スポーツライター玉木正之氏の知的誠実さを問う

大化の改新と蹴鞠(けまり)問題など、日本のサッカーカルチャーについてさまざま論じていきたいと思っています。

2018年10月

昔から「幻滅」していたはずの佐山一郎氏
 佐山一郎氏が自身のサッカーライティングの有終と位置付ける『日本サッカー辛航紀~愛と憎しみの100年史』(以下,適宜『辛航紀』とも略す)を執筆した動機は、英国の社会学者(日本研究)ロナルド・ドーアの著作『幻滅~外国人社会学者が見た戦後日本70年』を知ったことだという。佐山氏曰く……。
……同書〔『幻滅』〕は日本社会の変化を綴る章と、それに対する彼〔ドーア〕自身の言動・著述に表れた対応の章を並列させるニュータイプの歴史書だった。たどり直すべき精神の変遷と幻滅(脱・錯覚)があるという点でも、〔佐山氏が〕ウォッチし続けてきた日本サッカーに応用が利く。そんな直感が働いた〔からである〕。

佐山一郎『日本サッカー辛航紀』3頁


 はて? と、佐山一郎氏のサッカーライティングを長年読んできた人たちは思うだろう。佐山氏は、日本サッカーの関して昔から「幻滅」していたのではなかったかと。佐山氏は、未だ「錯覚」の中にあるのではないかと……。

現代日本サッカーを呪縛する宿痾(しゅくあ)としての「蹴鞠」
 ……なぜ、そんなことが言えるのか。『辛航紀』では、日本のサッカーの歴史を「予備考察としての蹴鞠の話から」説き起こすと、著者・佐山一郎氏からの予告があった(宇都宮徹壱氏によるインタビューより.下記リンク先参照)。
 その「蹴鞠」の言及(それは『辛航紀』本文の初っ端でもある)からは、佐山氏にとって宿痾(しゅくあ,不治の持病のこと)のごとき、日本サッカーへの「幻滅」あるいは「錯覚」を読み取ることができるからである。余談だが「宿痾」は佐山氏のサッカーライティングの愛用語のひとつだ。
 蹴鞠〔けまり〕についての原稿を何度か寄稿したことがある。〈日本人のリフティング好きは蹴鞠文化と分かちがたい。冗談抜きにシュートより好きなのではないか〉。そんな疑念が発端だった。

佐山一郎『日本サッカー辛航紀』16頁

サッカーボールで「蹴鞠はじめ」@下鴨神社
【サッカーボールで「蹴鞠はじめ」@下鴨神社】
 日本人はボール回し(パスやリフティング)に興じるあまりシュートを打たない・打てないというのである。「サッカーにおける日本人の〈決定力不足〉」というステレオタイプはここでも強調されている。しかもそれは、日本の前近代「蹴鞠」の伝統文化と分かちがたい……と、佐山一郎氏は言うのだ。

 ことほど左様に、佐山一郎氏は「日本人は,他の国民や民族・人種とは決定的に違う宿痾のごとき文化的〈本質〉を宿しており,それは〈サッカー〉というスポーツとは致命的に相いれない」という強い強い信念の持ち主であった。

 そのアイテムはといえば、皆さま毎度おなじみの「狩猟民族」たる欧米人やアフリカ系黒人に対する「日本人農耕民族説」や、きわめてポピュラーな西洋近代の「個人主義」に対する「日本的集団主義説」(西洋「個人主義」は,サッカーにおける「個の力」に通じる!?)、定番ネタ「赤信号文化論」、佐山氏とはオトモダチである細川周平氏も自著『サッカー狂い』の中で展開した「日本人すり足民族説」、西洋「社会」に対する阿部謹也の日本的「世間」論……など、キリがない。

 佐山氏は、そうしたことを繰り返し繰り返し、飽きることなく日本の読者(サッカーファン)に刷り込んできた。つまり佐山氏は、自虐的なサッカー日本人論の信奉者なのである。

