スポーツライター玉木正之氏の知的誠実さを問う

日本のサッカーカルチャーについてさまざま論じていきたいと思っています。

玉木正之はデタラメである。セルジオ越後のサッカー評論はパワハラである。
中田英寿はワールドクラスではない。大谷翔平の二刀流は珍記録にすぎない。
本田圭佑は二代目中田英寿である。天皇杯は元日決勝を卒業するべきである。
今福龍太や細川周平の現代思想系サッカー批評は贔屓の引き倒しでしかない。etc.

 むろん森喜朗の女性蔑視発言は言語道断なのだが、それを得意気に批判する玉木正之氏もおかしい。
2021年2月5日(金)
 小生〔玉木正之〕は5年以上前からスポーツと体育の区別もできない人物〔森喜朗〕が五輪のトップにいてはイケナイと言ってきましたけどあと半年に迫った今になって世界から非難される発言とは困ったことです。

玉木正之「ナンヤラカンヤラ」(2021年2月いっぱい)http://www.tamakimasayuki.com/nanyara.shtml

玉木正之「ナンヤラカンヤラ」2021年2月(同年3月以降)http://www.tamakimasayuki.com/nanyara/bn_2102.htm
 そう言う玉木正之氏は「スポーツ」と「遊び」の区別がついていないのではないか。

 つねづね玉木正之氏は「スポーツ」は「遊び」だと唱えてきた。スポーツ(sport)の原義が「遊び」なのだからだと言う。さらにその元祖は、玉木氏が崇拝し、師と仰ぐ虫明亜呂無氏(評論家・作家,故人)である。
 スポーツは遊びである。遊びであるから贅沢〔ぜいたく〕である。それは歌舞音曲や、おいしい料理や、男女の交情と同じように人生の飾りであり、一期〔いちご〕の夢なのである。こうした精神は、もともと京阪神を中心にした上方生活に根づいて長い伝統の試練にかけられ、開花し実を結んでいった。

虫明亜呂無「咲くやこの花」@『時さえ忘れて』(新潮文庫『彼らの奇蹟』345頁)


時さえ忘れて (ちくま文庫)
虫明 亜呂無
筑摩書房
1996-06T


 玉木正之氏は京都市(上方)の出身の出身だから、こんな風に虫明亜呂無に褒められて嬉しくてたまらないのだろう。

 同じく「スポーツ(ラグビー)は遊びだ」とつねづね唱えていたのが、ラグビー日本代表にして、玉木正之氏と同じく京都市出身の平尾誠二氏(故人,伏見工業高校~同志社大学~神戸製鋼)である。

 玉木正之氏と平尾誠二氏、同じ思想の持ち主同士、同じ京都人同士で意気投合。

 スポーツとは遊びである。日本でスポーツという遊びの文化を本当の意味で理解できるのは洗練された「遊び」の文化を持つ上方=京阪神である。

 京都人で、京都の同志社大学、神戸の神戸製鋼でプレーした平尾誠二氏だからこそ、抑圧的な日本のスポーツの現状にあって(掃き溜めの鶴のように)素晴らしいラグビー文化、スポーツ文化が開花させたのである……と玉木正之氏は煽ったのだった。

 しかし……。だからこそ平尾誠二氏は日本ラグビーを奈落の底に導いてしまったのである。日本代表(ジャパン)が大惨敗した1995年ラグビーW杯南アフリカ大会、ジャパンの選手兼「事実上の監督」として大会前に復帰した平尾選手の責任は免れない。

 この大会、対ニュージーランド(オールブラックス)戦におけるジャパンの失点が145! 国際試合でも100失点というのはたまにあるが、前後半80分の間にさらに45失点を重ねるのは史上空前にして絶後の世界的な恥辱。開催都市の名を冠して「ブルームフォンティーンの惨劇」と俗称される。

