FW マインツ むとう よしのり
21 山口蛍 MF セレッソ大阪 やまぐち ほたる
22 吉田麻也 DF サウサンプトン よしだ まや
23 東口順昭 GK ガンバ大阪 ひがしぐち まさあき


 これでも乾選手は2番となり、大迫選手は6番になる。やはり違和感がある。また、10番が酒井高徳、11番酒井宏樹の両酒井選手はディフェンダー(DF)であり、これらの番号を背負うのは、どうしても違和を感じるという人は多いであろう。

 ちなみに、何かと話題の本田圭佑選手は18番である。日本の感覚では「歌舞伎十八番」であるとか(十八番とかいて「おはこ」とも読む)、日本プロ野球(NPB)では投手のエースナンバーであるとか、とても印象のいい番号である。

日本代表の背番号をイロハ順で付ける試み
 五十音順は現在の日本人の生活に馴染みすぎていて、頭文字を見れば、どの選手が若い番号に来るか、大きい番号に来るか、だいたい読めてしまうという問題がある。ここで少し目先を変えてみる。今度は日本代表の背番号をイロハ順(いろは歌の順番)で付けてみるのである。
いろは歌
いろはにほへと ちりぬるを
わかよたれそ  つねならむ
うゐのおくやま けふこえて
あさきゆめみし ゑひもせす

いろは歌

 その昔、1987年当時、玉木正之氏がまだ現場でちゃんと取材するスポーツライターだったころ(爆)、閑古鳥が鳴くこと有名だったロッテ・オリオンズ(当時)の本拠地・川崎球場(現・富士通スタジアム川崎)を取材に行った。その時、彼は川崎球場の座席が「イロハ順」で付けられていることに気が付いた。玉木氏はあまりも古臭さに嘆息したという。この話は、玉木氏の作品「牛島物語-川崎ノスタルジア」(所収『プロ野球の友』新潮文庫)に登場する。

プロ野球の友 (新潮文庫)
玉木 正之
新潮社
1988-03


 しかし、これを読んだ野球ファンで有名だった文学者の故丸谷才一が「イロハ順が古臭いとは何だ! 〈いろは歌〉は誇るべき日本の伝統文化,文学ではないか!」とった感じで玉木氏を批判した。玉木氏はひたすら恐縮した。むろん、丸谷才一の批判が正しい。
 余談だが、蓮實重彦(草野進)は「第一級の知識人のプロ野球ファンではない」のだろうか?

 閑話休題。戦前の日本プロ野球、草創期の阪神タイガースは選手の背番号をイロハ順で付けていた(下記リンク先参照)。
 景浦勝6番、藤村富美男10番(永久欠番)といった有名な選手と背番号の組み合わせは、イロハ順で付けられた結果だったのである。この例に倣って、エクセルを少しいじって2018年ロシアW杯日本代表の選手の背番号をイロハ順で付け直してみた。

D.【イロハ順】2018ロシアW杯日本代表
背番号 選手名 Pos. 所属クラブ 読み
1 川島永嗣 GK メス かわしま えいじ
2 乾貴士 MF エイバル いぬい たかし
3 原口元気 MF デュッセルドルフ はらぐち げんき
4 長谷部誠 MF フランクフルト はせべ まこと
5 本田圭佑 MF バチューカ ほんだ けいすけ
6 香川真司 MF ドルトムント かがわ しんじ
7 吉田麻也 DF サウサンプトン よしだ まや
8 長友佑都 DF ガラタサライ ながとも ゆうと
9 武藤嘉紀 FW マインツ むとう よしのり
10 植田直通 DF 鹿島アントラーズ うえだ なおみち
11 宇佐美貴史 MF デュッセルドルフ うさみ たかし
13 岡崎慎司 FW レスター おかざき しんじ
14 大迫勇也 FW ブレーメン おおさこ ゆうや
15 大島僚太 MF 川崎フロンターレ おおしま りょうた
16 山口蛍 MF セレッソ大阪 やまぐち ほたる
17 槙野智章 DF 浦和レッズ まきの ともあき
18 遠藤航 DF 浦和レッズ えんどう わたる
19 酒井高徳 DF ハンブルガーSV さかい ごうとく
20 酒井宏樹 DF マルセイユ さかい ひろき
21 柴崎岳 MF ヘタフェ しばさき がく
22 昌子源 DF 鹿島アントラーズ しょうじ げん
23 東口順昭 GK ガンバ大阪 ひがしぐち まさあき


 第二次大戦後、イロハ順が日本人の生活から遠ざかったこともあり、こちらの方が背番号をランダムに散らしている感じはする。もっとも、ここでも乾選手はフィールドプレーヤーの1番手になってしまうのである(背番号2)。大迫選手は14番で「半端ない」番号にはなったが、今度は原口元気選手が背番号3番。半端感があり、違和感があるのである。