 それこそが佐山氏の宿痾……すなわち「幻滅」であり「錯覚」である。

 そして、城彰二や柳沢敦といった日本代表の「ストライカー」たちは、そうした佐山氏(たち)の「幻滅」や「錯覚」の刷り込みに成就するかのように、W杯の大一番でシュートを外しまくる。

蹴鞠も古式カルチョも近代フットボールの「前史」に過ぎない
 現代日本サッカーは前近代の「蹴鞠」の影響下にあるという佐山一郎氏に対して、サッカージャーナリストの牛木素吉郎氏は「蹴鞠と現代サッカーとはつながりはない」と説く。むろん、牛木氏の方が正しい。

 ちょうど、それは、同じ「カルチョ」と呼び習わしていながら実態は大きく違う、フィレンツェに伝わっているイタリアの古式カルチョ(Calcio storico fiorentino,フィレンツェの歴史的カルチョ)と、現代イタリア・サッカーの関係と同じである。蹴鞠も、古式カルチョも、英国で確立された近代フットボールに対する「前史」であり、半ば奇跡的に現代に伝承されてきたという位置づけにすぎない。

 イタリアの古式カルチョは、殴る蹴る……と非常に暴力的である。だからといって、イタリアのサッカーが殊更(ことさら)に暴力的=ラフプレーという印象は薄い(1982年スペインW杯でマラドーナやジーコに密着マークした「手斧師」と呼ばれたディフェンダーはいたが)。

 ラフプレーの印象が強いサッカー国となると、かなり昔のアルゼンチン、(気を悪くする人がいるかもしれないが)昨今の大韓民国=韓国であろうか。

 むしろ、イタリアのサッカーといえば超守備的戦術にカウンターアタックでゴールを仕留めるスタイル「カテナチオ」である。最近はそのイメージもずいぶん様変わりしたというが、それでも、イタリア・サッカーといえば「カテナチオ」。「カテナチオ」といえばイタリア・サッカーなのである。

「カテナチオ」のルーツ,「決定力不足」のルーツ?
 そのイタリア・サッカーのスタイル「カテナチオ」の起源についても「日本サッカーの〈決定力不足〉は日本伝統の蹴鞠に由来する」式の話が横溢していた。

 例えば、サッカージャーナリストの後藤健生氏は、イタリアにおけるサッカーとは城壁(堅い守備≒カテナチオ)に囲まれた都市国家同士の中世以来の戦争の代替行為であり、カウンターアタックに身を投じるストライカー(アタカンテ)は単身敵陣に乗り込んでいく「騎士」である……という解説を自著『サッカーの世紀』で展開している。それが「カテナチオ」の源流だというのだ。

サッカーの世紀 (文春文庫)
後藤 健生
文藝春秋
2000-07


 むろん、現在の後藤氏は、こんな文化的本質主義(や近代批判主義)のスポーツ観からは半身脱しているはずである。

 一方、「カテナチオ」は、比較的最近になって、もっと切羽詰まった、必要に応じて発生したと唱える人がイタリアのサッカージャーナリストがいた。この話を紹介したのは、日本在住のイタリア人文化人類学者のファビオ・ランベッリ氏である。
……戦後イタリアのもっとも偉大なサッカー・ジャーナリストであるジャンニ・ブレーラ……によると、イタリアン・サッカー独特の技能・カテナッチョ(守備固め、文字通りには「ドアの掛け金」)は、劣性の意識から始まったものだった。〔一九〕五〇~六〇年代には、ブレーラが言うようにイタリア人選手は栄養の少ない食事をとり、背が低く、北欧や南米のチャンピオン・チームの試合では、身体的にも技術的にも劣位であった。この劣勢を乗り越えるために、カテナッチョという方法が工夫されたのである。

ファビオ・ランベッリ『イタリア的』222~223頁

 「カテナチオ」がサッカーにおけるイタリア人の劣等感から始まったというのは、実に意外であり、興味深い話でもある。イタリアのサッカーライティングは、自国のサッカーを論じるのに、日本のように日本人論や日本文化論、すなわち文化的本質主義に陥(おちい)ることはない。

