2019ラグビーW杯のアルゼンチン・サポーターから
 ラグビーとサッカー、ふたつのフットボールで、両方とも(それなりに)応援しがいのあるナショナルチーム(代表チーム)を持っている国というのは良いもんですなぁ……という話から、あまり良くない方に話が移る。

 2019年ラグビーワールドカップ日本大会、2日目。プールC(1次リーグC組)のアルゼンチンvsフランス戦。当ブログは「あること」が妙に気になっていた。ラグビー・アルゼンチン代表のサポーターがのうち、何人が、サッカー・アルゼンチン代表のレプリカ・ユニフォームを着用して観戦・応援するか? ……ということであった。

 放送や録画で確認した限りでは、サッカー・アルゼンチン代表のレプリカ・ユニフォームを着たアルゼンチン・サポーターが、少なくとも7~8人はいた。

 周知のように、サッカー・アルゼンチン代表のユニフォームの意匠は「水色と白の縦縞」、ラグビー・アルゼンチン代表のユニフォーム(ジャージ)の意匠は「水色と白の横縞」である。アルゼンチン人は、ラグビーの国際試合の観戦でも、サッカーのユニフォームを着て、自国の応援ができるのである。

 うらやましい。ただただ、うらやましい。

▼後藤健生「ラグビーW杯を堪能してきた。サッカーのW杯とよく似ていたのでびっくり!」(2019年9月23日)

 同様のことは、決勝で日本がオーストラリア(豪州)を下して優勝した2011年のAFCアジアカップのスタンドでも見られた。サッカー豪州代表「サッカルーズ」の応援する豪州人サポーターの中に、ラグビーユニオン(15人制)豪州代表「ワラビーズ」のジャージを着て応援する人が何人か見られたのである。

 「サッカルーズ」も、「ワラビーズ」も、チームカラーは「ゴールド≒黄色」である。豪州人は、サッカーの国際試合の観戦でも、ラグビーのジャージを着て、自国の応援ができるのである。

 うらやましい。ただただ、うらやましい。

 翻って、日本ではこういうことはできない。

 ラグビー日本代表の試合でサッカー日本代表のレプリカを着ていったら、周囲に白眼視されるだろう。逆もまた然りである。

スポーツにおけるナショナルカラー
 まずは、だいたいどの競技でも使用されている、国際的に認知された、スポーツにおける主だった国々のナショナルカラーの一覧しておく(順不同)。
一般的なナショナルカラー
  • アイルランド:緑
  • アルゼンチン:水色(と白)
  • イタリア:青
  • オランダ:オレンジ
  • クロアチア:赤と白(のチェック)
  • スコットランド:紺
  • オーストラリア:黄色(と緑)
  • ドイツ:白(と黒)□■
  • ブラジル:黄色(と緑)
  • ニュージーランド:黒■
  • フランス:青(と白と赤)
(まだまだあるが省略する)
 ワールドカップやオリンピックなどの世界的規模のスポーツイベントで、例えばオレンジ色を見れば「ああ,オランダだな」と思う。同様、黒ならば「ああ,ニュージーランドだな」と思う。イタリアの青も、アイルランドの緑も、みな同じである。

 翻って、日本の場合、こうはならない……。

サッカー,ラグビー,バスケット,野球の「日本代表」
 ……といったところで、日本の実例を見ていこう。サッカー、ラグビー、バスケットボール、野球という、わが国における四大球技スポーツ(当ブログが勝手に認定)、その男子代表チームのチームカラーとニックネーム(愛称)を確認する。
サッカー日本代表
サッカー日本代表

  • チームカラー:青、白(後者はセカンドカラー,以下同じ)
  • ニックネーム:SAMURAI BLUE(サムライ・ブルー)
 ウィキペディア日本語版の記述をそのまま信じれば、1930年の極東選手権の日本代表に大半の選手を送り込んだ東京帝国大学は淡青(ライトブルー)のシャツであった。1936年ベルリン五輪に出場した早稲田大学主体の選抜チームの日本代表は同じ淡青のシャツを採用し、それ以降もチームカラーとして青が定着することになった……とある。