五十音順・イロハ順の背番号を「フランス方式」で修正する
 これまで試みてきた背番号の割り振りに、何度か「違和感」という言葉を使ってきた。要は、サッカーの背番号が固定背番号制になって定着しているのに、かつての試合毎にポジションに応じて背番号を割り振るピラミッドシステムやWMシステム時代の背番号とポジションのイメージに、私たちが引きずられているからである。

 私たちは、サッカーにおいては守備的な選手はGKの背番号1から若い番号、以降、背番号11まで攻撃的な選手になるほど大きい番号になるという観念が刷り込まれている。こうした観念と、五十音順やイロハ順で背番号を付けることと、2つをどうすり合わせるべきなのか? ひとつ妙案がある。

 1986年メキシコW杯のフランス代表で実践されていたので、便宜的に「フランス方式」と呼ぶ(他の大会は確認していない)。この度の日本代表で言えば、1番、22番、23番をGK、2番~9番はDF、10番~18番をミッドフィルダー(MF)、19番~21番をフォワード(FW)とする。その中で選手の背番号を五十音順かイロハ順で割り振るのである。

 メキシコW杯のフランス代表の登録メンバーを見ると、ここでもアルファベット順による背番号を多少は意識しているようである。しかし、アルゼンチン方式にせよ、フランス方式にせよ、ディエゴ・マラドーナやミシェル・プラティニといったワールドクラスの選手は特別に「背番号10」を与えられている。もっとも、現状、日本にはマラドーナもプラティニもいないわけだし、気にしなくていい。むろん、中田英寿という選手は過大評価の最たるものである。

 前説が終わったところで、あらためてフランス方式とアルゼンチン方式の合わせ技によるロシアW杯日本代表、日本vsコロンビア戦のスタメンとフォーメーションである。まずは五十音順から。

E.【ポジション別による五十音順】2018ロシアW杯日本代表
背番号 選手名 Pos. 所属クラブ 読み
1 川島永嗣 GK メス かわしま えいじ
2 植田直通 DF 鹿島アントラーズ うえだ なおみち
3 遠藤航 DF 浦和レッズ えんどう わたる
4 酒井高徳 DF ハンブルガーSV さかい ごうとく
5 酒井宏樹 DF マルセイユ さかい ひろき
6 昌子源 DF 鹿島アントラーズ しょうじ げん
7 長友佑都 DF ガラタサライ ながとも ゆうと
8 槙野智章 DF 浦和レッズ まきの ともあき
9 吉田麻也 DF サウサンプトン よしだ まや
10 乾貴士 MF エイバル いぬい たかし
11 宇佐美貴史 MF デュッセルドルフ うさみ たかし
12 大島僚太 MF 川崎フロンターレ おおしま りょうた
13 香川真司 MF ドルトムント かがわ しんじ
14 柴崎岳 MF ヘタフェ しばさき がく
15 長谷部誠 MF フランクフルト はせべ まこと
16 原口元気 MF デュッセルドルフ はらぐち げんき
17 本田圭佑 MF バチューカ ほんだ けいすけ
18 山口蛍 MF セレッソ大阪 やまぐち ほたる
19 大迫勇也 FW ブレーメン おおさこ ゆうや
20 岡崎慎司 FW レスター おかざき しんじ
21 武藤嘉紀 FW マインツ むとう よしのり
22 中村航輔 GK 柏レイソル なかむら こうすけ
23 東口順昭 GK ガンバ大阪 ひがしぐち まさあき


 これだと、背番号とポジションと選手のイメージの結びつきのギャップはかなり減る。乾選手が10番、香川選手が13番(ゲルト・ミュラーと同じ)、柴崎選手が14番(ヨハン・クライフと同じ)、原口選手が16番、大迫選手19番。ただし、センターバックの吉田麻也選手の9番(釜本邦茂と同じ!)には違和感があるが、逆に言えば完璧な方法など存在しないということである。この度の日本代表はFW登録の選手が3人しかいなかった(フォーメーション図の吉田麻也選手の背番号に誤りがあります.ご容赦ください)。

