スポーツライター玉木正之氏の知的誠実さを問う

日本のサッカーカルチャーについてさまざま論じていきたいと思っています。

玉木正之はデタラメである。セルジオ越後のサッカー評論はパワハラである。
中田英寿はワールドクラスではない。大谷翔平の二刀流は珍記録にすぎない。
本田圭佑は二代目中田英寿である。天皇杯は元日決勝を卒業するべきである。
今福龍太や細川周平の現代思想系サッカー批評は贔屓の引き倒しでしかない。etc.

 1993年以前、Jリーグが出来る前、日本のスポーツファンの間では、よくこんな会話が交わされていた。

 実は、世界最大のスポーツの祭典ってオリンピックじゃないらしいんですよ。

 ええッ!? それって本当ですか? オリンピックじゃなかったら、いったい何が世界最大のスポーツの祭典になるのですか?
(1)世界最大のスポーツの祭典はオリンピックではなくサッカーのワールドカップである!?
 ……という話は、2022年の現在では日本でも常識となっている。

うなだれるウーベ・ゼーラー(1966W杯決勝にて)
【1966年W杯決勝戦終了直後.西ドイツ代表ウーベ・ゼーラー(中央)】

 しかし、かつて日本においてサッカーはマイナースポーツであった。サッカー日本代表のワールドカップ本大会出場は夢のまた夢だと思われていた。

 そんな、日本人に縁遠いサッカー・ワールドカップは、普通の日本人には理解不能な、何かトンデモない物凄いイベントであることが誇張されて語られてきた。いわば「ワールドカップ神話」である。例えば……。
(2)サッカーは世界で最も人気のある、人々を熱狂させるスポーツである。特にワールドカップは世界中の人々を熱狂させる。その熱狂のあまり死人が出る!?
 この「死人が出る」話は、かつて日本のスポーツメディアでまことしやかに語られてきた。この神話の由来は、1950年ブラジル・ワールドカップで起こった「マラカナンの悲劇」ではないだろうか?

 マラカナンの悲劇とは、ウィキペディア日本語版に従えば、大会最終戦、地元ブラジル代表がワールドカップ優勝を逃すと「会場は水を打ったように静まり返り,自殺を図る者まで現れた.結局2人がその場で自殺し,2人がショック死,20人以上が失神しブラジルサッカー史上最大の事件となった」とある(2022年5月20日閲覧)。

 たしかに、これ自体は物凄い話ではあるのだけれど。

 だが、2022年カタールワールドカップで、日本代表も7回連続してワールドカップ本大会に出場するようになった。その分、サッカー関連の報道も増えたが、世界各国でワールドカップに熱狂するあまり「死人が出た」という話はあまり聞かない。<1>

 やはり、マラカナンの悲劇の逸話が誇張されて伝わったのではないか?
(3)サッカー王国ブラジルの刑務所では、囚人たちにワールドカップのブラジル代表の試合だけはテレビで視聴させる。そうしないと、囚人たちが暴動を起こす!?
 ……という話をどこかで聞いたが、真偽不明。一方……。
(4)サッカー王国ブラジル、ワールドカップでブラジル代表の試合がある時は、ブラジル大統領は居住まいを正して官邸の執務室でテレビ観戦する習わしになっている!?
 ……こちらの話の方は、どうやら本当らしいのである。1990年のイタリア・ワールドカップの時、週刊誌『朝日ジャーナル』にその逸話が出てくる。この記事を書いた朝日新聞の特派員曰く「ブラジルではサッカーが全てに優先する」。
(5)ワールドカップが開催されると、人々がサッカーに熱狂するあまり仕事に関する集中力を欠くようになる。だから、特にサッカーが盛んな国々では、その期間GNP(GDP)が下がる!?
 この話の元ネタは、米国の政治学者で外交政治家、ドイツ出身のサッカー狂、ヘンリー・キッシンジャーのエッセイである<2>。これも真偽不明。飲食などサービス系の指標はワールドカップの期間中は伸びそうな気がするんだけれど。

 まあ、キッシンジャーのような世界的なセレブリティが熱心なサッカーファンで、直々にワールドカップの観戦に訪れるという話も、日本では、実はサッカーが凄いスポーツ、ワールドカップが凄いイベントであるという証左とされてきたのであった。

 いずれにせよ、サッカー・ワールドカップが世界最大のスポーツのイベントであることに変わりはない。

(了)




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 書評とブックガイドの専門月刊誌『本の雑誌』、2022年4月号の特集は「スポーツ本の春!」で、その目玉が座談会「スポーツ本オールタイムベスト50が決定!」であった。
  • 参照:『本の雑誌』2022年4月号(特集 スポーツ本の春!)https://www.webdoku.jp/honshi/2022/4-220303152432.html

本の雑誌466号2022年4月号
本の雑誌社
2022-03-10


 野球、サッカー、格闘技、陸上競技……。ところが、驚いたのはこのベスト50の中に「ラグビー」の本が入っていなかったことである。しかも、記事にも言及がなかった。

 これには「日本ラグビー狂会」を名乗るラグビー評論家の中尾亘孝(なかお のぶたか)<1>も不満だったようだ(次のツイート参照)。


 なぜ驚いたかというと、ラグビーは、日本のスポーツ界において歴史的にも一定のステータスを誇ってきたからだ。Jリーグ(1993年~)以前はサッカーよりも人気があったくらいだし、ラグビー関連書籍も良書が沢山あったからだ。