ブルームフォンティーンの惨劇
【ブルームフォンティーンの惨劇】

 あえてサッカーに例えれば、ワールドカップ本大会の1次リーグでブラジルかドイツ相手に前後半90分で22~23失点するようなものだろうか。W杯でサッカー日本代表がこんな試合をしてしまったら、日本国内のサッカー人気は致命的に落ち込むはずだ。

 日本ラグビーでは実際にそういうことが起きて、ひょっとしたら2度と立ち直れないかのようなダメージを負ったのである。

 とにかく、こんな大惨敗はよほどチームの内情がおかしくならないと実現しない。この時のジャパンは、監督(小薮修氏)は無能であり、チームとしては機能不全に陥り、選手たちのモラルは低下して……という状態にあった。二日酔いで嘔吐しながら練習している選手(神戸製鋼の増保輝則選手)がいた。

 「事実上の監督」である平尾誠二氏の本来の役割は、こうした危機的状況にブレーキをかけ、チームを再び戦う集団へと生まれ変わらせることだ。しかし、弛緩しきったチーム内の空気を粛正せずに、平尾氏は南アでの現場では練習もそこそこに、かえって他の選手たちとカジノにゴルフで遊び呆けていた。

 要するにジャパンの選手たちは南アW杯で「遊んでいた」のだ。日本代表の練習はチンタラしていた。しかし、日本と対戦したウェールズやアイルランドの練習では、選手たちは眦(まなじり)をつり上げ、血相を変えて練習に取り組んでいた……と、現地を取材したラグビーライターは記している。

 ジャパンは、そのウェールズ、アイルランドに50失点以上の惨敗。その挙句の果てが対オールブラックス戦の145失点の大大大惨敗だったのである。

 なぜこの時、平尾選手はジャパンに手を下さなかったのか? 彼の「監督」責任もさることながら、日本代表としてラガーマンとして当事者感覚を欠いていた彼の発言、行動、体質、性格、立ち居振る舞いも、惨敗を招来した一因だとしてラグビージャーナリズムからは厳しく批判されている。

 「ラグビーを楽しむ(それで勝つ)」……平尾選手のこの思想は、W杯のような世界大会には適用されないのだろうか? もうひとつ平尾選手は「世界に通用するラグビー」を掲げていたはずだ。しかし、それらのお題目は結局のところ日本国内向けのエエカッコシイにすぎなかったのだろうか?

 中尾亘孝という癖の強いラグビー評論家は、平尾誠二氏のラグビー人生を「ラグビーの本場のカッコイイところは真似したが,ついに本場に勝とうとは思わなかった」「自分より弱い者には勝てても,強い者には勝てない」と酷評している。<1>

 この大惨敗「ブルームフォンティーンの惨劇」は、要するにスポーツを「遊び」と考えた平尾誠二氏の惨敗でもあったのだ。

 一方の玉木正之氏はどうか。『平尾誠二 八年の闘い~神戸製鋼ラグビー部の奇蹟』は、スポーツライター玉木氏がラガーマン平尾誠二選手と同じ京都人として共感共鳴、平尾選手の実践するラグビーに日本スポーツ界の「地上の楽園を見た!」と言わんばかりに狂喜し、喧伝している本である。

 しかし、あまりに盲目的に平尾誠二氏を礼賛するあまり、現実が見えなくなってしまったようだ。

 『平尾誠二 八年の闘い』の「あとがき」の日付は1995年9月(奥付は同年11月)である。南アW杯でのジャパン大惨敗、ブルームフォンティーンの惨劇からまだ4か月。日本ラグビー界が茫然自失としていた時期にもかかわらず、「あとがき」ではその点にはまったく触れていない。なおかつ(南アの「戦犯」である)平尾選手をただただ称揚している。

 日本ラグビー界が負ったダメージに対してまったく危機感のない著者・玉木氏の鈍感さには唖然とさせられる。

 スポーツは「遊び」だから国際舞台での勝ち負けなんかはどうでもいい。地域に密着したスポーツクラブで、明るく楽しくラグビーをしていればいい……などと、玉木正之氏は考えているのだろうか。