 続いて、同じくイロハ順である。

F.【ポジション別によるイロハ順】2018ロシアW杯日本代表
背番号 選手名 Pos. 所属クラブ 読み
1 川島永嗣 GK メス かわしま えいじ
2 吉田麻也 DF サウサンプトン よしだ まや
3 長友佑都 DF ガラタサライ ながとも ゆうと
4 植田直通 DF 鹿島アントラーズ うえだ なおみち
5 槙野智章 DF 浦和レッズ まきの ともあき
6 遠藤航 DF 浦和レッズ えんどう わたる
7 酒井高徳 DF ハンブルガーSV さかい ごうとく
8 酒井宏樹 DF マルセイユ さかい ひろき
9 昌子源 DF 鹿島アントラーズ しょうじ げん
10 乾貴士 MF エイバル いぬい たかし
11 原口元気 MF デュッセルドルフ はらぐち げんき
12 長谷部誠 MF フランクフルト はせべ まこと
13 本田圭佑 MF バチューカ ほんだ けいすけ
14 香川真司 MF ドルトムント かがわ しんじ
15 宇佐美貴史 MF デュッセルドルフ うさみ たかし
16 大島僚太 MF 川崎フロンターレ おおしま りょうた
17 山口蛍 MF セレッソ大阪 やまぐち ほたる
18 柴崎岳 MF ヘタフェ しばさき がく
19 武藤嘉紀 FW マインツ むとう よしのり
20 岡崎慎司 FW レスター おかざき しんじ
21 大迫勇也 FW ブレーメン おおさこ ゆうや
22 中村航輔 GK 柏レイソル なかむら こうすけ
23 東口順昭 GK ガンバ大阪 ひがしぐち まさあき


 ここでも乾選手は10番、原口選手が11番、柴崎選手は日本代表の「おはこ」で18番、半端ない大迫選手は21番。先発メンバーではないが、本田圭佑選手は欧米人が忌避するという13番。悪くないような気がする。

 拝啓 アディダスジャパン様。香川真司選手はヨハン・クライフと同じ背番号14じゃいけませんか? 敬具(おっと,クライフはプーマの契約選手だったが……)

 繰り返すが、日本代表と契約するスポーツ用品メーカーの要請で特定の背番号を付けるという、現在の慣行はさまざまな弊害があるので止めるべきである。では、そうしたらいいのかというと、ここで示したような、アルゼンチン方式+フランス方式による五十音順かイロハ順がより良い方法ではないかと思う。個人的にはイロハ順を推したい。

 JFAはアディダスジャパンと手を切るべきである。デザインは愚劣だし、選手の選考には事実上口出ししている。契約が切れるときには、ぜひとも一考願いたい。

Mbappeが日本代表だったら背番号は何番?
 さて、コンビニエンスストアや飲食店で働いている人を見ていると、いよいよ日本も移民社会に入っている気がする。将来、サッカー日本代表でアフリカに縁のあるワールドクラスの選手が出てきたとして、仮にその名前(ファミリーネーム)を「Mbappe」としよう。彼は何と表記されるのか? エムパペ、ムバペ、ンバペ、エンバペ、ムバッペ……? 少なくとも欧米式のように頭に「エ」を付けるのは、ポストコロニアルの世界のあり方としては止めるべきである。

 そして、背番号は? 特別扱いで10番は与えないものとして、五十音順かイロハ順ではどんな背番号になるのか? ……などと、妄想に耽るのは面白い。

(了)




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サッカー日本代表ユニ2018
【サッカー日本代表,2018年W杯ロシア大会モデル】
  • 何でいつも余計なアクセントやシンボルを入れようとするんだろう?
  • 安定の蛇足。
  • 作り手にアイデンティティが無いとこうなるわけか。
競馬文化からアディダスジャパンを批判する試み
 アディダスジャパン株式会社が手掛けるサッカー日本代表のユニフォームのデザインが毎回毎回ひどすぎて、サッカーファン・サポーターから酷評が噴出する。

 しかし、いざ、そのデザインの何が悪いのか? と質(ただ)されると、意外に説明に窮(きゅう)する。また、一般のサッカーファンによってネット上に発表された日本代表デザインの代替案の印象は……、カウンターとしては何とも微妙である。

 そこで、あらためてアディダスジャパンの醜悪さを理解いただくために、一計を案じることにした。

 歌謡界の大御所・北島三郎が馬主をつとめる競走馬「キタサンブラック」。その騎手が着用する「勝負服」のデザインを、アディダスジャパンの流儀で改造するのである。
キタサンブラック=北島三郎(大野企画)
【キタサンブラックほか、北島三郎所有馬の勝負服】

競馬とフットボール~共通するデザインの神髄
 ところで「勝負服」とは何か? 騎手がレースの際に着用する服のこと。「服色(ふくしょく)」とも言う。いわば騎手のユニフォームである。騎乗する競走馬を所有する馬主の表し、馬主ごとにデザインが決まっている。その作図・彩色には一定のルールがあり、たとえば違う馬主が似たようなデザインの勝負服を用いることはできない。
ジョッキーと勝負服
【騎手と勝負服&馬主(冠名):左から,武豊&北島三郎(キタサン),クリストフ・ルメール&里見治(サトノ),ミルコ・デムーロ&社台レースホース(シャダイ),浜中俊&野田みづき(ミッキー)】