 「SAMURAI BLUE(サムライ・ブルー)」の愛称は、2006年にサポーターの投票の結果、制定された……と、公益財団法人日本サッカー協会(JFA)の公式サイトにある。
ラグビー日本代表
ラグビー日本代表
  • チームカラー:赤と白の横縞、青(紺?)
  • ニックネーム:ジャパン、(時のヘッドコーチの名前を冠して)○○ジャパン、チェリーブロッサムズ(Cherry Blossoms)、ブレイブブロッサムズ(Brave Blossoms)
 時の代表チームを統(す)べる監督(またはヘッドコーチ)の名前(主に苗字)を冠して、チームを「○○ジャパン」と呼ぶ、現在、さまざまな競技で用いられている用法は、ラグビーがルーツである。文脈上、単に「ジャパン」と呼んでそのまま日本代表のことを表すのは、ラグビーのみの用法。

 チェリーブロッサムズ(Cherry Blossoms)、ブレイブブロッサムズ(Brave Blossoms)は、ラグビーW杯本大会で奮戦する日本代表の様子を海外のメディアが評価して、胸にある桜の花の徽章から名付けたものだと言われている。日本ではまれに用いられる。

 メディアの報道によってチームの愛称が命名された例としては、ほかに「オールブラックス」(ラグビー・ニュージーランド代表)がある。

 赤と白の横縞ジャージについては、ラグビーの主要国がすでに主な色を押さえていたので、2色の横縞にしたという話が伝わっている。
バスケットボール日本代表
バスケットボール男子日本代表
  • チームカラー:黒(下)と赤(上)の2分割、白
  • ニックネーム:AKATSUKI FIVE(アカツキファイブ)
 チームカラー、下から黒から赤へと移る配色は、日出ずる国「日本」の日の出、夜明け、すなわち「暁(あかつき)」を表し、コート上で戦う5人の選手(FIVE)を組み合わせたもの。世界に挑戦する日本代表に「日の出の勢い」をもたらすという思いも込められている……と、公益財団法人日本バスケットボール協会(JBA)の公式サイトにある。
野球日本代表
野球日本代表
  • チームカラー:帽子=青褐色(あおかちいろ,藍と墨の混色)と紅色(くれないいろ)、シャツ=白にピンストライプ、青褐色
  • ニックネーム:侍ジャパン
 ユニフォームには、古来、侍が戦に勝ちをもたらすとして甲冑を染め上げた「青褐色」。神聖と清浄無垢の象徴である「真白(ましろ)」。日の丸の赤である「紅色」を採用した……と、「野球日本代表 侍ジャパンオフィシャルサイト」にはある。

 なお、「さむらいじゃぱん」の名称をめぐっては、2008年3月、ホッケー男子日本代表が先に発表、商標登録していた。しかし、同年11月に野球も同じ名称を発表。その後の話し合いを経て、ホッケーがカタカナの「サムライジャパン」、野球が漢字の「侍ジャパン」として、棲(す)み分けがなされている。

アメリカ野球界の体質が日本のスポーツ文化に奇妙な影響を与えた
 このように、サッカー、ラグビー、バスケットボール、野球、……日本のスポーツのナショナルチーム(代表チーム)チームカラーも、ニックネームも、日本はみんなバラバラなのである。

 かかる情況は、人から「日本のスポーツ文化はダサい」と指摘されても「お説ごもっともでございます」と平身低頭するしかない。

 また、ラグビー日本代表以外の各ナショナルチームのニックネームは、「オールブラックス」(ラグビー・ニュージーランド代表)や、「アズーリ」(サッカーほかイタリア代表)といった、世界的に人気のあるナショナルチームの愛称と違って、取って付けた不自然さが際立つ。ダサい。

 どうしてこうなったのか? 明治維新このかた、日本で随一の人気スポーツが「野球」(ベースボールと呼ばなければならないのだろうか?)だったせいである

 むろん、野球であれ、サッカーであれ、ラグビーであれ、どの競技もスポーツとしての「固有の面白さ」を、それぞれ持っている。だから、これらを比べて、どの競技が本質的に最も面白いとか、最も美しい……などという議論は成立しない。