 日本も、イタリアも、○○人であることのアイデンティティーがサッカーにとっては劣勢と認識している。この意味では、実は両者とも変わりがなかった。

 しかし、片や、面白くないだの、勝利至上主義だと言われながら(かつて「勝利至上主義」とは,ドイツではなく,イタリアへの罵倒であった)、「カテナチオ」というスタイルで世界に君臨したイタリア・サッカー。

 こなた、自分たちは骨の髄から「決定力不足」であると呪縛し続ける日本のサッカー。

 この差は大きい。その彼我の差は両国のサッカーライティングの質の差でもある。その中核に佐山一郎氏は位置していたのだ。

 とにかく、佐山一郎氏のサッカーライティングは、あまり本気にしないで読む(笑)ことが肝要である。

(了)



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暴露された「背番号10はアディダスの選手」
 『朝日新聞』電子版2018年5月11日付の署名記事(吉田純哉記者)が、サッカー日本代表のエースナンバー背番号10は、日本代表のスポンサー兼サプライヤーであるスポーツ用品メーカー=アディダスジャパン株式会社の契約選手であることが「暗黙の了解」として決まっている……と報じた(下記引用部リンク先参照)。名波浩選手、中村俊輔選手……、当代においては香川真司選手である。
背番号10はアディダスの選手 日本代表「暗黙の了解」
吉田純哉 2018年5月11日16時18分[リンク先

朝日新聞2018年5月11日電子版より
【『朝日新聞』電子版2018年5月11日の該当記事から】
 この記事には「09年にはアディダス〔アディダスジャパン〕がユニホームの売り上げを伸ばすために、人気選手の背番号をできるだけ変えないで欲しいと日本協会〔公益財団法人日本サッカー協会=JFA〕に要望を出したこともあった」とまである。

 日本代表の背番号10はアディダスの選手……。この話は、あくまで「噂」としてネットで語られていったものだった。それが電子版とはいえ、オールドメディアの代表であり、しかも、企業としてはアディダスジャパンと同じくサッカー日本代表のスポンサーである『朝日新聞』がこのことをハッキリ書いたことは、サッカーファンを驚かせた。

ハリル解任はスポンサーからの圧力説は「ある意味」正しい?
 高い契約金を出しているのだから、スポンサーが契約している選手にスポンサーが望む背番号をつけるのは当然ではないか……という声もある。しかし、よくよく考えてみると、この慣行は、W杯のような主要な試合や大会では、該当する選手を選び、起用してもらわなければ困る……という意思を半ば表明しているようなものだ。非常によろしくない。

 時の日本代表監督ヴァイド・ハリルホジッチ氏(ハリル氏)が「謎の解任」をされたのも、こうしたスポンサー(や大手広告代理連=電通)の意向を無視して特定の選手(本田圭佑選手やアディダスジャパン契約の香川真司選手)を、2018年ロシアW杯日本代表の選考から外しかねないことを懸念されたからだという噂がある。真偽は不明だが、ハリル氏を更迭した田嶋幸三JFA会長氏の胸中に、スポンサー筋への忖度(そんたく)がなかったと断言することは難しい。

 ロシアW杯では、ドイツ代表選出が確実視されていたレロイ・サネ選手が、まさかの落選。日本には『スポーツニッポン』電子版6月4日付でサネ選手のポスターが剥(は)がされる写真が掲載され、日本のサッカーファンを驚かせた。
サネ_ドイツ代表落選
【ポスターが剥がされるレロイ・サネ選手】

 ひるがえって日本。日本代表のスポンサーである日本航空(JAL)とアディダスジャパンがコラボレーションで、機体に香川真司選手のラッピング塗装がなされたJALの旅客機が登場している。
香川真司_アディダスジャパン_日本航空
【香川真司選手とアディダス,JALのコラボ機】

