どうして林信吾は,あんなにもくだらない反プロレス論を書いたんだろう?
 林信吾(はやし・しんご)氏による陳腐な凡庸な反プロレス論「プロレスの味方は、いたしかねます」(上・下)を、悲しい気持ちで読んだ(詳細は以下のリンク先を参照されたい)。



 何が悲しいかというと、林信吾氏の著作をかなり読んできたからである。

浅薄な「〈イギリス礼賛/日本卑下〉論」を一刀両断した林信吾
 林信吾という作家・ジャーナリストを知ったきっかけは、『イギリス・シンドローム~私はいかにして「反・イギリス真理教徒」となったか』(初版1998年2月)その他のイギリス関連の著作である。

イギリス・シンドローム
林 信吾
アドレナライズ
2013-07-18


英国ありのまま
林 信吾
アドレナライズ
2016-12-14


英国101話+α
林 信吾
アドレナライズ
2016-12-14


 これらの本については「Japan In-depth」(ジャパン・インデプス)の林信吾氏のプロフィールには出てこないが、重要な著作である。

林信吾_略歴
【林信吾氏のプロフィール「Japan In-depth」より】

 1990年代、日本に「イギリス礼賛ブーム」とでも呼ぶべき風潮が存在した。

 その担い手は、主に林望氏(国文学者・大学教授・作家)や、マークス寿子氏(英国貴族の元夫人)といった人たちの、おびただしい著作群だった。もっとも、この人たちは日本社会でも上層に位置する人たちであり、その方法はといえば、イギリスでもごく少数の知識階級や上流階級との断片的な体験や交流をもとに「イギリス礼賛論」を展開しては日本の情況を卑下する……というマンネリズムであった。

 一種の「出羽守論法」である。しかし、日本人は一般的にこの種の論調、比較文化論に弱い(いわんや日本のサッカーファンやサッカーマスコミにおいてをや)。

 これらの言説を、林信吾氏は一刀両断。その豊富で酸いも甘いも噛み分けたイギリス滞在経験・取材経験から、林望氏やマークス寿子氏らの事実関係の誤りや論理の破綻。あるいは他国(この場合イギリス.ほかに)を礼賛しては自国(日本)を否定する風潮の社会的・精神的背景などを、ユーモアを交えて指摘・批判してみせたのであった。
 彼の物書きとしての知名度を上げたのが、この『イギリス・シンドローム』である。

 こういった本を書く林信吾氏であるから、ある国に関するイメージ、例えばイギリスは紳士の国、フランスは文化の国などといったステレオタイプ、ある特定の国々を恣意的に極端に好意的にとらえ、日本と比較した浅薄な通俗比較文化論……の類にはかなり慎重な方である。その意味ではバランスの取れた視点の持ち主でもあった。

「サッカー者」としての林信吾
 日本サッカーというジャンルは、この種の、欧米主要国を引き合いに出しては日本を自虐的に語るサッカー比較文化論・サッカー日本人論にさんざん苦しめられいるので、林信吾氏のような作家・ジャーナリストに興味を持ったのである。

 また林信吾氏は、そのイギリス滞在歴などを生かして『ロングパス~サッカー誕生から英国プレミアリーグまで』ほか、サッカー本の佳作も執筆している(まあ『野球型vsサッカー型』みたいな,出来のよくないサッカー本もあるが)。





 サッカーファンでもあるのだ。

「ケーフェイ」や「流血の魔術 最強の演技」に全く劣る反プロレス論
 あらためて。林信吾氏の反プロレス論がなぜ悲しいかというと、彼が手厳しく批判したはずの林望氏やマークス寿子氏の論調とほとんど同様のことをやっているからだ。

 反プロレス的言説のすべてがイケナイとは思わない。例えば、現在の日本のプロレスは、初代タイガーマスク=佐山聡著『ケーフェイ』や、ミスター高橋著『流血の魔術 最強の演技~すべてのプロレスはショーである』といったアンチテーゼを乗り越えたところ成り立っているのではないか、傍から見ていて考えている。

ケーフェイ (NAYUTA BOOKS)
佐山 聡
ナユタ出版会
1985-10


 (本当に余談だが『ケーフェイ』の版元ナユタ出版会社長=故人=には,生前さまざまお世話になりました)

 ところが林信吾氏による「プロレスの味方は、いたしかねます」は、その水準には全く及ばない駄文であり、プロレスに対するアンチテーゼにもならない単なるヘイトであり、やっつけ仕事でしかない。

 やっつけ仕事ということでは、事実誤認の類もかなり多い。プロレスファンを敵に回してしまったこと以上に、当ブログはこの点が大いに気になる。作家・ジャーナリストとしての信頼性にもかかわる。

 これは後々あげつらうかもしれない。

(この項,了)