 フットボール……サッカー(とラグビー)のユニフォーム(ジャージ)も、競馬の勝負服も、そのスポーツで勝負する主体を象徴し、かつその勝負が敵味方を入り混じって行われるために視認・識別する役割が求められる。また、それぞれのアイテムは、ファン・サポーターの大きな関心を呼び、フットボールファン(サッカー,ラグビー)、競馬ファンコレクションの対象にもなっている。

 そのためか、フットボールのユニフォームと競馬の勝負服もデザイン(作図・彩色)には類似したものを見かける。
ソウルスターリング(2017オークス優勝馬) ペニャロール(ウルグアイ)
【ソウルスターリング(左)とペニャロール】

キタサンブラック=北島三郎(大野企画) 慶應義塾大学ラグビー部
【キタサンブラック(左)と慶應義塾大学ラグビー部】
(ただしキタサンブラック勝負服の黄色く見える部分は正しくは茶色である)

 特にキタサンブラックを選んだのは、競馬界の枠を超えた話題性もさることながら、勝負服のデザインにセンスの良さを感じたからだ(本当にすばらしい)。この勝負服をアディダスジャパン流に「盛る」ことで、まずはその「違和感」を味わってもらう。

もしもキタサンブラックの勝負服をアディダスジャパンがデザインしたら?
 前説が終わったところで、本題に入る。キタサンブラックの勝負服をアディダスジャパンが制作することになった。そして担当者が馬主の北島三郎にプレゼンテーションする……という場面を想定してみる。

 まずは、首回りの赤い配色が地蔵菩薩や赤ちゃんの「よだれかけ」みたいだと酷評された「革命に導く羽」モデル(2010~2011)である。
アディダスジャパン 北島先生! テーマは「革命」です! 先生の競走馬でGIレースを制覇して日本の競馬界に「革命」を起こしましょう! 勝負服の首周りに革命を表現する「赤」を配色しました!
革命に導く羽(キタサンブラック) 革命を導く羽_サッカー日本代表
【「革命を導く羽」キタサンブラック(左)とサッカー日本代表】

北島三郎 ……(絶句)。
 続いて、ユニフォームの前身に縦に1本ラインが入ったデザインのあまりの酷さに、日本中のサッカーファンが呆れ返った悪名高き「結束の一本線」モデル(2012~2013)。ちょうど2011年に「東日本大震災」があったために、「絆(きずな)」や「結束」といったコンセプトを盛り込んだと考えられる。これでアディダスジャパンのセンスの悪さは底を抜けた感がある。
アディダスジャパン 北島先生! 震災からの復興です! ここは強い「絆」、みんなの「結束」です! 日本全体が逆境に屈することなく前進するための「結束」を一本線で表現しました!
結束の一本線(キタサンブラック) 結束の一本線_サッカー日本代表
【「結束の一本線」キタサンブラック(左)とサッカー日本代表】

北島三郎 ……(絶句)。
 そして、2018年W杯ロシア大会の「勝色&刺し子柄」である。
アディダスジャパン 北島先生! これまで先生の競走馬の歴史を築いてきたすべての騎手や調教師、ファンの思いを紡ぎ、未来へ挑むメッセージを込めて日本伝統の刺しゅう「刺し子柄」をあしらいました。
勝色&刺し子柄(キタサンブラック) 勝色&刺し子柄_サッカー日本代表
【「勝色&刺し子柄」キタサンブラック(左)とサッカー日本代表】

北島三郎 ……(絶句)。
 こんな代物ばかり見せ続けられたら、しまいに北島三郎はイライラして怒り出すだろう。そればかりか、競馬ファンも怒り出すだろう……。

フットボールも競馬もデザインのルーツは西洋の紋章学と旗章学
 ……馬主・北島三郎や競馬ファンが感じるであろう、この「違和感」「イラ立ち」「不快感」こそ、サッカーファンがアディダスジャパンの日本代表デザインに感じる「違和感」「イラ立ち」「不快感」そのものである。

 北島三郎は、アディダスジャパンによって自分の勝負服がブラッシュアップされたというよりも、むしろ汚され、延いては自分の愛馬が愚弄されたと思うだろう。つまり、アディダスジャパンは、サッカー日本代表を汚し、延いては日本のサッカー文化、日本のサッカーファンを愚弄しているのである。

 それとは別にアディダスジャパン流キタサンブラックの勝負服は、登録した服色から大きく逸脱しているとしてJRA(中央競馬会)から使用を禁止される。「革命の赤」だの「結束の一本線」だの「刺し子柄」だのが大袈裟に入ったキタサンブラックの勝負服は、すでにキタサンブラックの勝負服ではないからである。

