タマキの蔵出しコラム「スポーツ編」
 この原稿は、2015(平成27)年に新潮文庫より出版した『彼らの奇蹟 傑作スポーツアンソロジー』に続き、同じく新潮文庫として翌年の2016年(平成28)年10月に出版した『9回裏2死満塁 素晴らしき日本野球』の解説として書いたものです。…これがどんなアンソロジーなのかを知っていただくために、解説の前半部分を(一部省略して)“蔵出し”させていただきます。御一読下さい。
――玉木正之(2019年4月10日)


 この本、新潮文庫『9回裏2死満塁 素晴らしき日本野球』の品質を著しく下げている、最低最悪の部分が編者・玉木正之氏による巻末の「解説」。日本では、なぜ、サッカーよりもラグビーよりも(つまりフットボール系の球技よりも)、野球(ベースボール)の人気が出て、国民的スポーツになったのか……という難問の、玉木氏による疑似科学的回答である。

 日本人は歴史的・文化的にチーム戦(団体戦)が苦手な民族であり、一方、宮本武蔵vs佐々木小次郎のような1対1の勝負を好んできた。だから、サッカーやラグビーのようなチーム戦のスポーツよりも、投手vs打者の1対1の勝負である野球の方が日本人に人気が出たのだ……と、玉木氏はこの本で唱えている。

 玉木正之氏は、ことあるごとにこの説を吹聴している。持説を世間一般に普及させることで、玉木氏の世界観、日本において野球こそが国民的スポーツになったのは歴史的必然性があったからだ……という歴史観に読者に誘導させようという目論見なのである。

 しかし、この玉木説は完璧に間違っている。野球が日本に入ってきた当時のルールは、現在の野球のルールとは大きく異なっており、それによると野球を投手vs打者の1対1の勝負が基本となったゲームとは、とても認められないからだ。例えば、明治初期、日本野球黎明期の選手である正岡子規の「現役時代」は、現在とは違う当時のルールでプレーされていた。

 玉木正之説の批判は、スポーツライター・牛木素吉郎氏(元『読売新聞』運動部,編集委員)や、当ブログからも、公開に近い形で展開され、そのコンテンツは玉木氏にも伝えられている。


 日本の野球界、延いては日本のスポーツ界が、いかにさまざまな深い問題を抱えていようと、間違ったところから批判しても、かえって間違ったことになるだけである。実際、玉木正之氏と親交のあった平尾誠二氏は、玉木氏に影響されたおかげで日本ラグビーに悪い効果を及ぼしている(1995年ラグビーW杯での日本代表の大惨敗など)。

 今からでも遅くないから、新潮社は『9回裏2死満塁 素晴らしき日本野球』を回収、一度絶版し、編者・玉木正之氏による問題部分を削除したうえで、改めて刊行するべきである。

(了)