 しかし、野球という競技の「本質」が、日本人の「国民性」や「文化」等々とが合致していたので、日本では野球の人気が最も出た。あるいは合致していなかったので、日本ではサッカーやラグビーの人気が出なかった……などという、玉木正之氏らが嵌(はま)りがちな議論は間違いである(下記のリッチリンク参照)。

▼大化の改新と蹴鞠(40)~玉木正之説の総括,批判,あるいは超克(2017年10月26日)

 もっとも、日本において、野球が人気随一のスポーツになってしまったことは、近代日本の大衆文化史における最大の不幸であった。

 なぜなら、野球には他の競技にはない問題を抱えているからである。野球は、(サッカーやラグビー,クリケットなどのように)複数の国に本格的なプロリーグがありながら、ナショナルチーム(代表チーム)による国際試合や世界大会(五輪も含める)がオーソライズされていない、世界的にも特異な、ほぼ唯一の「チーム単位で行う球技スポーツ」だからである。

 英国生まれのサッカーやラグビー(またクリケットも)といったスポーツは、19世紀、1870年代このかた、英国(連合王国)、ヨーロッパ、英連邦、中南米などの諸国で国際試合を繰り返してきた。その延長線上に、各種球技のワールドカップ(W杯)の興隆がある。

 先に述べたイタリア(青)やニュージーランド(黒)といったナショナルカラーは、こうした国際試合の歴史の中で定まってきたものだ。[追記]先に掲げた、スポーツにおけるナショナルカラーが定まっている国々はサッカーの国、でなければラグビーの国である(2019年10月3日)。

 ところが、アメリカ合衆国生まれのスポーツ=野球にはこうした歴史も文化もない。

 あまつさえ、アメリカのプロ野球機構のMLB(メジャーリーグベースボール,大リーグ)は、一国のプロリーグにもかかわらず、選手権試合を「ワールドシリーズ」などと名乗っている。その「一国主義」をとる野球の、世界戦略や国際進出などに関する素朴な疑問の数々は別に論じたことはあるが、ひとまずそれは措(お)く。*

 もし、19世紀(日本で言えば明治時代)から、日本vsアメリカ……野球のナショナルチームによる国際試合が、ラグビーのイングランドvsニュージーランド、あるいはクリケットのインドvsイングランド、オーストラリアvsイングランドといったような国際試合のようにオーソライズされ、かつ歴史を積み重ねていれば……。

 ……野球の日本代表の帽子の色が、そのまま「日本のスポーツにおけるナショナルカラー」になっていたかもしれないのである。あるいは、野球の日本代表の愛称が、そのまま各種競技の日本代表のニックネームになっていたかもしれないのである。

 日本で、スポーツにおけるナショナルカラーが定まっていない不幸は野球に由来する。アメリカ野球界の体質が日本のスポーツ文化をまとまりのないものにした(ほとんど逆恨みですな)。

サッカーとラグビーはセカンドカラーでイメージを合わせられる
 ところで、『日刊スポーツ』の荻島弘一編集委員が、2018年サッカー・ロシアW杯の時に「2020年の東京オリンピックに向けてへ〈日本代表〉の愛称とカラーを統一すべきだ」という、大胆な問題提起をしていた。
東京五輪へ「日本代表」の愛称とカラーを統一すべき
 ……同じ色なら、違う競技も応援できる。08年北京五輪前、ハンドボールのアジア最終予選で、ハンドボール協会はサッカー協会から応援グッズを贈られた。同じ「青」だからできたが、他の競技では難しい。20年東京五輪で球技の応援を「はしご」する時は、着替えを持っていく必要がある。

 東京五輪には、サッカーなど8競技で16の日本代表チームが出場する。サッカー女子代表の「なでしこジャパン」以降、愛称を付けるのが流行し、全16チームに愛称がある。そして、チームカラーもバラバラ。ほとんど一体感はない。