 フットボール(サッカー,ラグビー)のユニフォームと競馬の勝負服はデザインが似てくると書いた。それも当然で、両者とも西洋の紋章学および旗章学からの作図と彩色の作法の派生形だからである。
 紋章学・旗章学の泰斗、森護(もり・まもる)先生の『ユニオン・ジャック物語』や、ホイットニー・スミス博士(アメリカ)の『世界旗章大図鑑』には、競馬の勝負服に関する言及や図解がある。
 分かりやすい図形、コントラストの聞いた彩色への努力の積み重ねによって、紋章は抜群の識別性を維持してきた。紋章図形の優れた識別性という特質をフルに活用したもの……競馬の騎手がレースの時に着用している派手な上着〔勝負服〕の模様も、すべて紋章の〔図形〕であり、これらの図形が渾然〔こんぜん〕一体となって走り抜ける各馬の順位の識別に極めて有効であるからにほかならない。
森護『ユニオン・ジャック物語』70頁


『世界旗章大図鑑』346頁
【『世界旗章大図鑑』346頁より】



 そして、ミシェル・パストゥロー教授(フランス)の『紋章の歴史』によると、サッカーのユニフォームのデザインもまた紋章学に由来しているという。
 さらに紋章の影響が強いのが,スポーツのグランドである。ワッペン,大小の旗,ユニフォームの色,応援団が振りまわすマフラーや横断幕,これらはすべて紋章化されており,中には何世紀も昔の象徴や記章〔エンブレム〕の延長線上にあるものもあるが,プレーヤーも応援団もそれをはっきり意識していない。
インテルミラノ ACミラン
 たとえばミラノ〔イタリア〕の有名なふたつのサッカーチーム(インターミラノとACミラン)の色が、16世紀にすでに〔ママ〕ミラノのふたつの区域の記章〔エンブレム〕の色だったことを誰が知っているだろうか。
ミシェル・パストゥロー『紋章の歴史』98頁



 イタリア・セリエAのライバル、インテルとミランの対照的なチームカラーにそのような来歴があったとは、パストゥロー教授の本で初めて知った。

「継承」されないデザインは失格
  1. 日本のサッカーファンの大多数は、アディダスジャパンが手掛けるサッカー日本代表のユニフォームのデザインの酷さに強い不満を持っている。
  2. 競走馬「キタサンブラック」の勝負服をアディダスジャパンのサッカー日本代表風に改造してみたら、やはり同じような強い違和感を感じた。
  3. サッカーのユニフォームも、競馬の勝負服も、そのデザイン(作画・彩色の作法)はルーツを同じくし、西洋の紋章学や旗章学のそれに倣(なら)っている。
 紋章学・旗章学の理論や思想ならば、アディダスジャパンのデザインの酷さを一定の基準から批判できる。そして、この問題の解決法も導けるのだ。

 森護先生の著作などをもとに、紋章とは何か……を大まかに定義してみると「特定の対象を他者と識別するために描かれた象徴で,かつ時代を超えて継承されているもの」となる。

 「継承」という要素が非常に重要で、描かれる象徴をコロコロ変更していては、プレイヤーもポーターも、アイデンティティーやローヤルティー(loyalty,忠誠心)が固まらない。これはスポーツでも同様、サッカー日本代表でも、競馬のキタサンブラックでも変わりがない。Jリーグのサポーターの横断幕にみられるような「共に闘おう!俺たちの誇り○○○○」みたいな意識が醸成されないのだ。

 一方、その国のサッカーの当局は収入を得る手段として、代表チームのレプリカ・ユニフォームを売ることも必要になる。そのために後生同じデザインのユニフォームを使い続けるわけにはいかない。

 そこで、矛盾する両方のバランスをとった上で、数年ごとに代表チームのデザインをモデルチェンジすることになる。これは、あくまでマイナーチェンジであって、フルモデルチェンジではない。
azzurri1968
azzurri1990
azzurri2006
【時代を超え継承されるもの:歴代のサッカーイタリア代表】

スポーツ・デザインのあるべき姿とは?
 ところが、日本サッカーはこのバランスをずいぶん欠いている。マイナーチェンジのはずなのに、大袈裟な「コンセプト」なるものが立てられるようになった。それは代を重ねるごとに「革命に導く羽」やら「結束の一本線」やらと、やたら饒舌になり、デザインは抽象から具象へと化け、ますます大袈裟になっていった。
サッカー日本代表歴代ユニ~2017
 これには屋上に屋を架すような冗漫さ、継承されているはずのデザインが根本から変更されてしまっているかのような怪訝さをはらんでいる。

 すると、サッカーファンは「サッカー日本代表」を応援しているのか、アディダスジャパンの独りよがりのコンセプトを見せつけられているのか、分からなくなる。サッカーファンの心の中に、日本代表に対するアイデンティティーやローヤルティーに不安が生じるのだ。

