まだまだ馴染み薄いサッカー用語「スカッド」
Jスポーツで、サッカーのU-20ワールドカップを見ていると、実況担当のアナウンサーが、さかんに「スカッド」という耳慣れない単語を使っていた。
日本のサッカー界にとって、この「スカッド」が新しい、なじみの薄い言葉であることは、まだ2年前、2017年9月12日付でアップされた、渡辺文重氏の「[J論]サッカーの記事で見かける〈スカッド〉の意味を調べてみた」というコラムの存在からも、分かる(下記ツイッターリンク先参照)。
J論@jron_j[J論] サッカーの記事で見かける「スカッド」の意味を調べてみた https://t.co/I2eOMcL8Vc #jleague
2017/09/12 20:21:03
日本では、サッカーを題材にしたテレビゲーム「ウイニングイレブン」で使われてから、広まったのだろうか。
インターネット検索をすると、もっと詳しい解説が出てくる。
少し紛らわしいのが……「スカッド」〔Squad〕です。『Squad』(英語ではスクウォッド、のように発音される)ですが、これは日本語で言うところの『メンバー』が一番近いと思います。単に『Squad』と言えば、出場機会がほとんどない選手なども含めて、チームに登録されている全選手を指します。だからこそ、アーセナルファンにはおなじみですが、ベンゲル監督は頻繁に「我々には強力なスカッドがある」と口にしたわけですね。したがって「層の厚さ」のことを英語では「厚さ」ではなく「深さ(depth)」というのですが、当然ながら『チームの「depth」』という言い方はされず、『depth of the squad』が正しい言い方となります。山中拓磨「チームとスカッド、英語では微妙に意味が違うって知ってた?」(2019.02.01)
https://premierleaguepub.jp/?p=7000
Jスポーツは、サッカーもラグビーも放送するが、ラグビーも見るサッカーファン、サッカーも見るラグビーファンは、「スカッド」には別の意味で違和感を持ったかもしれない。実は「squad」は、ラグビーでは「スコッド」として、広範に使われていたからだ。
以前から使われているラグビー用語「スコッド」
先述の渡辺文重氏は、ウィキペディア日本語版で「スカッド」を引いたら、軍事用ミサイルの「スカッド」(Scud)が出てきた……などと冗談交じりに書いていたが、ラグビー用語としての「スコッド」は、ウィキペディア日本語版にちゃんと立項されている。
スコッド
スコッド(英語:squad)は、おもにラグビーにおいて国代表などのチームを編成する際に、これに先立って代表に選出される可能性の高い者を選抜して編成する選手集団を指す呼称。選手団、強化選手の集団、強化選手集団、候補選手集団、選手集団、候補選手グループなどとも説明される。また、文脈によっては、候補、補欠、出場登録メンバーを意味する用語とも説明される。代表選手の選出にあたっては、スコッドに選ばれていなかった者が選出される場合もあり、「スコッド外からの選出」などと表現する。ウィキペディア日本語版(2019年5月27日閲覧)
しかし、この「スコッド」は、いつから使われ始めたのだろうか?
あれだけラグビーに思い入れがあったスポーツ総合誌、1980年代の文春ナンバーでは使ってなかったような気がする。同じく、末冨(末富)鞆音(すえとみ・ともね)氏や、佐野克郎(さの・かつお)氏も使っていなかったような気がする。
gazinsai@gazinsai1980年代、日本の #ラグビー ブーム。その盛り上がりを象徴する一冊。文藝春秋『Sports Graphic #Number 』1983年12月別冊「THE #RUGBY 」(12月16日発売)。当時、日本の #サッカー は、ま… https://t.co/ibaGcOWXAL
2019/02/24 22:45:06
さすがに、池口康雄氏や宮原萬壽氏まで古くなると、全く分からない。
「スコッド」を広めたのは中尾亘孝?
記憶する限り、ラグビー論壇で「スコッド」を公に使い始めたのは、1980年代終わりから1990年代初めの頃。これを流行らせ、定着させたのは、インチキラグビー評論家(にして札付きの反サッカー主義者)として知られ、今では肝心なラグビーファンからも全くリスペクトされなくなった中尾亘孝(なかお・のぶたか:1950年生)ではなかったか。
【中尾亘孝】
例えば「大西鐡之祐=おおにし・てつのすけ=は,ラグビー日本代表を率いるにあたって,試合毎に選手を寄せ集めるそれまでのやり方を改めてスコッド方式を採用した」などという言い回しが、1991年刊『15人のハーフバックス』に登場する。
ただし、『15人のハーフバックス』の情報の多くは、ラグビー評論界の重鎮にして良心の小林深緑郎(こばやし・しんろくろう)さんに寄っているので、小林さん辺りではずっと前から使っていたのかもしれない。
余談だが、自身ではほとんど取材せず、小林深緑郎さん、大友信彦さん、永田洋光さん、生島淳さん、藤島大さん、秋山陽一さんなどが取材してきた情報を基に、好き放題に放言してきたのが、中尾亘孝である。
「スカッド」は「スコッド」に統一するべきではないか
もっとも、最近の中尾亘孝は「スコッド」のやめて「スクォッド」などと表記し始めている。正しい発音は、なるほどこれに近い(正しい,ではない)。が、中尾は、ベトナムではなく「ヴィエト・ナム」などと表記するような極端な原語読み主義者である。こういうやり方が些(いささ)かならずウンザリさせられる。それはともかく……。
……テレビゲームのクリエイターや、スポーツ専門チャンネル、若手のサッカージャーナリストあたりが、英語のサッカー論壇の文脈にあった「squad」を「スカッド」として使い出したら、実は既にラグビーで「スコッド」が使われていました……ということなのではなかったかと、勝手に憶測する。
それにしても、サッカーの「スカッド」、ラグビーの「スコッド」と表記が揺れているのは、何とも居心地が悪い。
gazinsai@gazinsai『squad』英;(軍隊の)分隊、(同じ仕事に従事する)隊、団、チーム:以前からある #ラグビー 用語「スコッド」と、最近になって使われだした #サッカー 用語「スカッド」の語源。あるいは表記ゆれの問題。
2019/05/27 21:46:10
squad… https://t.co/6ATI7xlIfL
ラグビーの「スコッド」の方が古く、日本語でも定着しているのだから、サッカーの「スカッド」も「スコッド」に表記を統一するべきではないか……などと、つい考えてしまったのであった。
(了)