 それは間違いである。

 このことは1995年から20年にわたる日本ラグビーの低迷が証明している。そしてキツイ練習に耐え、結果、大いなる喜びを私たちにもたらした2015年ラグビー日本代表「エディー・ジャパン」や2019年ラグビー日本代表「JJジャパン」が証明している。
 遊びではない競技の場だから人間の本質を知るものが育ち、やがて社会に散らばる。スポーツを深く知る詩人が、経済人が、それこそ文部省の役人だって誕生するはずなのである。

藤島大「浅薄な環境に溺れぬ、真に知的なアスリートを。」(Sports Graphic Number 514号/2001年1月25日号)
 スポーツライター、ラグビーライターの藤島大氏はこう述べている。藤島大氏も遠回しに玉木正之氏のスタンスを揶揄していた人物の一人だ。

 スポーツの原義が「遊び」だからといって、今ある「スポーツ」は単なる遊びに留(とど)まらない性格を孕(はら)んでいる。

 そういえば玉木正之氏はクラシック音楽やオペラの評論も書く人だった。

 そんな玉木氏を揶揄して「歌うのが好きなだけで(遊んでいるだけで)一流になったオペラ歌手が,いったい世界のどこにいるのか?」と語っていたのが、同じくアンチ玉木のスポーツライター・武田薫氏だった。

 すなわち、スポーツは「遊び」ではない。そんな寝ぼけた思想を今なお唱える玉木正之氏が森喜朗のことを批判する筋合いなど全く無いのである。

(了)




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 スポーツライター……おっと、最近はスポーツ文化評論家と名乗っているのか。しかし、玉木正之氏の言うことは、たいていデタラメである。
2021年1月4日(月)
 ……午前中にアメリカのスポーツとヨーロッパの球戯〔球技〕の違い(ゲーム中に休みが多い=人間ドラマを楽しむのがアメリカの型の球戯〔球技〕で純粋にスポーツを楽しむのがヨーロッパ型の球戯〔球技〕)をまとめ直して(だから星飛雄馬の目が燃えたりするのですね)……<1>

玉木正之の「ナンヤラカンヤラ」2021年1月http://www.tamakimasayuki.com/nanyara/bn_2101.htm


玉木正之「ナンヤラカンヤラ」2021年1月4日
【玉木正之「ナンヤラカンヤラ」2021年1月4日(月)】
 ま~た、懲りもせずにこんなデタラメを書いているのね、玉木正之氏は!

 >アメリカ型の球技=ゲーム中に休みが多い=純粋にスポーツを楽しむヨーロッパ型球技とは違って演劇のように「人間ドラマ」を楽しむ……。 by 玉木正之

 この珍説の元祖は、玉木正之氏が深く崇拝する虫明亜呂無(故人)の「芝生の上のレモン」(ちくま文庫『時さえ忘れて』所収)である。
 アメリカ〔合衆国〕ではサッカーも、ラグビーもさかんではない。

 さかんなのは、アメリカン・フットボール、野球、そしてゴルフ。

 いずれもゲームの合間合間に時間を必要とするスポーツである。合間はスポーツをスポーツとしてたのしませるよりも、むしろ、ドラマとしてたのしませる傾向に人を持ってゆく。合間の、間のとりかたに、選手はいろんなことを考える。彼の日常の倫理がすべて投入される。間をいれることで、ゲームはクライマックスにちかづいていく。観客はそれをたのしむ。実際、無造作にポン、ポン、ポンと投手が投げて、打者がバッティング・マシンのように、そのボールを打ちかえしていたのでは、およそ、つまらない野球になってしまうであろう。

 反面、間の取りかたに、不必要な思いいれが入ってくる余地をのこしている。プロのように、見せることが第一条件のスポーツでは、その傾向が特に強調される。スポーツとしての要素よりも、芝居としての要素がどうしても強く要望されるわけである。