 アディダスジャパンの日本代表デザインにサッカーファンが「違和感」「イラ立ち」「不快感」を覚え、悪評が噴出する心理的理由がこれである。

 日本代表に「日本代表」以上のコンセプトなどいらない。日本代表のユニフォームは何を描いてもいい無地のキャンバスではない。手を加えるにしても、これには細心の注意と配慮が必要なのだ。日本代表の歴代のユニフォームのデザインの出来の悪さは、本邦サッカー文化の浅薄さでもある。

 とりあえず、日本代表とJリーグ各クラブ(今回,後者にはあまり言及できなかったが)のユニフォームのデザイン(作図・彩色)には、競馬の勝負服のような「服色規定」をもうけ、その一定の幅からモデルチェンジをするべきではないか……と提案してみる。

 嫌なものを無理やり好きになる必要はない。

(この項,了)



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   I
 日の丸(日章旗)とヤタガラス(八咫烏)を上下別々に並べた、サッカー日本代表の現行エンブレム【図1】は、世界レベルで不細工なデザインなのだが、何が、どう、不細工なのかをご理解いただくために一計を案じることにした。
図1:サッカー日本代表のエンブレム(2017年現在)
【図1:サッカー日本代表のエンブレム(2017年現在)】

 スペインの超名門、FCバルセロナのエンブレムを日本代表風に改造してみるのである。

   II
 ……と、いうわけで、FCバルセロナである【図2】。
図2:FCバルセロナのエンブレム
【図2:FCバルセロナのエンブレム】

 そのエンブレムを分解してみると、下半分の紺とエンジの縦縞は、バルサのユニフォームにも使われているクラブカラーである。その由来は諸説紛々。中央には12枚パネルのサッカーボールは配されている。ボールの皮の縫い目の角度でボールが回転しているようにも見える。優れた意匠である。

 上半分は、バルセロナ市の市の紋章のさらに上半分である【図3】。さらに分解すると、左側にある白地に赤い十字はバルセロナの守護聖人サン=ジョルディ(聖ゲオルギオス)のシンボル。英語でセント=ジョージとも言い、イングランドの守護聖人であり、要するにイングランドの国旗と同じである。さらにイタリア・ミラノの守護聖人(サン=ジョルジオ)でもあり、ミラノ市の市章やACミランのエンブレムにもこの十字が配されている。
図3:バルセロナ市の紋章
【図3:バルセロナ市の紋章】

 右側の黄地に赤の縦縞は、バルセロナ市のあるカタルーニャ州の紋章である。

 FCバルセロナのエンブレムは、まさにバルセロナの、あるいはカタルーニャの共同体のシンボルである。このデザインの素晴らしさが、バルサのブランド性に一役買っていると思われる。

   III
 このFCバルセロナのエンブレムを上下2つに分割する【図④】。
図4:バルサのエンブレムを上下に分割
【図4:バルサのエンブレムを上下に分割】

 次いで、分割したバルサ・エンブレムの下半分のタテ:ヨコの比率を2:1に変形する【図5】。ボールがラグビーボールみたいになってしまったのは、まったく本文筆者の技術不足によるもの、あしからずである。
図5:バルサのエンブレムの下半分を縦に伸ばす
【図5:バルサのエンブレムの下半分を縦に伸ばす】

 さらに、上半分をバルセロナ市の紋章からバルセロナ市の旗に差し替える【図6】。もっとも、西洋紋章学、およびそこから派生した旗章学においては、両者は同一のものと見なされる。つまり、バルセロナ市紋章とバルセロナ市旗は同一のものである。旗として使うか紋章として使うか、その用途によって形状が違ってくるだけのことである。
図6:バルセロナ市の旗
【図6:バルセロナ市の旗】

 紋章と旗は基本的に同一のものであることについて、参考までにイギリス連合王国国王紋章(同国の国章を兼ねる)と同国国王旗(同国のもうひとつの国旗でもある)を並べてあげておく【図7】。ちなみにいずれも田の字形の左上・右下はイングランド、右上はスコットランド、左下はアイルランド(北アイルランド)を組み合わせたもの。この並びには構成国間の明確な序列がある。
図7:イギリス国王の紋章(上)と旗
【図7:イギリス国王の紋章(上)と旗】

 イングランドの紋章は、色を変えてサッカー・イングランド代表の原形となる(スリーライオンズ)。また、スコットランドの紋章は、サッカー・スコットランド代表エンブレムの原形である。

   IV
 ネタがそろったところで、いよいよバルサのエンブレムを日本代表風に改造する。バルセロナ市旗【図6】を上に、縦長に伸ばしたバルサのエンブレム【図5】を下に並べてみよう。加えて日本代表の現行エンブレムも横に並べてみた【図8】。こうすることで、そのデザイン的な問題点がよく分かるのである。
図8:FCバルセロナ(左)と日本代表のエンブレム
【図8:FCバルセロナ(左)と日本代表のエンブレム】