 これでは香川選手が選ばれて当然、選ばれなければならないということになる。彼には何の問題はないはずなのだが、あまりに対照的なサネ選手と香川選手のビジュアル。ドイツと日本で彼我の差を感じてしまう。

日本代表の背番号を五十音順で付ける試み
 こうした悪弊を克服するために、ひとつの方法がある。かつてのアルゼンチン代表やオランダ代表は、主要大会ではアルファベット順(ローマ文字)に背番号をつける習慣があった。こうやって機械的に背番号を割り振るようにすれば、特定のスポンサーが特定の選手に特定の背番号を付けさせることによって生じる問題を減らすことができる。

 日本ともなじみの深い、アルゼンチンのオズワルド・アルディレス(Osvaldo Ardiles)選手は、そのため「背番号1」をつけた珍しいフィールドプレーヤーとして有名であった。サッカーで背番号と言えば、通常、コールキーパー(GK)の背番号である。
背番号1のアルゼンチン代表アルディレス選手
【背番号1のアルゼンチン代表アルディレス選手】

 とどのつまりは、2018年ロシアW杯の日本代表メンバーの背番号を日本語の五十音順(アイウエオ順)で付け直すという試みである。いわば「アルゼンチン方式」だ。

大迫半端ある,アイツ半端あるって…?
 まず最初に、本来の2018年ロシアW杯日本代表メンバーを表で示し、あわせて第1戦日本vsコロンビア戦の先発メンバーをフォーメーションを示す。フォーメーションはロシアW杯のテレビ国際放送を参照した(以下,同じとする)。

A.2018ロシアW杯日本代表
背番号 選手名 Pos. 所属クラブ 読み
1 川島永嗣 GK メス かわしま えいじ
2 植田直通 DF 鹿島アントラーズ うえだ なおみち
3 昌子源 DF 鹿島アントラーズ しょうじ げん
4 本田圭佑 MF バチューカ ほんだ けいすけ
5 長友佑都 DF ガラタサライ ながとも ゆうと
6 遠藤航 DF 浦和レッズ えんどう わたる
7 柴崎岳 MF ヘタフェ しばさき がく
8 原口元気 MF デュッセルドルフ はらぐち げんき
9 岡崎慎司 FW レスター おかざき しんじ
10 香川真司 MF ドルトムント かがわ しんじ
11 宇佐美貴史 MF デュッセルドルフ うさみ たかし
12 東口順昭 GK ガンバ大阪 ひがしぐち まさあき
13 武藤嘉紀 FW マインツ むとう よしのり
14 乾貴士 MF エイバル いぬい たかし
15 大迫勇也 FW ブレーメン おおさこ ゆうや
16 山口蛍 MF セレッソ大阪 やまぐち ほたる
17 長谷部誠 MF フランクフルト はせべ まこと
18 大島僚太 MF 川崎フロンターレ おおしま りょうた
19 酒井宏樹 DF マルセイユ さかい ひろき
20 槙野智章 DF 浦和レッズ まきの ともあき
21 酒井高徳 DF ハンブルガーSV さかい ごうとく
22 吉田麻也 DF サウサンプトン よしだ まや
23 中村航輔 GK 柏レイソル なかむら こうすけ