 文春ナンバーは、ラグビーブームにあった1980年代、盛んにラグビー特集を組んだ……。
  • 参照:Sports Graphic Number 88号 ラグビー・男の季節(1983年11月19日発売)https://number.bunshun.jp/articles/-/454
 2019年には、日本でラグビーW杯を開催、大変な盛況だった……。

 ……にもかかわらず、『本の雑誌』のスポーツ本特集にラグビー本がなかったのである。

 大西鐵之祐(おおにし てつのすけ)の『闘争の論理』。そして……。

 藤島大の『知と熱』くらいはベスト50に入ってもよさそうなものを。

 確かにこれは解せない。

☆★☆★☆★☆★

 要は、日本は長らく野球の国だった(過去形)ので、『本の雑誌』あたりがスポーツ本ベストの特集を組むと、どうしても野球の本が多くなる。加えてサッカーが台頭してきたりすると、サッカー本も多くなり、ラグビー本は省かれてしまう……のかもしれない。

 その分、例えば省かれたラグビーファンからは不満が出る。

 これに比べると、本邦スポーツライティングの「傑作スポーツアンソロジー」を編むのに、野球(『9回裏2死満塁』)と、それ以外のスポーツ(『彼らの奇蹟』)とを分けて刊行した……。

 ……玉木正之氏と新潮社はずいぶん賢明な判断をしたと思う。

(了)




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サッカー版「江夏の21球」(!?)こと『28年目のハーフタイム』
 書評とブックガイドの専門月刊誌『本の雑誌』、2022年4月号の特集は「スポーツ本の春!」で、その目玉が座談会「スポーツ本オールタイムベスト50が決定!」であった。
  • 参照:『本の雑誌』2022年4月号(特集 スポーツ本の春!)https://www.webdoku.jp/honshi/2022/4-220303152432.html

本の雑誌466号2022年4月号
本の雑誌社
2022-03-10


 驚いたのは、このベスト50の名著の中でも選りすぐりの「金字塔」(いわば「殿堂」入り)のカテゴリーに、山際淳司の『スローカーブを、もう一球』(「江夏の21球」所収)や、沢木耕太郎の『敗れざる者たち』と並んで、金子達仁の『28年目のハーフタイム』が選ばれていたことだ。

敗れざる者たち (文春文庫)
沢木 耕太郎
文藝春秋
2021-02-09


28年目のハーフタイム (文春文庫)
金子 達仁
文藝春秋
2012-09-20


 え゛~~~~~~~~~~ッ!

 しかも『本の雑誌』2022年4月号は、『28年目のハーフタイム』のことを「『江夏の21球』のサッカー版」とまで絶賛するのだ。

 え゛~~~~~~~~~~ッ!

 ……と、こういう反応が出てくるのは、『28年目のハーフタイム』の著者・金子達仁氏が、コアなサッカーファンから見て毀誉褒貶の激しい人だからである。いわゆる「電波ライター」だからである。

「電波ライター」とは何者か?
 WEB上にある情報によると「電波ライター」とは次のような人々である。
電波ライター【でんぱらいたあ】[名](海外サッカー板)
 一般的定義として、「取材を元にした記事を書かず、第三者からの伝聞や自分の脳内で完結した結論を、自分の好悪や感情をそのままに捏造、妄想、邪推などを盛り込んで記事を書く」ライターのことを指す言葉。主にサッカー評論家に多く、スポーツ新聞や自身のWEBサイトで日本代表等に対するネガティブキャンペーンを張り、2ちゃん(2ちゃんねる,現5ちゃんねる)をはじめとするサカヲタの反発と突っ込みを受けている。
 これを、サッカーに絞り込んでみると……。
  1.  サッカーライター・評論家として極めてバランスを欠いた発言や評価をする。
  2.  「厳しい批判」と称して、ひたすら日本のサッカーを貶める。特に日本代表が負けたらこれを過剰に貶め、勝ったら勝ったでこれを不当に貶める。
  3.  同じく「厳しい批判」と称して、フィリップ・トルシエ、加茂周、岡田武史など、日本サッカーに関わる特定の人物をひたすら否定し(正しい意味での「批判」とは言えない)、一定の成果を上げた後もこれを認めることがない。
  4.  反対に、自分と仲の良いサッカー関係者には評価が甘くなり、提灯持ちとなって、これをダシにして他を否定するところがままある。
 ……等々、こんなところだろうか。

 金子達仁はこの電波ライターの代表的人物とされてきたのである。

『28年目のハーフタイム』でも金子達仁は電波を発している
 金子達仁は、フリーになる前の「サッカーダイジェスト」記者時代、ガンバ大阪担当の頃から既に電波ライターだったという説がある。少なくとも「ドーハの悲劇」の時点では電波ライターだった。その電波ライターぶりは『金子達仁べストセレクション〈1〉 激白』に収録されている<1>

 『28年目のハーフタイム』は、まったくの悪書と言い切るのは難しい。でも、まったくの良書と言い切るのも難しい。抑制は効いているが、しかし、やっぱり金子達仁はこの著作のアチラコチラで電波を発している。

 アトランタ五輪世代とそれ以前のドーハの悲劇世代、サッカー日本代表の世代による断絶を無駄に煽った。中田英寿が増長するキッカケを作った。怪しげな日本人論・日本文化論などさまざまな謎理論で日本のサッカーを論評するようになった……

 ……等々、そうした電波ライター的発言を外して『28年目のハーフタイム』を一面的に絶賛するというのはあり得ない。

 とにかく、スポーツファン、サッカーファンの読書人は、『本の雑誌』の言うことを鵜呑みにはしない方がいいと思う(文中敬称略)。

(了)




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