 これは、世界基準で見るとオッタマゲルような酷い代物である。「違う! こんなのはバルサじゃない!」という、小柳ルミ子さんの悲鳴が聞こえてきそうである。

 使っている素材はオリジナルのFCバルセロナとほとんど同じなのに、しかし、何であろう。改造バルセロナ・エンブレムが放つ強烈な違和感は。座りの悪さは。無粋さは。屋上に屋を架すような冗漫さは。

 つまり、バルセロナ市旗とバルサのクラブカラーのエンブレムを上下別々に立てているのが、世界の眼から見れば非常に不自然なのである。

 右側の現行日本代表エンブレムもこれと同じである。日章旗とヤタガラスを上下別々に2つ立てる意匠は、これまた世界基準の眼で見れば「不可解なオブジェ」なのである。

 旗とは、本来、旗竿に取り付けて空中にはためかせるのが目的である。これを盾形の紋章図形として修正することなく、矩形のままユニフォームにベタリと貼り付けるのは、あまり格好いいものではない。その上、矩形の旗と盾形のエンブレムを上下に並べるのは実に奇怪な光景である。

 日本の常識は世界の非常識。日本は世界に向けて恥をさらしているのである。

   V
 この格好の悪さについては、もっと考える意味がありそうである。

 なぜ日本代表は日の丸とヤタガラスを別々に表すのだろうか? あるいは、なぜFCバルセロナはバルセロナ市旗とクラブカラーを別々に表さないのだろうか? なぜバルサのエンブレムは市旗とクラブカラーがひとつになっているだろうか?

 サッカーのエンブレムやユニフォームの意匠について論じた本や雑誌記事をいろいろ読んできた(故富樫洋一氏、斉藤健仁氏、萩本良博氏ほか)。が、フットボールのデザインとは何であって何であるべきかという基本的な理解が不明確であったので、いずれも印象論にとどまりがちだったかもしれない。そのため、サッカージャーナリズムは、日本代表やJリーグ各クラブのデザインについて、適切な批判ができなかったのである。

 フットボールのデザインとは、FCバルセロナのエンブレムの例、イギリス国王の紋章から派生したイングランド代表やスコットランド代表のエンブレムの例などで類推できるように、西洋紋章学および旗章学と近しいものである。その評価は西洋紋章学・旗章学の理論、作図・彩色のルールに基づいて下されるのが望ましい。
西洋の紋章とデザイン
森 護
ダヴィッド社
1982-04



 西洋紋章学・旗章学には、デザインすなわち作図・彩色に関して厳格なルールがある。一見するとそれは面倒で不自由な制約のようにも思える。しかし、そもそも紋章や旗は、いにしえの西洋の「野戦」において、両軍入り乱れて戦う敵味方の判別や自軍の忠誠心を高めるために創り出され、用いられたものであった。そのためにはデザインに優れた視認性や識別性がなければならない。

 西洋紋章学・旗章学のルールは、そのために歴史の研鑽を積んできた。不自由なようであるが、むしろルールを守ることでそのデザインは優れた視認性、識別性、象徴性、品位、そして美しさすら放つようになる。

 フットボールの試合もまた「野戦」と言える。サッカーやラグビーのような競技場の中で両軍入り乱れてゴールを奪い合うゲームで、そのエンブレムやユニフォームのデザインが西洋紋章学・旗章学のルールに準じたものになるのは、理の当然であった。

 言われてみれば、クリケットや野球のようなバット・アンド・ボール・ゲームのユニフォームでは、フットボール系の球技とは対照的に、その作画・色彩で敵味方を明確に判別する意識が比較的最近まで、なるほど希薄であった。

 何より、西洋紋章学・旗章学を援用することで、流通する日本のサッカーデザインの何がよくないのか、どうすればよいのかを理論的に批判することができるのである。

   VI
 FCバルセロナのエンブレムは2つまたは3つのシンボルを組み合わせたものだった。イギリス国王の紋章は3つの紋章を組み合わせたものだった。複数のテーマをひとつにまとめて新たなひとつのシンボルとして昇華させるのは、西洋紋章学の専門用語ではマーシャリングと言う。世界ではありふれた作法である。

 むしろ、FCバルセロナの関係者は、日本のサッカー関係者にこう質すかもしれない。

 「なぜわざわざ、バルセロナ市の市章を旗に変えて、バルサのクラブカラーと上下2つに分ける必要があるのか? それならば下半分のバルサのクラブカラーだけでいいのではないか?」。あるいは「なぜオリジナルのバルサのエンブレムのように、ひとつのシンボルとしてまとめないのか?」と……。

 ことほど左様に、本来、シンボルとはひとつにあるべきだ。2つも3つも並んでいてはシンボルたりえない。

 個人的にはヤタガラス単体でサッカー日本代表のシンボルとして十分だと思うののだけれど、どうしても日の丸も欲しいという人はいるだろう(つたない記憶では、それはラモス瑠偉選手の所望であった)。で、あるならば、西洋紋章学・旗章学のルールに従って日の丸とヤタガラスをひとつに組み合わせるべきだ。

 それこそ、FCバルセロナのように。そうでないと、日本サッカーという共同体を「代表」するナショナルチームのシンボルたりえないし、美しくないからだ。

   VII
 サッカー日本代表のエンブレム(やユニフォーム)のデザインは、なぜ、あそこまで、毎回毎回サッカーファンに酷評されるのか?