 これを五十音順で並べ直すと、以下のようになる。

B.【五十音順】2018ロシアW杯日本代表
背番号 選手名 Pos. 所属クラブ 読み
1 乾貴士 MF エイバル いぬい たかし
2 植田直通 DF 鹿島アントラーズ うえだ なおみち
3 宇佐美貴史 MF デュッセルドルフ うさみ たかし
4 遠藤航 DF 浦和レッズ えんどう わたる
5 大迫勇也 FW ブレーメン おおさこ ゆうや
6 大島僚太 MF 川崎フロンターレ おおしま りょうた
7 岡崎慎司 FW レスター おかざき しんじ
8 香川真司 MF ドルトムント かがわ しんじ
9 川島永嗣 GK メス かわしま えいじ
10 酒井高徳 DF ハンブルガーSV さかい ごうとく
11 酒井宏樹 DF マルセイユ さかい ひろき
12 柴崎岳 MF ヘタフェ しばさき がく
13 昌子源 DF 鹿島アントラーズ しょうじ げん
14 長友佑都 DF ガラタサライ ながとも ゆうと
15 中村航輔 GK 柏レイソル なかむら こうすけ
16 長谷部誠 MF フランクフルト はせべ まこと
17 原口元気 MF デュッセルドルフ はらぐち げんき
18 東口順昭 GK ガンバ大阪 ひがしぐち まさあき
19 本田圭佑 MF バチューカ ほんだ けいすけ
20 槙野智章 DF 浦和レッズ まきの ともあき
21 武藤嘉紀 FW マインツ むとう よしのり
22 山口蛍 MF セレッソ大阪 やまぐち ほたる
23 吉田麻也 DF サウサンプトン よしだ まや

 これで見ると、背番号1の乾貴士選手が「和製アルディレス」になってしまう。国際的な前例はあるとしても、何か違和感がある。また、岡崎慎司選手7番、香川真司選手8番はいいとして、GK川島永嗣選手9番、そしてコロンビア戦で決勝ゴールをあげた大迫勇也選手が5番……? 「半端ない」はずの大迫選手が、実に半端な数字を背負っている。とても違和感がある。

餅は餅屋,ゴールキーパーは背番号1
 そこで一計を案じた。本来のロシアW杯日本代表の背番号である1番、12番、23番を、五十音順の背番号割り振りでもGK専用の番号として、GKの枠の中で背番号を五十音順に付ける。すなわち背番号1は川島永嗣選手、12は中村航輔選手、23は東口順昭選手である。それ以外の数字をフィールドプレーヤーの選手で五十音順で付けていく。すると以下のような表と、フォーメーション(日本vsコロンビア戦)になる。

C.【五十音順(修正)】2018ロシアW杯日本代表
背番号 選手名 Pos. 所属クラブ 読み
1 川島永嗣 GK メス かわしま えいじ
2 乾貴士 MF エイバル いぬい たかし
3 植田直通 DF 鹿島アントラーズ うえだ なおみち
4 宇佐美貴史 MF デュッセルドルフ うさみ たかし
5 遠藤航 DF 浦和レッズ えんどう わたる
6 大迫勇也 FW ブレーメン おおさこ ゆうや
7 大島僚太 MF 川崎フロンターレ おおしま りょうた
8 岡崎慎司 FW レスター おかざき しんじ
9 香川真司 MF ドルトムント かがわ しんじ
10 酒井高徳 DF ハンブルガーSV さかい ごうとく
11 酒井宏樹 DF マルセイユ さかい ひろき
12 中村航輔 GK 柏レイソル なかむら こうすけ
13 柴崎岳 MF ヘタフェ しばさき がく
14 昌子源 DF 鹿島アントラーズ しょうじ げん
15 長友佑都 DF ガラタサライ ながとも ゆうと
16 長谷部誠 MF フランクフルト はせべ まこと
17 原口元気 MF デュッセルドルフ はらぐち げんき
18 本田圭佑 MF バチューカ ほんだ けいすけ
19 槙野智章 DF 浦和レッズ まきの ともあき
20 武藤嘉紀 FW マインツ むとう よしのり
21 山口蛍 MF セレッソ大阪 やまぐち ほたる
22 吉田麻也 DF サウサンプトン よしだ まや
23 東口順昭 GK ガンバ大阪 ひがしぐち まさあき


 これでも乾選手は2番となり、大迫選手は6番になる。やはり違和感がある。また、10番が酒井高徳、11番酒井宏樹の両酒井選手はディフェンダー(DF)であり、これらの番号を背負うのは、どうしても違和を感じるという人は多いであろう。