 野球やアメリカン・フットボールは芝居の伝統のない国〔アメリカ合衆国〕が作った。土や芝居のうえの、脚本も背景も、ストーリーも必要としない単純な芝居ではないだろうか。演劇の文化的基盤のない国〔アメリカ合衆国〕、それがプロ野球を楽しむ。スポーツとしてではなく、ドラマとしての野球を。それも素人の三流芝居を。

 日本のプロ野球も、この傾向を追っている。〔以下略〕

虫明亜呂無「芝生の上のレモン」@『時さえ忘れて』162~163頁


時さえ忘れて (虫明亜呂無の本)
虫明 亜呂無
筑摩書房
1991-06T


 >「……だから野球を題材にした劇画『巨人の星』の主人公・星飛雄馬は目から炎が出たりするんですね」。 by 玉木正之


 しかし、この虫明亜呂無の、玉木正之氏の考えは全くおかしい。なぜか……。

 ……例えば、玉木正之氏も、虫明亜呂無も、英国や英連邦諸国(オーストラリアやインド,ニュージーランドなど)に「クリケット」という野球の親戚のような球技があり、高い人気を誇っていることをド忘れしているからである。<2>

野球
【野球(ベースボール)】

クリケット
【クリケット】

日本国某所で行われた「クリケット」の練習風景(2019年)
【日本国某所で行われたクリケットの光景】

 そして、玉木正之氏は日本の野球劇画『巨人の星』(原作:梶原一騎)を、インドのクリケット界に置き換え、翻案したアニメーション「スーラジ ザ・ライジングスター」というテレビ「ドラマ」作品がある……などといった自身に都合の悪い話は無かったことにしている。
  • 参照:スーラジ ザ・ライジングスター:インド版『巨人の星』https://ch.nicovideo.jp/suraj
スーラジ:ザ・ライジングスター
【スーラジ ザ・ライジングスター:インド版『巨人の星』】

 とどのつまり、虫明亜呂無が唱え、玉木正之氏が真面目になって拡散している「アメリカ生まれの球技である『野球』は休みが多い分、観客はそれを純粋なスポーツとしてではなく『人間ドラマ』として楽しんでいる」という仮説は真っ赤なウソである。

 また、『つくられた桂離宮神話』『法隆寺への精神史』などの著作があり、プロ野球・阪神タイガースのファンとしても有名な井上章一氏(建築史家,風俗史研究者,国際日本文化研究センター所長・教授)も、著書『阪神タイガースの正体』の中で「虫明亜呂無の説はあまりにも文学的すぎて社会史の学説として採り入れることは危うい」と警鐘を鳴らしている。

阪神タイガースの正体 (朝日文庫)
井上章一
朝日新聞出版
2017-02-06


阪神タイガースの正体
章一, 井上
太田出版
2001-03T


 あと、これはかなり確かな筋から聞いた話であるが、玉木正之氏が唱えている数々のスポーツ史・スポーツ文化の「学説」(それは虫明亜呂無の所説でもある)は、肝心の日本のスポーツの「学界」からは全く相手にされていない。つまり、デタラメである。

 スポーツファンは、その辺をしっかり「わきまえて」おかなければならない。

(了)




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NHKとプロ野球「江夏の21球」
 日本の公共放送たるNHKが得意とするテレビ番組の分野に「スポーツ名勝負モノのドュメンタリー」がある。

 その代表は、何といっても1979年プロ野球日本シリーズ 近鉄バファローズvs広島東洋カープ最終第7戦を題材にした「NHK特集:スポーツドキュメント~江夏の21球」である。
NHK特集:スポーツドキュメント~江夏の21球
 1979年(昭和54年)の日本シリーズ、広島対近鉄。3勝3敗で迎えたこの第7戦は、両チームにとって初の日本一がかかっていた。土壇場の9回裏、1点を追う近鉄は、無死満塁の逆転サヨナラのチャンスをつかむ。その回、広島・江夏投手が投じた21球を克明に分析。当事者の証言から、観客には見えない選手、監督の心理を緻密に描き、グランドの中で繰り広げられた「人間ドラマ」を再現したドキュメンタリー。