 要するに、公益財団法人日本サッカー協会および同協会の公式サプライヤーであるアディダスジャパン株式会社の日本代表デザイン担当者が、フットボールのデザインの何たるかについて根本的に「無知」なのである。きちんとした知識のあるデザイナーや監修者がいないのだろう。

 日本は世界に対して無知をさらけ出している。まことに恥ずかしい。

 日本サッカー協会が出した日本代表デザインは酷い代物が多いから、リリースされると一般のサッカーファンも過剰に反応して、インターネットでいわゆる「炎上」する。

 しかし、そのサッカーファンがネット上で代替案として提案した「ぼくがかんがえたさいこうにかっこいいさっかあにっぽんだいひょうのゆにふぉおむとえんぶれむ」も、あきらかに西洋紋章学・旗章学のルールを知らないで描いているので、ろくなものがない。

 目クソ鼻クソである。

   VIII
 日本のサッカーそのものが諸外国と比べて決定的に劣っているということはないだろう。しかし、デザイン面に関しては決定的に劣っている。サッカー日本代表はエンブレムやユニフォームという表象について、世界の嘲笑の対象になっているのである。

 しかるべき教養を備えた、イギリスやヨーロッパのサッカー界の要人たちが日本代表のエンブレムを見たら、日本のことを文化に蒙(くら)いサッカー国とみなす(さすがに口に出して言わないけれど)。日本サッカー協会会長(現在は田嶋幸三氏)など、所詮その程度の国のリーダーにすぎない。

 これは、例えば、いつかはもう一度ワールドカップを日本で(今度は単独で)開催したい、ワールドカップで優勝したいと思っている日本サッカーの「外交」にとっても好ましいことではない。

 サッカーのデザインは、その出来しだいでは実害すらもたらす。

 日本代表だけではない。Jリーグ各クラブのエンブレムやユニフォームのも紋章学・旗章学のルールに反したデタラメなものだらけである。

 その昔、森護(もり・まもる:1923‐2000)先生という、西洋紋章学とイギリス王室史の専門家がいて、日本のデザイン界にはびこる似非西洋式紋章のデタラメさを俎上に載せて批判する方がいた。日本サッカーの各々の表象に対しても、ぜひ筆誅を加えてほしかった。イギリスで生まれた文化=フットボールだからこそ批判してほしかったのだが、お亡くなりになってしまった。残念なことである。

   IX
 文句を言えばキリがない。

 先にバルセロナ市やイギリス国王の例を出して、西洋においては紋章と旗はデザインは同一のものであり、旗として使うか紋章として使うか、その用途によって形状が違ってくるだけだという話を書いた。ところが、日本サッカーは、彫刻家・日名子実三(ひなご・じつぞう:1892‐1945)先生デザインの日本サッカー協会旗と、日本代表のエンブレムとでデザインが違う【図9】。これまた、世界の非常識である。
図9:旧JFA旗(上)と日本代表エンブレム
【図9:旧JFA旗(上)と日本代表エンブレム】


 あるいは、日本代表のヤタガラスのエンブレムは現行モデルで4代目。3度もモデルチェンジをしている【図9の下右が3代目、その右が4代目】。これも世界基準からすれば異常な事態である。サッカーでもラグビーでもイングランド代表もスコットランド代表も、FCバルセロナも、昔から同じものを使っており、このような改変などしない。せいぜい、周りの装飾に手を加える程度である。

 それどころか日本サッカー協会は、2016年3月に日名子先生デザインの協会旗を「改悪」してしまった【図10】。
図10日本サッカー協会旗の旧(上)と新
【図10:日本サッカー協会旗の旧(上)と新】

 例えば、【図10】の下「新シンボル」の角ばったヤタガラスの向かって左の足が抱えているボールは何の球技であろうか? 模様がなくてまるでボウリングか何かのように見える。

 日本人も明治時代からサッカーをプレーし、サッカー協会も大正時代から活動しているのだから、ここは日名子先生のオリジナルデザイン同様、12枚パネルでかまわない。

 それこそ、FCバルセロナのエンブレムのように……である。

(了)



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