 ちなみに、何かと話題の本田圭佑選手は18番である。日本の感覚では「歌舞伎十八番」であるとか(十八番とかいて「おはこ」とも読む)、日本プロ野球(NPB)では投手のエースナンバーであるとか、とても印象のいい番号である。

日本代表の背番号をイロハ順で付ける試み
 五十音順は現在の日本人の生活に馴染みすぎていて、頭文字を見れば、どの選手が若い番号に来るか、大きい番号に来るか、だいたい読めてしまうという問題がある。ここで少し目先を変えてみる。今度は日本代表の背番号をイロハ順(いろは歌の順番)で付けてみるのである。
いろは歌
いろはにほへと ちりぬるを
わかよたれそ  つねならむ
うゐのおくやま けふこえて
あさきゆめみし ゑひもせす

いろは歌

 その昔、1987年当時、玉木正之氏がまだ現場でちゃんと取材するスポーツライターだったころ(爆)、閑古鳥が鳴くこと有名だったロッテ・オリオンズ(当時)の本拠地・川崎球場(現・富士通スタジアム川崎)を取材に行った。その時、彼は川崎球場の座席が「イロハ順」で付けられていることに気が付いた。玉木氏はあまりも古臭さに嘆息したという。この話は、玉木氏の作品「牛島物語-川崎ノスタルジア」(所収『プロ野球の友』新潮文庫)に登場する。

プロ野球の友 (新潮文庫)
玉木 正之
新潮社
1988-03


 しかし、これを読んだ野球ファンで有名だった文学者の故丸谷才一が「イロハ順が古臭いとは何だ! 〈いろは歌〉は誇るべき日本の伝統文化,文学ではないか!」とった感じで玉木氏を批判した。玉木氏はひたすら恐縮した。むろん、丸谷才一の批判が正しい。
 余談だが、蓮實重彦(草野進)は「第一級の知識人のプロ野球ファンではない」のだろうか?

 閑話休題。戦前の日本プロ野球、草創期の阪神タイガースは選手の背番号をイロハ順で付けていた(下記リンク先参照)。
 景浦勝6番、藤村富美男10番(永久欠番)といった有名な選手と背番号の組み合わせは、イロハ順で付けられた結果だったのである。この例に倣って、エクセルを少しいじって2018年ロシアW杯日本代表の選手の背番号をイロハ順で付け直してみた。

D.【イロハ順】2018ロシアW杯日本代表
背番号 選手名 Pos. 所属クラブ 読み
1 川島永嗣 GK メス かわしま えいじ
2 乾貴士 MF エイバル いぬい たかし
3 原口元気 MF デュッセルドルフ はらぐち げんき
4 長谷部誠 MF フランクフルト はせべ まこと
5 本田圭佑 MF バチューカ ほんだ けいすけ
6 香川真司 MF ドルトムント かがわ しんじ
7 吉田麻也 DF サウサンプトン よしだ まや
8 長友佑都 DF ガラタサライ ながとも ゆうと
9 武藤嘉紀 FW マインツ むとう よしのり
10 植田直通 DF 鹿島アントラーズ うえだ なおみち
11 宇佐美貴史 MF デュッセルドルフ うさみ たかし
13 岡崎慎司 FW レスター おかざき しんじ
14 大迫勇也 FW ブレーメン おおさこ ゆうや
15 大島僚太 MF 川崎フロンターレ おおしま りょうた
16 山口蛍 MF セレッソ大阪 やまぐち ほたる
17 槙野智章 DF 浦和レッズ まきの ともあき
18 遠藤航 DF 浦和レッズ えんどう わたる
19 酒井高徳 DF ハンブルガーSV さかい ごうとく
20 酒井宏樹 DF マルセイユ さかい ひろき
21 柴崎岳 MF ヘタフェ しばさき がく
22 昌子源 DF 鹿島アントラーズ しょうじ げん
23 東口順昭 GK ガンバ大阪 ひがしぐち まさあき