原作:山際淳司 語り:森本毅郎 放送:1983年

NHK特集「スポーツドキュメント~江夏の21球」https://www2.nhk.or.jp/archives/tv60bin/detail/index.cgi?das_id=D0009010278_00000
 この番組は、折に触れては何十回と再放送されている。それどころか既に100回を超えているかもしれない。それほどの人気なので関連会社のNHKエンタープライズ(番組制作やソフト販売)からDVDとしてソフト化、販売もされている。

NHK特集 江夏の21球 [DVD]
NHKエンタープライズ
2010-10-22


 スポーツドキュメンタリーの金字塔、とにかく名番組である。

NHKとラグビー「松尾=釜石vs平尾=同志社」
 ラグビーならば、1984年度ラグビー日本選手権 新日鉄釜石vs同志社大学を題材にした「伝説の名勝負:'85ラグビー日本選手権~新日鉄釜石vs同志社大学」がある。
伝説の名勝負:'85ラグビー日本選手権~新日鉄釜石vs同志社大学
 1985年、1月15日。東京・国立競技場。

 日本選手権7連覇をかけた新日鉄釜石と、史上初の大学選手権3連覇を成し遂げた強豪・同志社大学による、因縁の対決が行われた。

 当時、新日鉄釜石で選手兼監督としてチームを率いていた松尾雄治氏と同志社大学で日本代表選手となった平尾誠二氏が、全試合映像を見ながら当時を振り返り、熱き闘いの真実を解き明かしていく。

出演:松尾雄治(元新日鉄釜石 監督)、平尾誠二(元同志社大学 主将代行)、村上晃一(ラグビージャーナリスト) 放送:2012年

NHK「伝説の名勝負:'85ラグビー日本選手権~新日鉄釜石vs同志社大学」https://www.nhk-ep.com/products/detail/h17840AA
 この「伝説の名勝負」シリーズは、試合を闘った両チームの選手をひとりずつゲストに招き、そのフルタイム動画を見ながら、その舞台裏などを詳しく語り合うという企画である。

 同シリーズでは、1964年東京五輪女子バレーボール決勝「日本vsソ連(ソビエト連邦)」の試合なども放送している。いわゆる「東洋の魔女」である。

 話を戻して、このラグビー「釜石vs同志社」は、ゲストのふたり、松尾雄治氏と平尾誠二氏(故人)が弁が立つ人だったこともあって非常に好評だったようである。この番組もNHKエンタープライズからDVDとしてソフト化、販売されている。

 この他、ラグビーの「伝説の名勝負」としては、1990年度全国大学ラグビー選手権決勝「早稲田大学(ゲスト・堀越正己)vs明治大学(ゲスト・吉田義人)」(いわゆる早明戦)の試合も制作、放送されている。

NHKとサッカー「1968年メキシコ五輪3位決定戦 日本vsメキシコ」
 サッカーで「伝説の名勝負」に採り上げられたのは、1968年メキシコ五輪のサッカー(当時は男子のみ)3位決定戦「日本vsメキシコ」の試合である。
NHKテレビ放送60周年特集「伝説の名勝負:栄光の銅メダル~日本男子サッカーはここから始まった」
 日本人の心に今も強烈に生き続け、〈日本男子サッカーの原点〉とも言われる勝負があります。1968年10月24日メキシコ五輪サッカー3位決定戦「日本vsメキシコ」、日本が2-0で勝利し銅メダルに輝いた試合です。

 日本サッカー界に金字塔を打ち立てたこの試合ですが、国内ではフルタイムで放送されることはありませんでした。しかし、すでに失われ、〈幻〉とされてきたこの歴史的な試合の映像をメキシコで発掘。45年の時を経て、日本で初めてフルタイムの試合を放送します。