 「サッカーとバレーボールで応援する人は違う」ということだろうが、どの競技も応援できれば球技をもっと楽しめる。ブラジルやイタリアのように、共通の愛称とカラーがほしい。競技に関係なく、男子は「さむらいジャパン」で、女子は「なでしこジャパン」。そして、ナショナルカラーは青。統一すれば、もっと「日本代表」に感情移入できると思うのだが。

荻島弘一「OGGIの毎日がW杯」(2018年7月6日)
 このコラムに関するツイッターの反応を見ると、賛否両論いずれもあった。

 荻島編集委員の気持ちも分かる。あるいは、議論を喚起する意味で敢えて書いたのかもしれない……。

 ……が、各日本代表チームの愛称もチームカラーもバラバラで、ほとんど一体感はない理由は、このエントリーで先にくどくど述べた通りである。サッカーも、ラグビーも、バスケットボールも、野球も、それぞれに歴史があり、文化があり、思い入れもある。

 これらを統一するのは、限りなく難しい。特に、チームカラーを「青」で統一しろというのは、サッカー側の傲慢ともとられかねない。無理筋な相談である。

 しかし、サッカーとラグビーに関しては、セカンドカラーである程度イメージを合わせることは可能である。……というか、できればそうしてほしい。**

 ラグビー日本代表のセカンドカラーは、濃いめの青である。サッカー日本代表のファーストカラーとよく似ている(上記の写真参照)。これを夜空に映える満開の桜の花にたとえて「夜桜ジャージ」とか「夜桜ジャパン」と呼ぶ場合がある(2019年ラグビーW杯の日本代表サポーターの中にも,夜桜ジャージを着用している人が散見された)。

 そこで、サッカー日本代表のセカンドカラーを、ラグビー日本代表にファーストカラー「赤と白の横縞」に合わせて「赤と白の縦縞」にする。イメージとしては、イングランドのクラブ「サンダーランドAFC」に近いか。***

▼Qoly「サンダーランド,なんと北朝鮮にファンクラブを設立」(2019/03/05)

 むろん、サッカーファンも抵抗があるかもしれないから、初めは、レプリカ販売用のサードカラーということにしておいて、慣れてきた時に、「赤と白の縦縞」を正規のセカンドカラーにするのである。

 日本のサッカーとラグビーは、今までいろいろあったので、無理に仲良くしろとは言わないが、「薩長同盟」ぐらいには良好な関係を保ち、戦略的パートナシップを築いて事に当たるべきだと考えている(その件は,別に言及するかもしれない)。

 とまれ、ラグビーとサッカー、ふたつのフットボールで、両方とも(それなりに)応援しがいのあるナショナルチーム(代表チーム)を持っている国というのは良いもんですなぁ……。

(了)






【註】
* ▼MLBのロンドン開催が成功しても,野球の「欧州進出」は失敗する…のではないか?(2019年06月23日)

** ブロガーの「サッカー講釈師」さんが、同じような事を述べていたと思うのだが、ソースが見つからない。ご存知の方がいらっしゃいましたら、当ブログに教えてください。

*** 1988年から1991年にかけての、横山謙三監督率いるサッカー日本代表「横山全日本」の時代はユニフォームの色を「赤」にしていた。これがラグビーのように「赤と白の縦縞」だったら、日本のサッカーはどうなっていたか? 初めは「オフト・ジャパン」などと呼ぶと、「ラグビーみたいだから,やめてくれ」という声がサッカーファンから挙がっていただけに……。

【追記】
 
サッカーのニュージーランド代表の愛称が、ラグビーとは正反対の「オールホワイツ」であり、ファーストカラーは白ではないかとの意見をいただきました(セカンドカラーが黒)。

 この場合は、当時、サッカーの審判団がもっぱら黒服を着用しており、選手のユニフォームとして黒(ブラック)を、事実上、着られない時代の影響であろう……と推察されます。

 いずれにせよ、日本とは事情が異なります(2019年10月22日)