 第二次大戦後、イロハ順が日本人の生活から遠ざかったこともあり、こちらの方が背番号をランダムに散らしている感じはする。もっとも、ここでも乾選手はフィールドプレーヤーの1番手になってしまうのである(背番号2)。大迫選手は14番で「半端ない」番号にはなったが、今度は原口元気選手が背番号3番。半端感があり、違和感があるのである。

五十音順・イロハ順の背番号を「フランス方式」で修正する
 これまで試みてきた背番号の割り振りに、何度か「違和感」という言葉を使ってきた。要は、サッカーの背番号が固定背番号制になって定着しているのに、かつての試合毎にポジションに応じて背番号を割り振るピラミッドシステムやWMシステム時代の背番号とポジションのイメージに、私たちが引きずられているからである。

 私たちは、サッカーにおいては守備的な選手はGKの背番号1から若い番号、以降、背番号11まで攻撃的な選手になるほど大きい番号になるという観念が刷り込まれている。こうした観念と、五十音順やイロハ順で背番号を付けることと、2つをどうすり合わせるべきなのか? ひとつ妙案がある。

 1986年メキシコW杯のフランス代表で実践されていたので、便宜的に「フランス方式」と呼ぶ(他の大会は確認していない)。この度の日本代表で言えば、1番、22番、23番をGK、2番~9番はDF、10番~18番をミッドフィルダー(MF)、19番~21番をフォワード(FW)とする。その中で選手の背番号を五十音順かイロハ順で割り振るのである。

 メキシコW杯のフランス代表の登録メンバーを見ると、ここでもアルファベット順による背番号を多少は意識しているようである。しかし、アルゼンチン方式にせよ、フランス方式にせよ、ディエゴ・マラドーナやミシェル・プラティニといったワールドクラスの選手は特別に「背番号10」を与えられている。もっとも、現状、日本にはマラドーナもプラティニもいないわけだし、気にしなくていい。むろん、中田英寿という選手は過大評価の最たるものである。

 前説が終わったところで、あらためてフランス方式とアルゼンチン方式の合わせ技によるロシアW杯日本代表、日本vsコロンビア戦のスタメンとフォーメーションである。まずは五十音順から。

E.【ポジション別による五十音順】2018ロシアW杯日本代表
背番号 選手名 Pos. 所属クラブ 読み
1 川島永嗣 GK メス かわしま えいじ
2 植田直通 DF 鹿島アントラーズ うえだ なおみち
3 遠藤航 DF 浦和レッズ えんどう わたる
4 酒井高徳 DF ハンブルガーSV さかい ごうとく
5 酒井宏樹 DF マルセイユ さかい ひろき
6 昌子源 DF 鹿島アントラーズ しょうじ げん
7 長友佑都 DF ガラタサライ ながとも ゆうと
8 槙野智章 DF 浦和レッズ まきの ともあき
9 吉田麻也 DF サウサンプトン よしだ まや
10 乾貴士 MF エイバル いぬい たかし
11 宇佐美貴史 MF デュッセルドルフ うさみ たかし
12 大島僚太 MF 川崎フロンターレ おおしま りょうた
13 香川真司 MF ドルトムント かがわ しんじ
14 柴崎岳 MF ヘタフェ しばさき がく
15 長谷部誠 MF フランクフルト はせべ まこと
16 原口元気 MF デュッセルドルフ はらぐち げんき
17 本田圭佑 MF バチューカ ほんだ けいすけ
18 山口蛍 MF セレッソ大阪 やまぐち ほたる
19 大迫勇也 FW ブレーメン おおさこ ゆうや
20 岡崎慎司 FW レスター おかざき しんじ
21 武藤嘉紀 FW マインツ むとう よしのり
22 中村航輔 GK 柏レイソル なかむら こうすけ
23 東口順昭 GK ガンバ大阪 ひがしぐち まさあき