 日本にとって、2000メートルを超える高地での試合と、8万人を超える大観衆の大半がメキシコ人というアウェーは、大きなハンデとなりました。しかし、3位決定戦では、攻撃の中心であるストライカー釜本邦茂と、〈20万ドルの左足〉で世界に知られる杉山隆一の2人の世界トップレベルのプレーがメキシコから2点を奪い取ります。

 Jリーグ発足から20周年。日本は2014年W杯出場権を世界に先駆けてつかみ取り、国内のサッカーへの関心は日増しに高まっています。

 番組では、ことし9月の2020年五輪開催地決定を前に、釜本氏と元メキシコ代表選手の2人が自らのプレーを徹底分析しながら観戦します。さらに、両国がどのように試合に挑み、あの勝利が日本に何をもたらしたのか、元選手たちの証言や秘話もドキュメント。〈原点〉と言われる激闘の全貌を明らかにしていきます。

【試合解説者】釜本邦茂×ハビエル・サンチェス(元メキシコ代表選手) 【試合進行】山本浩 元NHKアナウンサー 【放送年】2013年

NHKサッカー伝説の名勝負1968日本vsメキシコ
【番組のホームページから】(リンク先)
 この他、サッカーで「伝説の名勝負」の題材となったのは、1985年メキシコW杯アジア最終予選「日本vs韓国」である。

国内サッカーが名勝負モノ番組にならないサッカー
 野球、ラグビー、サッカー……、3つの球技スポーツとNHKのスポーツドキュメンタリー番組との関係を見ると、ある現象、傾向に気が付く。

 野球でNHKの名勝負モノに採り上げられるのは、プロ野球とか高校野球とかもっぱら日本国内の試合で、日本代表の国際試合は皆無である。
  • 参照:NHK「夏の甲子園:箕島対星稜延長18回~球審が見た激闘」https://www3.nhk.or.jp/sports/story/3010/index.html
 その理由、米国生まれの野球は、複数の国にプロリーグがあるにもかかわらず、英国生まれのサッカーやラグビー(やクリケット)などとと違って、ナショナルチーム(代表チーム)による国際試合や世界大会が全く権威づけられていないスポーツだから……という特殊事情による(この話は回をあらためて書きたいと思う)。

 一方、ラグビーは日本国内の試合とナショナルチームの国際試合、それぞれNHKの名勝負モノに採り上げられる。前掲の「釜石vs同志社」は国内の試合だが、ラグビー日本代表でいえば、2019年ラグビーW杯日本大会に際して、NHKは「BS1スペシャル:50年前日本ラグビーは世界に迫った~1971年伝説のイングランド戦」を制作、放送している。


 いやぁ、これは良い番組だった。

 この他、NHKは、ジャパン(ラグビー日本代表)が初めて主要ラグビー国の代表チームに勝った、1989年の「日本vsスコットランド」戦でも「VICTORY ROAD~勝利への選択」というスポーツドキュメンタリー番組のシリーズの中で採り上げている。

 もともと、この試合をリアルタイムで放送していたのはNHKではなく民放のTBS(東京放送)であった(にもかかわらず……である)。

 1995年頃から2015年頃までラグビー人気はやや低迷期を迎えるが、それでもNHKは国内ラグビーや日本代表の名勝負モノのスポーツドキュメンタリーを制作、放送していた。

 なぜなら、Jリーグ以前(~1993年)、ラグビーは国内の試合の人気と日本代表の国際的活躍度でサッカーに優っており、野球のオフシーズンのスポーツの話題を充足しうる球技スポーツとしてマスコミやスポーツファンの関心を集めていたからである。

Jリーグ以前に触れたがらなくなったNHK
 サッカーに関してはどうか? 意外なことに、NHKが制作、放送する番組はフル代表(A代表)はもとより、女子(なでしこジャパン)、オリンピック代表(23歳以下)、ほとんどが「日本代表」の国際試合や世界大会にかかわるドキュメンタリーばかりなのである。
  • 参照:ヒーローたちの名勝負「28年ぶりのオリンピックへ~若き日本代表の挑戦 アトランタ五輪最終予選・サウジアラビア戦」https://www.tvu.co.jp/program/201302_meishoubu_soccer/
 サッカーとラグビーは、同じ英国の民俗フットボールを祖とする兄弟スポーツである。また、2019年シーズン、J1リーグ(Jリーグ・ディビジョン1)は1試合当たりの平均観客動員が2万人を超えた。これは世界的にはかなり凄い数字である<1>。……にもかかわらず、日本の国内サッカーはNHKのスポーツ名勝負モノの題材にはならないのである。