 これだと、背番号とポジションと選手のイメージの結びつきのギャップはかなり減る。乾選手が10番、香川選手が13番(ゲルト・ミュラーと同じ)、柴崎選手が14番(ヨハン・クライフと同じ)、原口選手が16番、大迫選手19番。ただし、センターバックの吉田麻也選手の9番(釜本邦茂と同じ!)には違和感があるが、逆に言えば完璧な方法など存在しないということである。この度の日本代表はFW登録の選手が3人しかいなかった(フォーメーション図の吉田麻也選手の背番号に誤りがあります.ご容赦ください)。

 続いて、同じくイロハ順である。

F.【ポジション別によるイロハ順】2018ロシアW杯日本代表
背番号 選手名 Pos. 所属クラブ 読み
1 川島永嗣 GK メス かわしま えいじ
2 吉田麻也 DF サウサンプトン よしだ まや
3 長友佑都 DF ガラタサライ ながとも ゆうと
4 植田直通 DF 鹿島アントラーズ うえだ なおみち
5 槙野智章 DF 浦和レッズ まきの ともあき
6 遠藤航 DF 浦和レッズ えんどう わたる
7 酒井高徳 DF ハンブルガーSV さかい ごうとく
8 酒井宏樹 DF マルセイユ さかい ひろき
9 昌子源 DF 鹿島アントラーズ しょうじ げん
10 乾貴士 MF エイバル いぬい たかし
11 原口元気 MF デュッセルドルフ はらぐち げんき
12 長谷部誠 MF フランクフルト はせべ まこと
13 本田圭佑 MF バチューカ ほんだ けいすけ
14 香川真司 MF ドルトムント かがわ しんじ
15 宇佐美貴史 MF デュッセルドルフ うさみ たかし
16 大島僚太 MF 川崎フロンターレ おおしま りょうた
17 山口蛍 MF セレッソ大阪 やまぐち ほたる
18 柴崎岳 MF ヘタフェ しばさき がく
19 武藤嘉紀 FW マインツ むとう よしのり
20 岡崎慎司 FW レスター おかざき しんじ
21 大迫勇也 FW ブレーメン おおさこ ゆうや
22 中村航輔 GK 柏レイソル なかむら こうすけ
23 東口順昭 GK ガンバ大阪 ひがしぐち まさあき


 ここでも乾選手は10番、原口選手が11番、柴崎選手は日本代表の「おはこ」で18番、半端ない大迫選手は21番。先発メンバーではないが、本田圭佑選手は欧米人が忌避するという13番。悪くないような気がする。

 拝啓 アディダスジャパン様。香川真司選手はヨハン・クライフと同じ背番号14じゃいけませんか? 敬具(おっと,クライフはプーマの契約選手だったが……)

 繰り返すが、日本代表と契約するスポーツ用品メーカーの要請で特定の背番号を付けるという、現在の慣行はさまざまな弊害があるので止めるべきである。では、そうしたらいいのかというと、ここで示したような、アルゼンチン方式+フランス方式による五十音順かイロハ順がより良い方法ではないかと思う。個人的にはイロハ順を推したい。

 JFAはアディダスジャパンと手を切るべきである。デザインは愚劣だし、選手の選考には事実上口出ししている。契約が切れるときには、ぜひとも一考願いたい。

Mbappeが日本代表だったら背番号は何番?
 さて、コンビニエンスストアや飲食店で働いている人を見ていると、いよいよ日本も移民社会に入っている気がする。将来、サッカー日本代表でアフリカに縁のあるワールドクラスの選手が出てきたとして、仮にその名前(ファミリーネーム)を「Mbappe」としよう。彼は何と表記されるのか? エムパペ、ムバペ、ンバペ、エンバペ、ムバッペ……? 少なくとも欧米式のように頭に「エ」を付けるのは、ポストコロニアルの世界のあり方としては止めるべきである。

 そして、背番号は? 特別扱いで10番は与えないものとして、五十音順かイロハ順ではどんな背番号になるのか? ……などと、妄想に耽るのは面白い。

(了)




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