 その理由も考えだしたらいろいろあるのだろうが、例えば、リーグ戦(Jリーグ)と並ぶ国内サッカーのイベント、「日本一決定戦」であるカップ戦(天皇杯)が、元日決勝という恒例の日程のために(マスコミが休業状態になっているために)、どんなにいい試合をしても、その面白さが人々に伝播することはないという逆効果がある(次のリンク先を参照)。
  • 参照:天皇杯が「元日決勝」を止めると日本サッカーの人気は下がる…はガセネタ(2021年01月15日)https://gazinsai.blog.jp/archives/42827803.html
 もうひとつ、サッカー天皇杯(天皇杯JFA全日本サッカー選手権大会)の後援をしているNHKが、かつて日本で長らくサッカーがマイナースポーツであったことに触れたがらなくなった……という昨今の傾向がある。

 このために、例えば「1991年度 第71回天皇杯全日本サッカー選手権大会決勝 日産自動車vs読売クラブ」のような、アマチュア時代の旧JSL時代からJリーグへの過渡期に行われた熱戦、名勝負が全く顧みられないという残念な風潮になっている(次のリンク先を参照)。
  • 参照:日産vs読売~サッカー天皇杯1991年度決勝こそ「伝説の名勝負」だ!(2021年01月31日)https://gazinsai.blog.jp/archives/42953085.html
 当ブログは、この試合をNHKの名勝負モノのスポーツドキュメンタリー番組として再構成し、放送することを希望するものである。

Jリーグ30周年の記念番組として…
 1991年度(1992年元日=1月1日開催)のサッカー天皇杯決勝「日産自動車vs読売クラブ」を、NHKのスポーツドキュメンタリー「伝説の名勝負」みたいな番組でフルタイムで見たい。後者の場合はゲストに木村和司氏(日産)とラモス瑠偉氏(読売)<2>、司会は山本浩 元NHKアナウンサーという感じで……。

1991年度サッカー天皇杯決勝:日産vs読売
【1991年度サッカー天皇杯杯決勝:日産vs読売】

 煽り文句は、マイナーだった日本サッカーは、ここから一躍メジャースポーツになった! ……というのがいい。そういえば、来たる2023年はJリーグのスタートから30周年になる。その記念の特別番組としてはちょうどいいのではないか。

 NHKがこれらの試合を再評価することは、日本の国内サッカーのみならず、NHKにとっても利益になる。

 2021年1月30日、NHK総合テレビは往年の歌手でアイドルの山口百恵の引退コンサート(1980年10月8日)をフルタイムで放送した。SNSではかなりの盛り上がりだったようだ。

 何かと思ったら、NHKの関連会社のNHKエンタープライズで、山口百恵のコンプリート版CDやブルーレイディスクを売り出しているからだと合点した。
  • 参照:NHKエンタープライズ「CD 山口百恵 コンプリート百恵伝説 全6枚セット」https://www.nhk-ep.com/products/detail/h15277B1
 自局番組で自局コンテンツをステマするのはNHKだから出来ることだ。

 NHKが、1991年度(やその翌年の1992年度)の天皇杯決勝「日産vs読売」の試合を再評価し、ドキュメンタリー番組として放送することは、日本の国内サッカーへの再活性化への「仕掛け」をするだけでなく、NHKエンタープライズによるソフト販売にもつながる。

 NHKは、サッカー天皇杯の後援をし、放送もしているのに、その素材を充分に活かしきっていない。それは非常にもったいない話だと思った。

(了)




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